コラム・ブログ

コラム・ブログ

2025年10月27日

「朝食を抜く」と体はどうなる? 代謝・集中力・骨代謝への影響

ハイライト

「朝食抜き」は忙しい現代人によく見られる習慣です。しかし、朝食を抜くことで代謝のリズムが乱れ、集中力や血糖コントロール、さらには骨の健康にも悪影響を及ぼすことがあります。本コラムでは、朝食の持つ生理的役割、脳や筋肉、骨代謝への影響を整形外科的視点から詳しく解説します。

目次

朝食の役割とは?──体を「起こす」最初のスイッチ

特に、朝食をとることで以下の生理反応が起こります。

◾️体温の上昇:代謝酵素が活性化される

◾️血糖の上昇:脳や筋肉へのエネルギー供給が安定

◾️自律神経の活性化:交感神経が働き始め、集中力が高まる

これらはすべて「朝から動ける体」をつくるための基本反応です。

つまり、朝食を抜くことは、エンジンをかけずに車を走らせるようなもの。効率の悪い1日のスタートになってしまいます 。

朝食を抜くとどうなる?──代謝リズムの乱れと体への影響

朝食を抜くと、体は「飢餓モード」に入り、代謝を抑える方向へ働きます。結果として体温が上がりにくく、午前中の活動効率が低下します。長期的には、基礎代謝が落ち、肥満や冷え性の原因にもなります。

空腹時間が長く続いた後に昼食をとると、血糖値が急上昇し、インスリンが過剰に分泌されます。この「血糖スパイク」は動脈硬化や糖尿病リスクを高めることが知られています(1)。

特に、糖尿病や脂質異常症の既往がある方は、朝食を抜く習慣が長期的に血管機能を悪化させる可能性があります。

朝食を抜くと、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が持続的に高まり、筋肉分解(カタボリズム)や骨吸収が促進されるといわれています(2)。これにより、筋力低下や骨密度低下が進行するおそれがあります。

集中力とメンタルへの影響──脳のエネルギー不足がもたらすもの

脳は体全体のエネルギーの約20%を消費します。特にブドウ糖は脳の唯一の主要燃料です。

朝食を抜くと血糖値が低下し、脳がエネルギー不足に陥ります。その結果、次のような症状が出やすくなります。

◾️集中力や記憶力の低下

◾️判断スピードの鈍化

◾️イライラ感・倦怠感の増加

 

国内外の研究では、朝食を摂取する子どもほどテストの成績や注意力が高いという結果も報告されています(3)。これは、朝食が脳内の神経伝達物質バランスを整え、精神的安定にも関与しているためと考えられています。

 

整形外科クリニックの現場でも、集中力の低下や疲労感が持続して姿勢が悪化し、肩こり・腰痛を訴えるケースが少なくありません。これは単に筋肉の問題ではなく、全身の代謝や自律神経バランスの乱れが背景にあるといえます。

骨や筋肉への影響──朝食と骨代謝の関係

  • 骨代謝リズムの乱れ

骨は常に「破骨」と「骨形成」を繰り返していますが、このリズムも体内時計に支配されています。朝の食事刺激がないと、カルシウム吸収や骨形成を促すホルモンの分泌が低下し、骨代謝のリズムが乱れます(4)。

  • カルシウム吸収の低下

朝食を抜くと、1日のカルシウム摂取量が不足しがちになります。さらに、食事間隔が空くことで胃酸分泌が減り、カルシウム吸収率そのものも低下します。

これは骨粗鬆症や骨折リスクの上昇につながるため、整形外科の観点からも重要な注意点です。

  • 筋肉量への影響

朝食を抜くと、筋肉のエネルギー源であるアミノ酸供給が滞ります。結果的に、筋タンパク合成が抑制され、長期的には筋力低下・サルコペニア(加齢性筋減弱)のリスクが高まります。

特に高齢者では、「朝食+軽い運動(朝の散歩)」を組み合わせることで、筋肉・骨・関節すべての健康が維持しやすくなります(5)。

忙しい朝でもできる“朝食習慣”のコツ

「食べたほうがいいのはわかっているけれど、時間がない」という方のために、簡単にできる朝食習慣の工夫を紹介します。

  • “3分朝食”から始める

おにぎり+牛乳、バナナ+ヨーグルトなど、咀嚼を伴う軽食でOKです。胃腸を刺激し、代謝を起こすだけでも十分効果があります。

  • タンパク質を意識する

卵・納豆・豆乳・チーズなどを取り入れると、筋肉・骨代謝が安定します。

  • 水分補給を忘れずに

起床直後のコップ一杯の水は、代謝を促進し、血流を改善します。

  • 朝食を“生活リズムの一部”にする

毎日同じ時間に食べることで、体内時計が整い、夜の睡眠リズムも改善します。

 

整形外科的にも、朝食をしっかり摂ることで、姿勢保持筋の働きが安定し、日中の腰痛・肩こり予防にもつながります。

参考文献

1)Okada Y, et al: Breakfast skipping and metabolic health. Nutrients. 12(12): 3858. 2020.

2)富永真理, 他: 朝食欠食とホルモン分泌リズムの関連. 日本内分泌学会雑誌. 95(3): 221–228. 2019.

3)Murphy S, et al: Breakfast consumption and cognitive performance. Br J Nutr. 123(6): 753–761. 2020.

4)高橋洋介, 他: 骨代謝と体内時計の相互関係. 日本骨代謝学会雑誌. 37(2): 101–109. 2020.

5)Kinoshita H, et al: Morning nutrition and physical activity enhance muscle and bone health in elderly. J Bone Miner Metab. 39(4): 512–520. 2021.

 

 

 



一覧へ