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2025年7月10日

「“関節がゆるい人”はケガをしやすい?“関節弛緩性”の落とし穴」

ハイライト

「関節が柔らかいのは良いこと」と思われがちですが、過度な柔軟性=“関節弛緩性”は、ケガや慢性痛のリスクを高める可能性があります。この記事ではそのメカニズムや対策について、専門的視点から詳しく解説します。

目次

関節弛緩性とは?その定義と見分け方

関節弛緩性(joint hypermobility)とは、関節の可動域(ROM: Range of Motion)が正常範囲を超えて広い状態を指します。バレエや器械体操、ヨガなどでは歓迎される柔軟性ですが、整形外科的には過度な可動域は「不安定性」として、ケガのリスク要因となることがあります。

関節弛緩性を客観的に評価する指標として「Beightonスコア」がよく使用されます。

◾️親指が前腕に付く

◾️小指が90°以上反る

◾️肘が10°以上反る

◾️膝が10°以上反る

◾️前屈で手のひらが床につく

といった動作を評価し、9点中4点以上で関節弛緩性とみなすのが一般的です。

多くは先天的な体質ですが、若年女性や成長期の子どもに多く見られます。まれに、後天的にリウマチやEhlers-Danlos症候群などの結合組織疾患が原因となることもあります。

関節弛緩性の人が陥りやすいケガと症状

関節の安定性が弱いため、足関節の捻挫や肩関節の亜脱臼、膝関節の靱帯損傷などが起きやすくなります。スポーツをしている方は特に注意が必要です。

過可動域で関節を頻繁に動かすことにより、靱帯や関節包に慢性的なストレスが加わり、痛みが続くこともあります。特に指や腰、膝などに症状が出るケースが多くみられます。

関節がゆるいことで体の軸が安定せず、猫背や反り腰などの不良姿勢を引き起こしやすく、これが肩こりや腰痛の原因となることもあります。

筋肉で関節を支える必要があるため、筋肉にかかる負担が増し、少しの動作でも疲れやすくなります。

なぜ関節がゆるいとケガにつながるのか?メカニズムを解説

  • 靱帯と関節包の役割

関節の構造は、骨と骨をつなぐ「靱帯」や関節包といった構造によって安定性が保たれています。これらが先天的に伸びやすい、もしくは弱い場合、関節が“ぐらつく”状態になりやすく、わずかな力でも損傷しやすくなります。

  • “力の伝達”がうまくできない

関節がゆるいと、筋力が適切に骨へ伝わらず、無駄な動きが多くなります。すると、効率的な運動ができないだけでなく、必要以上の筋力で支える必要があるため、慢性的な筋疲労が発生します。

  • 関節位置覚の低下

関節が不安定だと、自分の関節がどこにあるかという「固有感覚(位置覚)」も低下しやすくなります。これにより、つまずきや転倒のリスクが高まります。

関節弛緩性と診断されたら?リハビリとセルフケアのポイント

  • 安定性を高めるトレーニング

整形外科的リハビリでは、以下のようなトレーニングが中心になります。

◾️コア筋群(腹横筋・多裂筋)の強化

◾️関節周囲筋のインナーマッスルトレーニング

◾️動的バランストレーニング(例:片脚立ちやスクワット)

特に関節弛緩性のある人には、アウターマッスルよりもインナーマッスルを意識したトレーニングが重要です。

  • テーピングやサポーターの活用

リハビリ初期やスポーツ活動時には、関節を補助的に安定させるためのテーピングやサポーターの使用が推奨されます。

  • ストレッチのしすぎに注意

柔軟性がすでに十分な方が無理にストレッチを行うと、逆に関節の不安定性が悪化する恐れがあります。伸ばすのではなく“支える”ことが大切です。

  • 生活上の工夫

階段の昇降、長時間の立ち仕事なども関節に負担をかけやすいため、適度な休憩や姿勢の見直しを心がけましょう。

当クリニックでのリハビリテーションの取り組みと予防支援

  • 超音波などによる客観的評価

近年では、関節の動きや腱・靱帯の状態を超音波で確認し、動的に評価することも行われています。これにより、関節弛緩性の程度や痛みの原因を明確にし、より的確な指導が可能になります。

  • ケガをしにくい体作りのために

関節弛緩性のある方でも、正しいリハビリとトレーニングを行えば、ケガのリスクを抑えて日常生活やスポーツを楽しむことができます。

「関節がゆるい=悪い」ではなく、「ゆるい関節に合った体の使い方」を身につけることが最も重要です。

参考文献

1)Beighton P, Solomon L, Soskolne CL: Articular mobility in an African population. Ann Rheum Dis. 32(5):413–418. 1973.

2)Remvig L, Jensen DV, Ward RC: Epidemiology of general joint hypermobility and basis for the proposed criteria for benign joint hypermobility syndrome: review of the literature. J Rheumatol. 34(4):804–809. 2007.

3)Scheper MC et al.: Chronic pain in hypermobility syndrome and Ehlers-Danlos syndrome (hypermobility type): it is a challenge. J Pain Res. 8:591–601. 2015.

4)Castori M et al.: Re-writing the natural history of pain and related symptoms in joint hypermobility syndrome and Ehlers–Danlos syndrome, hypermobility type. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2015;169C:1–5.

5)野田直樹: 関節弛緩性と外傷・障害. 日本臨床スポーツ医学会誌. 22(3):563–567. 2014.

 



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