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2025年6月10日

「姿勢が悪いと呼吸も浅くなる?猫背と自律神経の関係」

ハイライト

猫背の姿勢は呼吸の浅さや自律神経の乱れを招き、慢性的な疲労や不調の原因となります。本コラムでは、姿勢・呼吸・自律神経の密接な関係をわかりやすく解説し、整形外科でのリハビリテーションの重要性や、日常生活での改善ポイントも紹介します。

目次

姿勢と呼吸の関係〜猫背が呼吸に与える影響とは

猫背になると、背中が丸まり胸郭が圧迫されます。胸郭の柔軟性が失われると、呼吸時に必要な肋骨や胸部の動きが制限され、肺が十分に膨らみにくくなります。特に肋間筋や横隔膜の動きが阻害され、自然と浅く速い「胸式呼吸」へと偏っていきます。

浅い呼吸では肺に取り込む酸素量が減少し、全身の代謝効率が低下します。特に脳への酸素供給が不足すると、集中力の低下や眠気、だるさなどが起こりやすくなります。また、過呼吸に近い状態となり、血液中の二酸化炭素が過度に排出され、体のバランスが崩れることもあります。

猫背ではお腹が圧迫され、横隔膜が十分に下がらなくなります。これにより腹式呼吸ができず、深い呼吸が難しくなります。横隔膜には副交感神経が関与しており、深い呼吸をすることでリラックスモードに切り替える信号を体に送る役割もあります。

自律神経とは?その働きと猫背の関係

自律神経は、交感神経(活動・緊張時)と副交感神経(休息・回復時)から構成され、心拍・血圧・消化・呼吸・発汗などを自動調整しています。バランスが取れていると健康な状態が保たれますが、片方が優位に偏ると体調不良を引き起こします。

前かがみの姿勢は防御的な体勢であり、身体が「緊張状態」と誤認します。このため交感神経が活性化し、心拍数や血圧が上昇します。緊張・焦り・不安といった心理状態が長引きやすくなり、リラックスできない状態が続きます。

副交感神経は、深くゆっくりとした呼吸により優位になります。しかし猫背ではその深い呼吸が困難なため、副交感神経が働きにくくなります。その結果、睡眠障害、消化不良、慢性的な疲労感、不安感などの不調が現れます1)

長期にわたる猫背や呼吸障害は、自律神経失調症の引き金となります。症状には以下が含まれます:

◾️頭痛や肩こり

◾️不眠や中途覚醒

◾️めまい・動悸

◾️消化器不調(胃もたれ、下痢、便秘)

◾️不安・抑うつ傾向

日常生活に大きな影響を与えるため、早期の対処が重要です。

姿勢の崩れが引き起こす全身への影響

姿勢の崩れは呼吸や自律神経だけでなく、身体全体にさまざまな悪影響を及ぼします。

  • 筋骨格系への影響

◾️肩こり・腰痛:姿勢保持筋の緊張が続く

◾️頸椎や腰椎の負担増:椎間板や関節への圧力が偏る

◾️可動域の低下:胸椎・肩甲骨周囲の硬さ

  • 内臓機能への影響

◾️消化不良:内臓が圧迫され、胃腸の働きが低下

◾️呼吸器機能低下:肺活量の減少、口呼吸の習慣化

◾️便秘や膀胱トラブル:腹部の圧迫と骨盤底筋の機能低下

  • 高齢者の円背と転倒リスク

高齢者では、猫背が進行すると「円背」となり、歩行時のバランスが悪化。歩幅が狭くなり、つまずきや転倒のリスクが高まります。骨粗鬆症を伴う場合、圧迫骨折によってさらに悪化の悪循環に陥ることがあります。

整形外科で行う姿勢改善と呼吸へのアプローチ

整形外科では、姿勢・呼吸・自律神経のバランスを取り戻すために、リハビリテーションによる包括的なアプローチを行います。

  • 呼吸筋トレーニング

横隔膜や肋間筋を刺激する呼吸訓練を通じて、腹式呼吸を促進します。スーハー運動やバルーンブローなどが取り入れられ、呼吸効率の改善と副交感神経の活性化を図ります。

  • 姿勢保持筋の強化

背筋(脊柱起立筋群)、肩甲骨内転筋、腹横筋など、体幹を支える筋力のトレーニングを行い、自然な姿勢を維持しやすくします。

  • 胸郭と胸椎のモビリティ改善

胸椎の可動域や胸郭の柔軟性を取り戻すことで、呼吸に必要な動作がスムーズになります。ストレッチやモビライゼーションなどを活用します。

  • バイオフィードバックの活用

姿勢センサーや呼吸センサーを用いて、正しい姿勢と深い呼吸を「見える化」し、患者自身の意識と感覚を高める指導が行われています2)

日常生活でできる猫背予防とリハビリのポイント

整形外科の指導と併せて、日常生活でも以下の習慣を意識することで、姿勢と呼吸、自律神経の状態を改善できます。

  • 姿勢を意識した座り方

◾️骨盤を立てて座る(坐骨で座る)

◾️背もたれを有効活用

◾️足裏をしっかり地面につける

◾️デスク・モニターの高さ調整(目線と同じ高さに)

  • 深呼吸の習慣づけ

1日数回、意識的に腹式呼吸を行いましょう。4秒吸って、8秒かけて吐くといった「長く吐く呼吸」が副交感神経を活性化します。

  • 胸を開くストレッチ

◾️バンザイストレッチ

◾️ドアフレームを使った胸開き

◾️肩甲骨を寄せる運動

胸郭が開くと自然と深い呼吸がしやすくなり、姿勢も改善されます。

  • 軽い筋力トレーニング

◾️プランク

◾️肩甲骨寄せ運動

◾️体幹トレーニング

継続することで、姿勢を支える筋肉が強化され、無理なく正しい姿勢が身につきます。

 

参考文献

1)Kamei T: Posture and Autonomic Nervous System. J Jpn Mibyou System Assoc. 18(1): 3-8. 2012.

2)Bordoni B et al: Posture and breathing: An interaction influencing musculoskeletal and cognitive function. J Multidiscip Healthc. 2016; 9: 11-20.

3)Hodges PW et al: Postural and respiratory functions of the abdominal muscles. Clin Biomech. 2001; 16(6): 485-493.

4)齋藤眞弘: 姿勢と自律神経調整. 自律神経. 47(3): 229-234. 2010.

5)日本呼吸理学療法学会: 呼吸と姿勢の理学療法アプローチ. 呼吸理学療法ジャーナル. 2018.



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