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2025年8月11日

「肉離れと“こむら返り”はどう違う?」

ハイライト

「ふくらはぎが急に“つった”」「走った瞬間に“ブチッ”と音がした」──似ているようで実は全く異なるのが“肉離れ”と“こむら返り”。肉離れは筋肉の断裂、こむら返りは筋の一時的痙攣です。発生のメカニズム、痛みの質、診断や治療、再発予防まで整形外科の視点からわかりやすく解説します。

目次

肉離れと“こむら返り”とは?──基本の違いを理解する

肉離れは筋線維が過剰な負荷で「断裂」する外傷性の障害です。特に、ダッシュやジャンプ動作などで筋肉が伸ばされながら強い力が加わると起こります。発生部位は太ももの裏(ハムストリングス)、ふくらはぎ(腓腹筋)に多く見られます。

こむら返りは医学的には「筋痙攣」と呼ばれる状態です。筋肉が急激に収縮し続けてしまう現象であり、筋線維の断裂は伴いません。夜間の睡眠中や運動後に起こりやすく、ふくらはぎに最も多く発生します。

◾️肉離れ:組織が損傷し、修復までに数週間~数か月を要する。

◾️こむら返り:一過性の痙攣で、多くは数分以内に改善。

起こる原因とリスク因子──誰に・いつ起こりやすいのか

◾️急なダッシュやジャンプ

◾️ウォーミングアップ不足

◾️筋力や柔軟性の低下

◾️過去の肉離れ既往

二関節筋(腓腹筋やハムストリングス)は伸ばされやすく、特にリスクが高い部位です。

◾️運動による筋疲労

◾️脱水や電解質不足(ナトリウム・マグネシウムなど)

◾️冷えや血行不良

◾️妊娠、高齢、糖尿病や腎疾患などの内科的背景

肉離れは「後ろから蹴られたような痛み」と表現され、直後から歩行困難になります。

こむら返りは「急に筋肉が固まって強烈な痛みが走るが、数分で治る」と表現されます。

症状とセルフチェック──見分けるためのポイント

  • 痛みの特徴

肉離れ:鋭い断裂痛、腫れや内出血が数日で出現。

こむら返り:締め付けるような痙攣痛、数分以内に緩解。

  • 機能障害

肉離れ:歩行やつま先立ちが困難、運動継続不可。

こむら返り:痙攣後も歩行可能なことが多い。

  • セルフチェック

翌日に痛みや腫れが続く → 肉離れの可能性。

一晩経てばほぼ問題ない → こむら返りの可能性。

診断と検査──整形外科での評価方法

  • 問診と診察

受傷の瞬間の状況、痛みの質を丁寧に確認します。触診で限局した圧痛や腫脹があれば肉離れを強く疑います。

  • 画像検査

超音波検査:筋断裂や血腫の確認に有効。

MRI:広範囲損傷や重症度評価に使用。

こむら返りは発作後には画像変化を認めないことが多く、必要に応じて血液検査(電解質や内科的背景評価)が行われます。

応急処置・治療・再発予防──正しい対応で再発を防ぐ

  • 肉離れの対応

初期:安静・圧迫・冷却(過度な冷却は避ける)。

中期:リハビリでの筋力回復、エキセントリックトレーニング導入。

復帰:疼痛消失・筋力左右差解消を確認して段階的に運動復帰。

  • こむら返りの対応

発作時:ストレッチ(足関節背屈)、マッサージは軽度に。

予防:十分な水分・電解質補給、就寝前ストレッチ、冷え対策。

  • 整形外科でできること

◾️筋骨格超音波による即日診断

◾️個別のリハビリ計画

◾️栄養・睡眠・フォーム指導

◾️内科的背景疾患の評価(頻発するこむら返りに対して)

参考文献

  1. Mueller-Wohlfahrt H-W, et al.: Terminology and classification of muscle injuries in sport: The Munich consensus statement. Br J Sports Med. 47(6):342–350. 2013.
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  3. Schwellnus M-P: Cause of exercise associated muscle cramps (EAMC)—altered neuromuscular control, dehydration or electrolyte depletion? Br J Sports Med. 43(6):401–408. 2009.
  4. Dubois B, Esculier J-F: Soft-tissue injuries simply need PEACE and LOVE. Br J Sports Med. 54(2):72–73. 2020.
  5. Peetrons P: Ultrasound of muscles. Eur Radiol. 12(1):35–43. 2002.

 

 

 



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