コラム・ブログ

コラム・ブログ

2025年6月19日

ランニングで膝を壊す人がやりがちな“フォームのクセ”とは?

ハイライト

ランニングによる膝の痛みは、フォームのちょっとした乱れが原因となることがあります。この記事では、膝に負担をかける“やりがちなクセ”とそのメカニズム、整形外科での対応、改善のためのリハビリやセルフケアまでを詳しく解説します。

目次

なぜランニングで膝を壊してしまうのか?

ランニングは全身運動でありながら、特に膝関節に大きな負荷が集中します。着地のたびに体重の2〜3倍もの負荷が膝にかかるとされており、週に数回走るだけでも、その負荷は積み重なっていきます。

整形外科の臨床現場でよくみられるランナーの膝のトラブルとしては、以下のようなものがあります。

◾️腸脛靱帯炎(ランナー膝)

◾️膝蓋大腿関節症候群(PFPS)

◾️鵞足炎

◾️半月板損傷

◾️関節内炎症や滑膜炎

これらの疾患には、過度な走り込みや柔軟性の低下などの要因もありますが、特に見落とされがちなのが“フォームのクセ”です。無意識のうちに負荷をかけやすい動作を繰り返してしまっているケースが非常に多いのです。

膝を壊しやすいフォームの共通点

歩幅が大きすぎると、足が体より前方に着地し、ブレーキがかかる形になります。この際に膝が伸びたまま衝撃を受けると、膝への負担が増大します。

骨盤や股関節周囲の筋肉(中臀筋・小臀筋・腸腰筋など)の弱さは、着地時に骨盤が左右にブレる原因となり、それが膝の内側や外側への負担として現れます。

扁平足や過回内(プロネーション)のある方は、地面からの衝撃を吸収しにくく、膝にストレスが集中しやすくなります。

疲労が蓄積したり、ケガをかばったフォームになると、左右どちらかに重心が偏ることで一方の膝だけに痛みが出ることもあります。

特に注意すべき「5つのクセ」とその影響

① オーバーストライド(歩幅が広すぎる)

着地位置が前すぎると、ブレーキの役割を果たしてしまい、膝に直接的な衝撃を与えます。特に膝蓋骨や関節軟骨にダメージが蓄積しやすくなります。

② 膝が内側に入る(ニーイン)

特に女性ランナーや骨盤が広い方に多く、膝が内側に入りながら着地することで、腸脛靱帯や鵞足部、半月板にストレスがかかりやすくなります。

③ 骨盤の上下動が大きい(ヒップドロップ)

片脚立位で骨盤が左右に揺れるフォームは、中臀筋の筋力低下のサイン。結果的に着地時の安定性を失い、膝関節が代償的に動きすぎてしまいます。

④ 足部のプロネーション過多

足が内側に過剰に倒れ込む「過回内」により、下腿のねじれが膝に伝わり、関節内や側副靭帯の炎症につながるリスクが高くなります。

⑤ 上半身の前傾・猫背

重心が前に偏ることで、大腿四頭筋が過剰に働き、膝蓋骨への圧迫力が強くなります。特に下り坂で顕著になります。

整形外科での診断・リハビリの取り組み

  • フォーム評価の重要性

整形外科クリニックでは、膝の痛みの原因を「画像診断(MRIやX線)だけでなく、動作分析や歩行・ランニングフォームの評価」によって明らかにしていく必要があります。リハビリ室では、動画撮影やモーションキャプチャーなどを使用することもあります。

  • 筋力と柔軟性のバランス評価

特に以下の部位を重点的に評価・アプローチします。

◾️中臀筋・小臀筋:骨盤の安定性

◾️腸腰筋・大腿四頭筋:股関節屈曲の可動域と力発揮

◾️ハムストリングス・下腿三頭筋:柔軟性と着地時の衝撃吸収

◾️足部アーチの機能:プロネーション制御

  • リハビリでの取り組み

整形外科でのリハビリでは以下のような介入が行われます。

◾️動作指導とフォーム修正

◾️インソールによる足部アライメントの調整

◾️体幹・骨盤安定性トレーニング

◾️歩行・ランフォームの段階的再獲得

◾️EMSや低周波による筋機能再教育

正しいフォーム習得とセルフケアの実践法

  • 正しいフォームの基本

◾️着地は「足裏の中心からやや前方」

◾️膝はつま先と同じ方向

◾️骨盤を水平に保ち、上半身は軽く前傾

◾️リズムは軽やかに、無駄な上下動を避ける

  • セルフケアと予防トレーニング

◾️ヒップアブダクション(中臀筋強化)

◾️カーフレイズ(下腿三頭筋強化)

◾️スクワット(正しいフォームでの動作パターン学習)

◾️足底筋膜のリリースやストレッチ

◾️フォーム確認のための動画撮影・フィードバック

  • 運動負荷の管理と休息

どれだけフォームを整えても、過度な距離や強度は負担を生みます。月間走行距離・週間の休息日数を見直すことも、膝を守るために重要な要素です。

参考文献

1)Fredericson M, Misra AK: Epidemiology and aetiology of marathon running injuries. Sports Med. 37(4): 437–439, 2007.

2)Powers CM: The influence of abnormal hip mechanics on knee injury: a biomechanical perspective. J Orthop Sports Phys Ther. 40(2): 42–51, 2010.

3)Noehren B, Davis I, Hamill J: ASB Clinical Biomechanics Award Winner 2006: Prospective study of the biomechanical factors associated with iliotibial band syndrome. Clin Biomech (Bristol, Avon). 22(9): 951–956, 2007.

4)Willy RW, Davis IS: The effect of a hip-strengthening program on mechanics during running and during a single-leg squat. J Orthop Sports Phys Ther. 41(9): 625–632, 2011.

5)Neal BS et al: Runners with patellofemoral pain have altered biomechanics which targeted interventions can modify: A systematic review and meta-analysis. Gait Posture. 45: 69–82, 2016.

 



一覧へ