コラム・ブログ

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2025年7月20日

「“あぐらがかけない”のはなぜ?それ、股関節の異常かも」

ハイライト

「あぐらがかけない…」それは体が教えてくれる異常のサインかもしれません。股関節の柔軟性や骨格の変化、筋肉の緊張、さらには腰痛や姿勢にもつながる可能性も。原因とリハビリ、職業との関連性までわかりやすく解説します。

目次

あぐらとはどんな姿勢?

あぐらは、両足の裏を外側に向けて膝を左右に開き、股関節を外旋(がいせん)・屈曲させた状態で床に座る姿勢です。古くは和室文化や正座に代わる姿勢として親しまれ、現代ではリラックス姿勢やヨガの「安楽座」としてもよく知られています。

この姿勢を取るには、股関節が「外旋」「屈曲」「外転」できること、さらには骨盤の前傾・背筋の伸展も必要になります。つまり、あぐらができるというのは、股関節の柔軟性や骨盤・腰椎の可動性、筋力バランスが保たれている証拠ともいえるのです。

なぜあぐらがかけないのか?主な原因を解説

あぐらが困難な主な原因のひとつは「股関節の可動域制限」です。加齢や運動不足、変形性股関節症などにより、股関節が屈曲・外旋しにくくなると、膝が床につかなくなり、姿勢を保てません。

股関節周囲の筋肉、特に内転筋、腸腰筋、大殿筋、外旋六筋などが硬くなると、股関節の動きが妨げられます。また太ももの前面(大腿四頭筋)や裏面(ハムストリングス)が緊張していると、骨盤の傾きが悪くなり、腰や膝に負担が集中してあぐらが困難になります。

先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全)や寛骨臼形成不全などの先天的な構造の問題があると、関節のはまりが浅くなり、痛みや違和感があぐら姿勢で生じることがあります。

比較的若い世代でも、股関節インピンジメント(股関節の骨同士がぶつかる状態)があると、屈曲や外旋の動きに制限が生じ、あぐらでの動作で痛みが誘発されることがあります。

↑骨の構造的な異常(臼蓋形成不全では将来的に変形性股関節症のリスクが増加)

あぐらがかけない人が抱えやすい体のトラブル

  • 腰痛との関連

あぐらがかけない人は、骨盤の可動性が低いことが多く、椅子や床での座位姿勢が崩れがちです。その結果、長時間の座位で腰部に負担がかかり、慢性的な腰痛を引き起こすケースがあります。

  • 姿勢の崩れと背骨への影響

骨盤が後傾しやすくなると、猫背や巻き肩の原因になります。これが持続すると、胸椎や頸椎の可動性低下にもつながり、肩こりや頸部痛、さらには頭痛を引き起こすこともあります。

  • 膝関節への負担

無理にあぐらをかこうとすると、膝の外側に強い張力がかかり、半月板や靭帯に負担を与えるリスクも。膝が痛む方は特に注意が必要です。

 

職業や生活習慣との関係、腰痛との関連性

  • 腰痛が生じやすい職業と股関節の関連

デスクワークや運転業務、介護職など、長時間座位や中腰姿勢が多い職業では、股関節と腰部に強い負担がかかります。特に介護職では、利用者の移乗や体位変換などで中腰姿勢が多く、股関節の可動性が低いと腰への代償運動が生じ、腰痛が悪化しやすい傾向にあります。

  • 労働災害と腰痛の背景

厚生労働省の労働災害統計によれば、腰痛は労災全体の中でもっとも多い疾病の一つであり、その背景には身体機能の低下や柔軟性の欠如が関与しています。股関節の可動域低下も、動作中の姿勢補正を妨げ、腰部を酷使させる要因のひとつです。

  • 日常生活でのリスク

日頃から床に座る習慣がない、運動不足が続いている、姿勢が悪い、などの生活習慣も股関節の可動域を狭める要因になります。特に現代人は椅子文化に慣れており、和式生活に比べ股関節を動かす頻度が少ないため、あぐらをかく機会自体が減少しており、それに比例して関節や筋肉の柔軟性も失われがちです。

 

整形外科での評価とリハビリテーションのすすめ

  • 股関節の可動域や柔軟性の評価

整形外科では、股関節の屈曲、外旋、内旋などの可動域を評価し、必要に応じてX線やMRI、超音波検査などを行って構造的な問題がないかを確認します。

  • 適切なリハビリプログラムの重要性

評価結果に基づき、ストレッチや関節モビライゼーション、体幹・骨盤の安定化トレーニングを組み合わせたプログラムを行うことで、あぐらがかける柔軟な身体を取り戻すことが可能です。

 

【主なリハビリ内容】

◾️股関節外旋筋のストレッチ(梨状筋・外閉鎖筋など)

◾️腸腰筋・大腿直筋の柔軟性向上

◾️骨盤の前傾をサポートする体幹トレーニング

◾️股関節モビライゼーション(関節周囲の手技療法)

◾️正しい座位姿勢の指導

正しい座り方のイメージ

  • 痛みがある場合の対応

痛みを伴う場合、無理にストレッチを行うことは禁物です。関節や軟部組織の炎症、FAI、変形性関節症の可能性もあるため、まずは診察を受け、画像診断で状態を把握することが必要です。

  • 日常で取り入れたい予防習慣

◾️椅子と床座のバランスを取る

◾️毎日のストレッチルーティンを確立する

◾️適度なウォーキングで股関節に刺激を与える

◾️あぐら姿勢で短時間ずつ慣らす練習をする

参考文献

1)中村耕三 他: 股関節疾患のリハビリテーション. 理学療法ジャーナル. 56(5): 453-460. 2022.

2)日本整形外科学会: 変形性股関節症診療ガイドライン. 南江堂. 2020.

3)厚生労働省: 労働災害統計年報. https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/saigai

4)Yamamoto T, et al. Femoroacetabular Impingement: Diagnosis and Treatment. J Orthop Sci. 25(3): 383-390. 2020.

5)齋藤昭彦: 股関節可動域と姿勢の関係性. 整形外科リハビリテーション. 40(4): 291-297. 2021.

 

 



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