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2025年9月10日

サプリメントでパフォーマンスは上がる?科学的な視点から

ハイライト

「サプリメントを飲めば運動の成果は出やすくなるの?」──そんな疑問を持つ人は少なくありません。プロテインやビタミン、クレアチンなど、スポーツ現場や一般の健康志向の人々の間で広く使われています。しかし、その効果には科学的な根拠と注意点があります。本記事では整形外科クリニックの視点から、サプリメントの種類と科学的効果、安全性、リハビリやスポーツ現場での活用法について解説します。

目次

サプリメント利用の背景と広がり

近年、日本でも健康志向やフィットネスブームの高まりに伴い、サプリメントの利用が一般化しています。ドラッグストアやネット通販ではプロテイン、ビタミン剤、オメガ3、クレアチンなど、数え切れないほどの製品が販売されています。

◾️アスリート:パフォーマンス向上、リカバリー促進、疲労軽減を目的に使用。

◾️一般人:美容や健康維持、体力向上、ダイエット補助が主目的。

整形外科クリニックでも、患者さんから「プロテインは飲んだ方がいいですか?」や「関節に効くサプリはありますか?」といった質問を受けることが増えています。背景には「食事だけでは足りない栄養を効率的に補いたい」というニーズがあります。

ただし、サプリメントはあくまで「補助食品」であり、薬ではありません。そのため「飲めば必ず効果がある」というものではなく、科学的根拠を正しく理解することが重要です。

科学的に効果が示されているサプリメント

サプリメントの中には、多くの研究で有効性が確認されているものがあります。代表的なものを紹介します。

(1) プロテイン(タンパク質補給)

筋肉の修復・成長には不可欠な栄養素。運動後30分以内の摂取で筋タンパク質合成が高まることが示されています1)。リハビリ中の患者でも、十分なタンパク質摂取は筋力低下予防に重要です。

(2) クレアチン

瞬発的な力や筋力発揮に有効。短距離走や筋力トレーニングにおけるパフォーマンス改善効果が確認されています2)。また、高齢者においても筋力低下予防に寄与する可能性があります。

(3) ビタミンDとカルシウム

骨の健康維持に必須。骨粗鬆症予防だけでなく、筋力低下や転倒リスクの軽減にも関連しています3)。日光不足の現代人には特に不足しやすい栄養素です。

(4) オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)

抗炎症作用や心血管系保護作用があり、関節痛の軽減やリカバリー促進に有効とされます4)。

 

これらは科学的エビデンスが比較的強く、整形外科的にも有用性が高いと考えられます。

効果が不明瞭なサプリメントと注意点

一方で、科学的根拠が不十分なものや、安全性に注意が必要なサプリメントも少なくありません。

(1) グルコサミン・コンドロイチン

関節の健康によいと宣伝されますが、大規模臨床試験では効果に一貫性がなく、国際的なガイドラインでも推奨度は低いとされています5)。

(2) BCAA(分岐鎖アミノ酸)

筋肉疲労軽減に効果があるとされますが、プロテイン全体を摂取した場合との明確な差は少ないと報告されています。

(3) サプリメントのリスク

  • 過剰摂取による肝障害や腎障害の報告
  • 医薬品との相互作用(抗凝固薬とビタミンK、免疫抑制薬とセントジョーンズワートなど)
  • 表示成分以外の混入リスク(特に海外製やネット通販の一部商品)

「天然だから安心」という思い込みは危険であり、適切な量と信頼できる製品を選ぶことが重要です。

整形外科リハビリ・スポーツ現場での位置づけ

サプリメントは、リハビリやスポーツ現場において「補助的役割」として位置づけられます。

リハビリにおける活用

  • 骨折後:カルシウム・ビタミンDで骨癒合を促進
  • 術後リハビリ:タンパク質補給で筋萎縮を抑制
  • 高齢者:クレアチンやプロテインでサルコペニア予防

スポーツにおける活用

  • 筋肥大目的:プロテイン+クレアチン
  • 持久系競技:カフェイン・β-アラニン(一定の効果が報告あり)
  • リカバリー:オメガ3脂肪酸、抗酸化物質(ビタミンC・E)

ただし、最も重要なのは「適切な食事・運動・休養」であり、サプリメントはその補完にすぎません。

安全にサプリメントを活用するためのポイント

サプリメントを安全に活用するための実践的な指針をまとめます。

◾️まずは食事から:基本はバランスの良い食事で栄養を摂取。

◾️目的を明確に:筋肉増強か、疲労回復か、骨の健康か。目的に合った製品を選ぶ。

◾️科学的根拠を確認:広告ではなく、信頼できるガイドラインや論文を参考にする。

◾️過剰摂取を避ける:必要量を超えて摂取しても効果は増えず、リスクだけが増す。

◾️医師・専門家に相談:持病や薬を服用している場合は特に重要。

整形外科の現場では、患者の生活背景や疾患、服薬状況を踏まえたうえで、サプリメントの適切な使用を指導することが求められます。

参考文献

  1. Morton RW, et al: Protein supplementation and resistance exercise training in older adults: a meta-analysis. Br J Sports Med. 52(6):376-384. 2018.
  2. Kreider RB, et al: International Society of Sports Nutrition position stand: safety and efficacy of creatine supplementation in exercise, sport, and medicine. J Int Soc Sports Nutr. 14:18. 2017.
  3. Weaver CM, et al: Calcium plus vitamin D supplementation and risk of fractures: an updated meta-analysis from the National Osteoporosis Foundation. Osteoporos Int. 27(1):367-376. 2016.
  4. Mickleborough TD: Omega-3 polyunsaturated fatty acids in physical performance optimization. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 23(1):83-96. 2013.
  5. Wandel S, et al: Effects of glucosamine, chondroitin, or placebo in patients with osteoarthritis of hip or knee: network meta-analysis. BMJ. 341:c4675. 2010.

 

 



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