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2025年6月15日

“冷房で足がだるくなる”のはなぜ? 夏の冷えと筋肉の意外な関係

ハイライト

夏の冷房で「足がだるい」と感じたことはありませんか?実はその原因、単なる“冷え”ではなく、筋肉や血流、自律神経の働きにまで関係しているのです。本コラムでは、夏特有の冷えと足の筋肉の意外なつながりについて、整形外科的な観点からわかりやすく解説します。

目次

夏に起こる“冷え”の正体とは?

真夏の強烈な暑さとは裏腹に、室内に一歩入ると強く効いた冷房に肌寒さを感じることはよくあります。オフィス、電車、店舗、自宅でも、24〜26℃程度の低温環境に長時間さらされることで、体表面から熱が奪われ、体温調節機能が乱れます。これが「夏の冷え」の始まりです。

特に下半身は心臓から最も遠く、血流が届きにくいため冷えの影響を受けやすい部位です。重力の影響で血液が下肢にたまりやすく、さらに座りっぱなしの姿勢が長引くと、下半身の冷えやむくみ、だるさが出現します。

人間の体は、暑いときは汗をかいて体温を下げ、寒いときには血管を収縮させて熱を逃がさないようにします。こうした働きを担うのが「自律神経」です。しかし冷房の冷気で長時間体が冷やされると、自律神経のバランスが崩れ、血管の収縮・拡張がうまくいかなくなります。結果として血流が滞り、冷えが慢性化する悪循環に陥ります。

筋肉と血流、自律神経のつながり

筋肉は、体を動かすだけでなく、血液を全身に送り返すポンプのような役割を果たしています。とくにふくらはぎは「第二の心臓」とも呼ばれ、下半身にたまった血液を心臓に戻す重要な働きをしています。

冷房で筋肉が冷えると、筋線維が収縮しづらくなり、このポンプ機能が低下。血流が滞ると、酸素や栄養の供給がうまくいかなくなり、乳酸や疲労物質がたまりやすくなります。これが「足のだるさ」や「重さ」の正体です。

冷えによって交感神経が過剰に働くと、筋肉が常に緊張した状態になり、筋疲労が進みます。また、筋肉が固くなることで関節の可動域も狭まり、歩行や立ち上がりの動作が鈍くなります。整形外科では、こうした筋緊張や血流障害が原因となって痛みや運動制限が出ているケースを数多く目にします。

女性に多いのはなぜ?筋肉量とホルモンの影響

  • 筋肉量の違いが冷えに直結

男女の体の違いとして、筋肉量がまず挙げられます。筋肉は体温を生み出す“発熱装置”のような役割を持ちますが、女性は男性に比べて筋肉量が少なく、特に下肢の筋肉の少なさが冷えや血流低下に拍車をかけます。

また、脂肪は熱を通しにくく一見“保温”の役割があるように思われますが、実は一度冷えると温まりにくいため、脂肪が多い部位は冷えが慢性化しやすいのです。

  • ホルモンバランスと自律神経の関係

女性の体はホルモンの影響を大きく受けます。特に月経周期、妊娠、出産、更年期といったライフイベントでエストロゲンが変動すると、自律神経にも影響を及ぼします。この変化が冷えやすさにつながると考えられています。

更年期に入ると、筋肉量の低下とともにホルモンバランスの乱れから自律神経症状(ほてり、冷え、めまいなど)を訴える女性が増加し、足のだるさも慢性化しやすくなります。

整形外科クリニックでの評価とリハビリテーション

  • 冷えによるだるさは診察対象?

「ただの冷え」と軽視されがちな足のだるさも、整形外科では立派な評価対象です。問診や触診を通じて、筋肉や関節の状態、血流、神経症状を丁寧に確認します。

  • リハビリテーションでのアプローチ

診断の結果、冷えや筋緊張、血流低下が主な原因と判断されれば、理学療法士によるリハビリテーションが効果的です。具体的には、

◾️温熱療法:ホットパックや遠赤外線機器で局所を温め、血流を改善

◾️ストレッチ:特に下肢の柔軟性を高めて、ポンプ機能を改善

◾️筋膜リリース:筋肉の緊張や癒着を解除し、血流と可動域を回復

◾️電気刺激療法:神経と筋肉に刺激を与えて代謝を促進

◾️運動療法:簡単な筋トレや体操による筋力と循環改善

患者の生活環境や冷えの度合いに応じて、日常での冷え対策もアドバイスしながらリハビリを進めます。

明日からできる!冷え・だるさ解消セルフケア

  • 環境調整と日常習慣の見直し

冷房による足のだるさを防ぐためには、まず環境の見直しが必要です。冷気が直接足元に当たらないよう風向きを調整したり、レッグウォーマーや膝掛けを使用することで、局所的な冷えを防げます。

また、仕事中に1時間に1回は立ち上がって足を動かす習慣をつけることも大切です。長時間座り続けると血流が滞り、筋肉のポンプ機能が失われやすくなります。

  • おすすめセルフケア

以下のような簡単な運動やケアを日常的に取り入れることで、筋肉と血流の状態を良好に保つことができます。

◾️かかとの上げ下げ運動(立ったままゆっくり20回)

◾️足首の回旋運動(左右に10回ずつ)

◾️ふくらはぎのストレッチ(壁を使って30秒×2セット)

◾️足湯・湯船に浸かる習慣(38〜40℃で10〜15分)

◾️フォームローラーでの筋膜リリース(ふくらはぎ・ハムストリングス中心に)

整形外科ではこうした運動指導も行っており、運動内容を適切にアレンジすることで症状の再発予防にもつながります。

参考文献

1)佐藤公一: 冷え性と筋肉の関係. 日本温泉気候物理医学会雑誌. 76(3): 184-190. 2013.

2)池田正樹: 冷房環境が自律神経系に与える影響. 自律神経. 47(4): 259-264. 2010.

3)森田英明ほか: 筋ポンプ機能と末梢循環. 理学療法学. 34(6): 377-383. 2007.

4)飯塚俊夫: 女性と冷え性—ホルモンと血流の関係. 臨床婦人科産科. 60(5): 611-618. 2006.

5)中村健太郎: 温熱療法の整形外科的応用. 整形外科看護. 25(2): 129-134. 2020.

 



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