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2025年9月21日

“つえ”はいつから使うべき?正しい選び方と使い方

ハイライト

「つえは“年寄りの象徴”だからできるだけ使いたくない…」そんな声をよく耳にします。しかし、実際にはつえは転倒予防や痛みの軽減に大きく役立つ“体を守る道具”です。この記事では、つえを使い始める目安、種類と選び方、正しい使い方、整形外科リハビリでの活用までを詳しく解説します。

目次

つえを使うべきタイミングとは?

多くの方は「つえを使う=年をとった証拠」と考えがちですが、それは誤解です。つえは“体を助ける補助具”であり、必要なときに使うことでむしろ活動量を増やし、生活の質(QOL)を高めます。

 

① 歩くときに不安定さを感じる

② 片足や腰に強い痛みがある(変形性膝関節症・股関節症・腰部脊柱管狭窄症など)

③ 長時間歩くと疲労が強く出る

④ 転倒した経験がある、または転びそうになったことが増えた

⑤ 整形外科医や理学療法士から勧められた

こうした兆候は、体が「サポートが必要です」とサインを出している証拠です。

転倒は骨折につながり、寝たきりの大きな原因になります。つえを「まだ早い」と先送りにせず、不安を感じた段階で使うことが安全な生活を守る第一歩です。

つえの種類と特徴

つえにはいくつか種類があり、それぞれ特徴と適応があります。

最も一般的なタイプ。片足の痛みや軽度のバランス不良に有効。持ち運びやすく、日常生活に取り入れやすい。

前腕を支えるカフ付きの杖。体重をしっかり預けられるため、筋力低下や術後のリハビリに適応。

先端が複数に分かれ、安定性が高い。バランスに不安が強い方や、高齢者に向く。

下肢への荷重を完全に避ける必要がある場合に使用。骨折直後や手術直後に処方されることが多い。

 

整形外科では、疾患や身体状況に応じて最適なタイプを提案します。

自分に合ったつえの選び方

  • 身長に合った長さ

つえは手を下ろしたとき手首の高さにグリップが来るのが基本。長すぎると肩がすくみ、短すぎると前かがみになり、かえって負担が増えます。

  • 利き手と使用側

痛い側の反対の手で持つのが基本。

例:右膝が痛い → 左手でつえを持つ。

こうすることで、体重が痛みのある足にかかりすぎず、スムーズな歩行が可能になります。

  • 重さとグリップの形状

◾️ 軽量アルミ製:持ち運びに便利。

◾️ 木製:安定感がある。

◾️ グリップは手の形に合ったものを選ぶと疲れにくい。手指に変形(例:関節リウマチ)がある場合は、エルゴグリップなど特殊な形状が有効です。

  • デザインも重要

「持ちたくない」という心理的抵抗を減らすには、色や柄の好みも大切。最近ではおしゃれなデザインのつえも増えています。

正しいつえの使い方と注意点

  • 基本の歩き方

① つえを前に出す

② 痛い足を前に出す

③ 健側の足を出す

このリズムを守ることで、体重が痛い足に集中せず、安定した歩行が可能になります。

  • 階段の上り下り

上るとき:「健足 → 患側 と 杖」

下りるとき:「杖 → 患側 → 健足」

リハビリ現場では「上りは良い足から、下りは悪い足から」と覚えていただいています。

  • よくある誤り

◾️ 反対の手で持っている

◾️ 杖の長さが合っていない

◾️ つえに体重をかけすぎて腕や肩を痛める

自己流ではなく、医師や理学療法士の指導を受けることが安全につながります。

整形外科リハビリにおけるつえの役割

  • リハビリを支える“橋渡し”

つえは最終的に「卒業」を目指すこともありますが、必要な時期に正しく使うことはリハビリを成功させるカギです。

膝や股関節の手術後:歩行練習の初期段階で使用し、安全に自立歩行へつなげる。

脊椎疾患:しびれや筋力低下で不安定な歩行を補助。

高齢者の転倒予防:転倒骨折を防ぎ、自立生活を延ばす。

  • つえを使うことは“前向き”

つえは「弱さの象徴」ではなく、自分の生活を守る前向きな選択です。適切に使うことで活動範囲が広がり、心身の健康維持に直結します。

参考文献

  1. Ruchinskas RA, Curyto KJ: Canes and walkers: A review of use in rehabilitation. Phys Med Rehabil Clin N Am. 2001;12(2): 369-383.
  2. Bateni H, Maki BE: Assistive devices for balance and mobility: Benefits, demands, and adverse consequences. Arch Phys Med Rehabil. 2005;86(1):134-145.
  3. Kohler F, et al: Evidence-based prescription of assistive devices for mobility. Med J Aust. 2011;195(11-12):681-685.
  4. American Geriatrics Society Panel on Prevention of Falls: Guideline for the prevention of falls in older persons. J Am Geriatr Soc. 2001;49(5):664-672.
  5. Gill TM, et al: The role of walking aids in maintaining mobility in older adults. J Am Geriatr Soc. 2015;63(2):405-410.

 

 

 



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