2025年4月21日
野球をやっている人に多い「肘内側の痛み」。その正体は、上腕骨内側上顆炎や内側側副靱帯損傷、尺骨神経障害などが複雑に関与する「野球肘」かもしれません。本コラムでは、その原因・診断・治療・リハビリまで詳しく解説します。
「野球肘」とは、主に投球動作を繰り返すことで生じる肘関節の障害の総称であり、特に内側に痛みを生じるタイプは成長期の野球選手や成人の投手に多く見られます。繰り返される投球動作による過負荷が、関節構造にストレスを蓄積させ、軟部組織や骨に障害を引き起こします。
中でも「肘の内側の痛み」は、以下のような複数の病態が複合的に関係していることが多いです。
▪️上腕骨内側上顆炎(内側の腱付着部炎)
▪️内側側副靱帯(UCL)損傷(特に前斜走束)
▪️尺骨神経の圧迫・滑走障害
▪️成長期における骨端線障害や裂離骨折
このように、「野球肘」は単一の疾患ではなく、複数の障害を含んだ総称として捉えることが重要です。
上腕骨内側上顆は、前腕屈筋群(円回内筋・橈側手根屈筋・尺側手根屈筋など)の起始部であり、投球時の加速期に大きな牽引力を受けます。これが繰り返されることで微細な炎症や腱付着部障害を引き起こすのが、上腕骨内側上顆炎です。
内側側副靱帯(Ulnar Collateral Ligament: UCL)は肘関節の内側安定性を保つ重要な靱帯です。特に投球動作のコッキング後期〜加速期にかけて、肘の外反ストレス(valgus stress)が強くかかり、UCLへの負荷が増大します。
UCLが繰り返し引き延ばされることで、部分断裂や完全断裂が生じる可能性があり、野球肘の主要な構造的損傷の一つです。
尺骨神経は内側上顆の後方を走行し、浅い位置にあるため、滑走障害や圧迫、引き伸ばしが生じやすくなります。症状としては、しびれ(特に小指・環指)や把握力の低下が現れることがあります。
このように、上腕骨内側上顆炎単体でなく、内側側副靱帯や尺骨神経のトラブルを同時に考慮することが重要です。
診断は主に問診と身体所見に基づいて行われます。画像診断は補助的な役割を果たします。
▪️どのタイミングで痛みが出るか(投球中か、終わった後か)
▪️痛みの部位(内側か外側か)
▪️しびれや脱力感の有無
▪️内側ストレステスト(Valgus Stress Test)
▪️Moving Valgus Stress Test
▪️Tinel徴候(尺骨神経部の叩打)
▪️X線:骨端線の開大、裂離骨折の確認
▪️超音波(エコー)検査:軟部組織の腫れや靱帯の連続性、尺骨神経の走行観察
↓エコー評価の方法↓
▪️MRI:UCL損傷や骨髄浮腫、神経の状態などの評価に有用。(当院にはMRIがありませんので、希望の方は提携病院への紹介をさせていただきます。)
▪️注射療法
局所麻酔薬+ステロイド注射:一時的な効果。繰り返しの使用には注意 1)。
▪️UCL再建術(トミー・ジョン手術):慢性の靱帯損傷例やアスリートに多い
▪️尺骨神経前方移行術:滑走障害がある場合に選択される
手術は回復までに時間を要し、リハビリを伴う長期的な治療計画が必要です。
▪️炎症を抑えるための安静
▪️アイシングや電気療法
▪️軽いストレッチ
当院で導入されている電気治療機器についての説明です。興味ある方は是非読んでみてください!!
▪️前腕屈筋群のストレッチ
▪️尺骨神経の滑走訓練
▪️手関節周囲の筋力トレーニング
▪️姿勢やフォームの修正
特に、肩関節の可動域が不良となると、肘下がりの投球フォームになり肘内側への負担が増大します。
1) Bisset L, Coombes B, Vicenzino B: Tennis elbow. BMJ Clin Evid. 2011;2011:1117.