
ハイライト
“突き指=軽症”ではありません。多くはPIP関節の捻挫ですが、マレットフィンガー(伸筋腱損傷)、中央帯損傷(ボタン穴変形の原因)、ジャージーフィンガー(FDP腱断裂)、関節内骨折・脱臼などは適切な初期固定と診断を逃すと変形・拘縮・握力低下が残ります。冷却はあくまで腫れの応急処置。「固定すべき部位は固定」「動かすべき関節は早期に安全域で動かす」が原則です。
目次
突き指とは?―“冷やせばOK”ではない理由
- 日常語としての“突き指”は、指先に急な屈伸・側方ストレスが加わって生じる関節周囲の軟部組織(掌側板・側副靱帯・伸筋腱・屈筋腱)や骨端部の損傷の総称です。典型的にはバレーボール・バスケットボールのキャッチミスや、家事・作業中のぶつけで起こります。
- 軽い捻挫で済む例がある一方、腱の連続性が切れているタイプや関節内に骨片を伴う骨折・亜脱臼が潜んでいることも少なくありません。「冷やして様子を見る」だけでは、必要な初期固定や適切なポジショニングを逃す恐れがあります。
例えば、
◾️マレットフィンガー:DIP関節(第1関節)が落ちて自力で伸びない。24時間連続の伸展位固定を6–8週間守れないと再断裂・変形につながる。
◾️中央帯損傷:PIP関節(第2関節)が曲がりやすく、放置でボタン穴変形(PIP屈曲・DIP過伸展)へ。初期はPIP伸展位の連続固定が必要。
◾️FDP腱断裂(ジャージーフィンガー):DIPが自動で曲げられない。早期の腱修復手術が原則で、遅れるほど難治。
冷却(アイシング)は疼痛・腫脹の抑制に役立ちますが、損傷パターンごとの“守るべき位置”に固定することが最優先。固定し過ぎによる拘縮も問題となるため、“固定”と“早期可動”のメリハリが重要です。
見逃したくない損傷タイプ―“要注意サイン”を見抜く
(1)PIP関節掌側板損傷(過伸展型)
- 機転:指が反る力で過伸展。
- 所見:PIP前面圧痛、腫脹、過伸展で不安定。
- ポイント:過伸展ブロック(背側から制動)を行いながら、安全域内の早期屈伸で拘縮を防止(3)。
(2)側副靱帯損傷(側方不安定)
- 機転:横方向からの力。
- 所見:側方ストレス痛、ぐらつき。
- ポイント:隣指とのバディテーピングで保護し、疼痛の範囲で可動。回旋変形の見逃しに注意(3)。
(3)マレットフィンガー(終末伸筋腱損傷)
- 機転:指先にボールが当たり急激に屈曲。
- 所見:DIPを自力で伸ばせない、末節背側圧痛。
- ポイント:DIPのみ伸展位で24時間連続固定を6–8週間。掌側亜脱臼や大きな骨片は手術適応(1)(5)。
(4)中央帯損傷(ボタン穴変形の原因)
- 機転:PIP背側の伸筋腱“中央帯”の断裂。
- 所見:PIP屈曲・DIP過伸展傾向、Elsonテスト陽性ことあり。
- ポイント:PIP伸展位の連続固定(多くは6–8週間)+DIPは自動屈曲で腱バランスを整える(2)。
(5)ジャージーフィンガー(FDP腱断裂)
- 機転:屈曲中の指先を強制的に引っ張られる。
- 所見:DIPの自動屈曲消失、末節掌側圧痛。
- ポイント:早期手術(腱縫合・骨片固定等)が原則。遅れるほど腱が近位へ退縮(4)。
DIPやPIPが自力で動かせない/極端にずれる
爪の生え際の裂創、爪下血腫が広範
皮膚が切れて開放創がある
強いしびれ・蒼白・冷感
明らかな回旋変形(握りこぶしで爪が揃わない)
整形外科での診断ステップ――重症を逃さないために