コラム・ブログ

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2025年8月13日

「“突き指”は冷やせば治る?実は要注意なケースも」

ハイライト

“突き指=軽症”ではありません。多くはPIP関節の捻挫ですが、マレットフィンガー(伸筋腱損傷)中央帯損傷(ボタン穴変形の原因)ジャージーフィンガー(FDP腱断裂)関節内骨折・脱臼などは適切な初期固定と診断を逃すと変形・拘縮・握力低下が残ります。冷却はあくまで腫れの応急処置。「固定すべき部位は固定」「動かすべき関節は早期に安全域で動かす」が原則です。

目次

突き指とは?―“冷やせばOK”ではない理由

例えば、

◾️マレットフィンガー:DIP関節(第1関節)が落ちて自力で伸びない。24時間連続の伸展位固定を6–8週間守れないと再断裂・変形につながる。

◾️中央帯損傷:PIP関節(第2関節)が曲がりやすく、放置でボタン穴変形(PIP屈曲・DIP過伸展)へ。初期はPIP伸展位の連続固定が必要。

◾️FDP腱断裂(ジャージーフィンガー):DIPが自動で曲げられない。早期の腱修復手術が原則で、遅れるほど難治。

 

冷却(アイシング)は疼痛・腫脹の抑制に役立ちますが、損傷パターンごとの“守るべき位置”に固定することが最優先。固定し過ぎによる拘縮も問題となるため、“固定”と“早期可動”のメリハリが重要です。

見逃したくない損傷タイプ―“要注意サイン”を見抜く

(1)PIP関節掌側板損傷(過伸展型)

(2)側副靱帯損傷(側方不安定)

(3)マレットフィンガー(終末伸筋腱損傷)

(4)中央帯損傷(ボタン穴変形の原因)

(5)ジャージーフィンガー(FDP腱断裂)

 

DIPやPIPが自力で動かせない/極端にずれる

爪の生え際の裂創、爪下血腫が広範

皮膚が切れて開放創がある

強いしびれ・蒼白・冷感

明らかな回旋変形(握りこぶしで爪が揃わない)

整形外科での診断ステップ――重症を逃さないために

問診:受傷機転(方向・力のかかり方)、直後の変形や“バキッ”という感覚、自力での曲げ伸ばし可否、しびれの有無、既往歴。

視診・触診:腫脹・皮下出血、圧痛点の局在(掌側板・側副靱帯・中央帯・腱付着部)、回旋変形、爪・爪床の損傷。

画像

◾️単純X線:骨片・関節内ステップ・掌側/背側亜脱臼を確認。初期に骨片が写らないことも。

◾️超音波腱の連続性・血腫・滑走不全をベッドサイドで評価。

◾️MRI:腱・靱帯損傷、骨挫傷や難治例の精査に有用。

  • 鑑別:腱断裂(伸筋/屈筋)、掌側板裂離骨折、関節内骨折・骨折脱臼、腱滑走障害、感染。
  • 緊急性の判断開放創、循環障害、整復不能脱臼、FDP断裂疑い、掌側亜脱臼を伴うマレット迅速対応

治療の原則とリハビリ――固定と早期運動のベストミックス

  • 急性期(受傷~1週)

◾️RICEのうちR(保護)とI(冷却)を適切に

目的別固定

掌側板損傷:PIP軽度屈曲位背側ブロッキング

側副靱帯損傷:バディテーピングで横ブレ制御。

マレット:DIP伸展位を外さない連続固定(PIPは自由)。

中央帯損傷:PIP伸展位の連続固定

ジャージーフィンガー:手術適応評価を急ぐ。

  • 亜急性期(1~6週)

◾️「拘縮を作らない」ための早期可動:疼痛と安定性を指標に、安全域で自動運動を開始。

◾️装具の角度管理:PIPは週単位で角度を漸減、DIPはマレットで6–8週の連続固定後に夜間装具へ移行。

◾️浮腫・瘢痕管理:挙上、軟部組織モビライゼーション、腱滑走エクササイズ(TAM向上)。

  • 手術適応の目安

◾️マレット:DIP掌側亜脱臼、大きな骨片、保存不能例。

◾️関節内骨折・骨折脱臼コンセントリックリダクションが得られない/不安定。

◾️FDP断裂早期腱修復(縫合、骨片固定、必要時二期再建)。

◾️慢性中央帯損傷:装具療法不応で腱再建を検討。

  • リハビリテーションの実際

◾️腱バランスを意識

DIPを確実に伸ばしたいときはPIPを軽度屈曲に(伸筋腱張力の最適化)。

PIP伸展保持が目的の中央帯損傷ではDIP自動屈曲を促す(2)。

◾️段階復帰

痛み・腫れのコントロール

自動可動域の拡大と腱滑走

把持力・巧緻性の再獲得(ピンチ→グリップ→反復作業)

競技特異的ドリル/作業シミュレーション

再発予防・セルフケアQ&A――現場で使える実践ポイント

Q1:湿布や冷却だけで様子を見てもいい?

A:痛みの緩和には役立ちますが、腱断裂や関節内骨折固定設計・整復が最優先。自力で伸びない/曲がらない、明らかな変形・ぐらつきがあれば受診を。

Q2:固定すると固まってしまうのが不安です。

A:固定は“守るため”の時間。一方で拘縮予防の早期運動も同じくらい大切です。医師の指示角度を守り、痛みの範囲で頻回に小さく動かすのがコツ。

Q3:入浴や清潔はどうする?(マレットの例)

A:DIP伸展位を崩さないことが鉄則。防水カバーを使うか、入浴後に同一伸展肢位のまま新しい副子へ素早く交換する段取りを事前に練習。

Q4:仕事・スポーツ復帰の目安は?

A:損傷タイプ・職種で異なります。軽~中等度のPIP捻挫は2–6週で軽作業に、マレットは連続固定終了後夜間装具下で段階復帰、腱修復例は医師の許可まで保護下作業に限定。

Q5:子どもの突き指は大人と同じ?

A:成長軟骨が関与することがあり、変形治癒のリスクが相対的に高め。早めの診断と十分な固定、フォローが重要。

  • セルフチェック(受診の目安)

◾️指先が自力で伸ばせない/曲げられない

◾️変形がはっきりしている、ずれが戻らない

◾️強いしびれ・蒼白、爪床を含む開放創

◾️1週間で痛み・腫れが改善しない/悪化

応急固定(目的に応じてDIP/ PIPを守る)を行い、整形外科へ

参考文献

  1. Doyle JR: The mallet finger. Hand Clin. 16(1):77–86. 2000.
  2. Valdes K, et al.: Conservative management of boutonniere deformity. J Hand Ther. 18(2):139–143. 2005.
  3. Freiberg A, et al.: Management of proximal interphalangeal joint injuries. Hand Clin. 8(4):777–789. 1992.
  4. Leddy JP, Packer JW: Avulsion of the profundus tendon insertion in athletes. J Hand Surg Am. 2(1):66–69. 1977.
  5. Wehbé MA, Schneider LH: Mallet fractures. J Bone Joint Surg Am. 66(5):658–669. 1984.

 

 

 



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