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2025年5月19日

「朝の“あくび”や“伸び”には意味がある? 体が目覚めるメカニズム」

ハイライト

朝に自然と出る「あくび」や「伸び」には、身体を目覚めさせるための科学的な意味があります。本コラムでは、それらの動きが神経・筋肉・骨格にどのように影響し、整形外科的な視点でどのような役割を果たしているのかを解説し、リハビリテーションへの応用についても詳しく紹介します。

目次

朝に「あくび」や「伸び」をしたくなるのはなぜ?

朝目が覚めたとき、多くの人が無意識にあくびをし、同時に両腕を上に伸ばして体全体を広げるような動きをします。この一連の動きは、専門用語で「パンディキュレーション(Pandiculation)」と呼ばれ、哺乳類に広く見られる自然な行動です。

 

この動きには、以下のような意味があります。

睡眠中、筋肉や関節は比較的固定された状態にあり、神経系も「休息モード」にあります。パンディキュレーションは、この神経系のスイッチを切り替え、「覚醒モード」に移行するきっかけを作ります。

寝ている間に筋肉が硬直したり、血流が滞ったりすることがありますが、伸びをすることで筋肉が引き伸ばされ、血流が改善します。

長時間横になったことで崩れていた姿勢を正すためにも、全身を伸ばす動作は重要です。

 

このような動作は、本能的なものではありますが、日中の活動をスムーズに行うための「生体の準備動作」とも言えるのです。

神経系と筋骨格系が目覚めるメカニズム

睡眠から覚醒への移行は、脳の覚醒系(特に視床・視床下部・脳幹の網様体)によってコントロールされています。これらの部位は、交感神経系を活性化させ、筋緊張や血流を上昇させます。

また、筋肉や腱、関節に分布する固有受容器(筋紡錘や腱紡錘)は、姿勢や動きを感知して、脳に情報を送ります。伸びをすることでこれらの感覚器が刺激され、運動の調整機能が起動します。

このように、あくびや伸びは単なる「眠気覚まし」ではなく、神経―筋―骨格系が連携し、全身を覚醒へと導くメカニズムの一部なのです。

ストレッチングとしての“朝の伸び”の生理的効果

朝の伸びは、整形外科的には静的ストレッチに近い動作であり、以下のような生理的効果があります。

  • 筋肉の柔軟性の向上

長時間の不動状態により短縮していた筋肉を伸ばすことで、柔軟性が回復します。

  • 血流の促進

筋肉を伸ばすことで、毛細血管が開き、局所の血流が増加します。これにより、酸素と栄養の供給が促され、老廃物の排出もスムーズになります。

  • 関節可動域の拡大

特に寝起きの関節は硬くなりがちですが、ゆっくりとした伸びによって、関節包や靱帯が適度に伸び、関節の動きやすさが回復します。

  • 副交感神経から交感神経への移行の手助け

起床直後は副交感神経優位の状態から交感神経への切り替えが必要ですが、筋収縮と呼吸変化を伴う「伸び」はこのスイッチを円滑にします。

これらはリハビリテーションでも応用されており、例えば脳卒中後のリハビリでは「姿勢の再学習」や「筋トーンの調整」に利用されます。

リハビリテーションと“伸び”の共通点

整形外科リハビリテーションにおいて、動作の再教育拘縮予防筋出力の再獲得は非常に重要な要素です。朝の自然な「伸び」の動作は、これらと多くの共通点を持ちます。

  • 関節可動域訓練(ROMエクササイズ)との類似性

拘縮や関節硬化を防ぐために、受動的あるいは能動的に関節を動かす訓練が行われます。朝の伸びでは、自然と肩関節や股関節、脊柱が全方向に動くため、ROM維持のためのヒントになります。

  • 固有感覚刺激の活用

バランス訓練や歩行訓練では、関節や筋からの感覚入力が重要です。朝のストレッチは、これらの感覚器を効果的に刺激し、身体の“位置情報”の感覚を整える役割があります。

  • 筋の協調性の再獲得

四肢の「伸び」の動作は、主動筋と拮抗筋のバランスを整え、全身の筋協調性を回復させるためのリハビリ戦略と共通します。

  • 姿勢制御の基礎練習

脊柱起立筋や肩甲帯の安定性を高めるための運動は、猫背・円背などの予防にもなります。これは朝の「伸び」にも通じる動きです。

毎朝をより良いスタートにするためのセルフケア

朝の伸びやあくびの動作を“ただの習慣”で終わらせるのではなく、意識的に行うことで、より良い一日のスタートが切れます。以下にセルフケアの提案を示します。

  • 起床後のルーチンストレッチ(所要時間3~5分)
  1. ベッドの上で仰向けになり、両腕と両足を遠くに伸ばす
  2. ゆっくりと背伸びを3回繰り返す
  3. 膝を抱えて左右にゆらゆら揺れる
  4. 横向きで体を丸めるようにしてから起き上がる
  • 深呼吸と連動させる

呼吸と動作を連動させることで、自律神経への作用が高まり、交感神経優位への切り替えがよりスムーズになります。

  • 高齢者・関節疾患患者への指導ポイント
  1. ベッドサイドでの座位ストレッチから開始
  2. 伸びきる動作を無理に行わず、痛みのない範囲で実施
  3. 呼吸を止めないことを強調
  4. 毎日行うことで筋肉や関節のコンディションを維持

整形外科リハビリテーションにおいても、起床直後の動作を評価することで、ADL改善の指標としたり、家庭内運動プログラムに組み込んだりすることが推奨されます。

当院では、リハビリテーションでのセルフケアを行っています。

Instagramでもストレッチなど投稿してるのでぜひチェックしてみてください!!

 

参考文献

1)藤田洋: パンディキュレーションの神経生理学. 臨床神経生理. 61(4): 254-259, 2021.

2)森本尚樹ら: 睡眠と覚醒における自律神経の調節. 日本自律神経学会雑誌. 57(2): 90-96, 2010.

3)中村俊一: リハビリテーションにおける固有受容感覚刺激の役割. 理学療法学. 43(5): 487-493, 2016.

4)山田一彦: 起床時ストレッチによる筋骨格系の生理的反応. 整形外科とリハビリテーション. 35(3): 210-217, 2018.

5)国際生理学会: Sleep and Pandiculation: A neuromechanical perspective. Physiology Journal. 101(6): 1209-1220, 2019.

 



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