コラム・ブログ

コラム・ブログ

2025年9月13日

加齢でバランス感覚が低下する理由と対策

ハイライト

年齢を重ねると、筋力や感覚器官の衰え、神経機能の低下などが重なり、転倒リスクが高まります。本コラムでは、加齢によるバランス感覚低下のメカニズムと具体的な予防・改善策を、整形外科の視点から詳しく解説します。

目次

バランス感覚とは?──その仕組みと重要性

「バランス感覚」とは、姿勢を安定させ、転倒せずに立ち歩くための総合的な能力を指します。これは単純に筋力だけでなく、視覚・前庭器官(内耳の三半規管や耳石器)・深部感覚(関節や筋肉からの情報)・中枢神経の統合機能によって成り立っています。

人間が立っている際には、常に小さな揺れ(重心動揺)が存在します。これを感知・制御するのは以下の要素です。

■視覚情報:空間や足元の状況を把握

■前庭感覚:頭の位置や動きを察知

■体性感覚:足裏や関節からのフィードバック

■中枢神経系:これらの情報を統合し、筋肉に指令を出す

これらがバランスよく働くことで、姿勢を崩さずに動作が可能となります。

転倒防止

日常生活動作(歩行、階段昇降、立ち上がり)

スポーツや趣味活動の継続

認知機能や自律神経機能との関連

バランス感覚は「立つ・歩く」だけでなく、生活の質を大きく左右する機能であることが分かります。

加齢によるバランス感覚低下の原因

特に下肢の筋力(大腿四頭筋、下腿三頭筋、大殿筋など)はバランス保持に直結します。加齢により筋繊維の萎縮や神経支配の減少が進み、踏ん張りやすさが低下します。

■ 視覚:白内障や加齢黄斑変性により視野や奥行き認知が低下

■ 前庭機能:耳石器や半規管の感度が低下し、めまい・ふらつきを感じやすくなる

■体性感覚:足底の感覚鈍麻や関節位置覚の低下が重心制御を難しくする

加齢により神経の伝導速度が低下し、姿勢の揺れに対する反応が遅れます。その結果、転倒回避動作が遅れる傾向があります。

骨粗鬆症による骨折リスク増加

脳血管障害後の片麻痺や感覚障害

パーキンソン病によるすくみ足・姿勢異常

これらが複合的に重なることで、バランス感覚は年齢とともに低下していきます。

バランス感覚低下がもたらす健康リスク

  • 転倒と骨折

高齢者における骨折の多くは転倒がきっかけです。特に大腿骨頸部骨折は寝たきりの大きな原因となります。

  • 活動性の低下

「転ぶのが怖い」という心理的不安が外出機会を減らし、結果としてさらに筋力や持久力が低下する悪循環を招きます。

  • 認知機能への影響

近年の研究では、歩行速度やバランス能力の低下が認知症発症リスクの増加と関連していることが報告されています1)。

  • 生活の質(QOL)の低下

趣味や社会参加が制限されることで孤独感・抑うつ症状を引き起こしやすくなります。

整形外科で行う診断とリハビリテーション

  • 診断の流れ

問診(転倒歴・生活習慣・既往歴)

バランス評価(片足立ち保持時間、開眼閉眼での重心動揺)

筋力・可動域検査

必要に応じた画像検査(骨粗鬆症評価、関節変形の有無)

  • リハビリテーションの内容

■ 筋力強化:スクワット、レッグエクステンション

■ バランス訓練:片足立ち、バランスボード、歩行訓練

■ 姿勢改善:ストレッチ、体幹トレーニング

■ 有酸素運動:ウォーキングや水中歩行

理学療法士による個別プログラムが有効で、転倒予防教室などの地域活動とも連携されます。

当院のInstagramでは、トレーニング方法など投稿してるのでぜひチェックしてみてください!!

 

バランス感覚を維持・改善するための生活習慣と予防策

  • 運動習慣

毎日30分以上のウォーキング

筋力+バランスを鍛える運動(太極拳、ヨガ、ピラティス)

転倒予防体操(片足立ち、椅子からの立ち上がり反復)

  • 栄養管理

タンパク質摂取(筋肉維持に不可欠)

カルシウム・ビタミンD摂取(骨粗鬆症予防)

適切な水分補給(脱水はめまい・ふらつきの要因に)

  • 生活環境の工夫

室内の段差や滑りやすいマットの改善

十分な照明

手すりや杖の活用

  • 定期的な整形外科受診

痛みや歩行異常を放置せず、早期に専門医へ相談することが、転倒リスク低減と生活の質向上につながります。

参考文献

  1. Shimada H, et al: Relationship between gait speed and cognitive decline in older adults. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 68(8): 957–963. 2013.
  2. 日本整形外科学会: ロコモティブシンドローム予防啓発資料. 2015.
  3. Campbell AJ, et al: Risk factors for falls in a community-based prospective study of people 70 years and older. J Gerontol. 44(4): M112–M117. 1989.
  4. Ganz DA, et al: Will my patient fall? JAMA. 297(1): 77–86. 2007.
  5. Lord SR, et al: Visual risk factors for falls in older people. J Am Geriatr Soc. 49(5): 508–515. 2001.

 

 



一覧へ