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2025年9月17日

歩幅が狭くなるのは老化?それとも病気のサイン?

ハイライト

「歩幅が狭くなる」のは加齢の自然な変化ともいえますが、時に整形外科的な病気のサインであることもあります。筋力低下、神経疾患、関節障害など多様な原因が関わり、放置すれば転倒や要介護のリスクを高めます。本稿では、歩幅が狭くなる原因、老化との違い、病気の可能性、整形外科での診断・治療、日常でできる予防法について詳しく解説します。

目次

歩幅とは何か──基本のメカニズム

歩幅の定義

歩幅とは、一歩ごとに足を踏み出す距離のことです。通常、成人の平均歩幅は身長の約40〜45%とされ、身長160cmの人ならおよそ65〜70cmが目安になります。

 

歩幅を決める要素

 

これらが協調して働くことで、一定のスピードと安定感をもった歩行が可能となります。

歩幅が狭くなる原因:老化と生活習慣の影響

加齢とともに筋肉量は年1%前後減少すると言われています。特に下肢筋力の低下は顕著で、大腿四頭筋や殿筋が弱まると一歩を大きく踏み出せなくなります。また、関節軟骨の摩耗による動きの制限や、バランス能力の低下も歩幅の縮小に影響します。

 

■ 運動不足:日常的に歩く機会が少ないと歩幅は狭くなる

■ 姿勢不良:猫背や腰の曲がりは重心を前方に移せず、小股歩きになる

■ 肥満:体重増加による下肢への負担が歩幅を小さくする

 

転倒経験や不安感も歩幅を縮める要因です。「転ばないように」と無意識に小さな歩幅を選択してしまうケースも少なくありません。

 

病気が隠れている可能性──要注意なサイン

歩幅の狭小化が単なる加齢の結果なのか、それとも病気によるものかを見極めることは非常に重要です。

 

整形外科的な病気

  • 変形性膝関節症:膝の痛みや可動域制限により歩幅が小さくなる
  • 股関節疾患(臼蓋形成不全や変形性股関節症):股関節の可動域制限で前に足を出しづらくなる
  • 腰部脊柱管狭窄症:長く歩けない、間欠性跛行とともに歩幅が徐々に狭まる

 

神経疾患

  • パーキンソン病:小刻み歩行(すくみ足)や前傾姿勢が特徴
  • 脳梗塞後遺症:片麻痺による左右非対称の歩幅
  • 末梢神経障害:糖尿病性ニューロパチーなどで足が前に出にくい

 

要注意のサイン

  • 最近急に歩幅が狭くなった
  • 痛みやしびれを伴う
  • 小刻み歩行やすくみ足がある
  • 転倒が増えている

 

これらが当てはまる場合、単なる老化ではなく病気のサインの可能性があります。

整形外科での診断とリハビリテーション

診断の流れ

整形外科では次のような評価を行います。

  1. 問診:発症時期、生活習慣、既往歴
  2. 歩行観察:歩幅、歩行速度、バランスの確認
  3. 身体所見:関節可動域、筋力、姿勢のチェック
  4. 画像検査:X線やMRIで関節や脊柱の異常を確認
  5. 神経学的検査:反射や感覚異常の評価

リハビリテーション

  • 筋力強化:スクワットやレッグプレスで大腿四頭筋を鍛える
  • ストレッチ:股関節・膝関節の可動域を広げる
  • バランス訓練:片脚立ちやステップ練習で安定性を高める
  • 歩行練習:メトロノームやリズムに合わせた歩行で歩幅を改善

 

理学療法士による個別プログラムが効果的で、必要に応じて杖や歩行補助具を用いることもあります。

歩幅を広げるための日常生活での工夫と予防策

日常でできる工夫

  • 大股歩きを意識する:1日10分程度のウォーキング
  • 階段の昇降:下肢筋力を自然に強化
  • 姿勢改善:背筋を伸ばし、目線を前に向けて歩く
  • 定期的な運動:ヨガ、ピラティス、太極拳なども有効

 

生活習慣の見直し

  • バランスの良い食事(タンパク質・カルシウム・ビタミンD)
  • 禁煙と適正体重の維持
  • 睡眠の質を確保し、疲労回復を促す

 

早期受診の重要性

「歩幅が狭くなった」と感じた時点で整形外科を受診すれば、早期の診断とリハビリで改善が期待できます。特に転倒や骨折の予防の観点からも、早めの対応が重要です。

参考文献

  1. Lin FR, et al: Hearing loss and falls among older adults in the United States. Arch Intern Med. 172(4): 369–371. 2012.
  2. Viljanen A, et al: Hearing as a predictor of falls and postural balance in older female twins. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 64(2): 312–317. 2009.
  3. Lopez D, et al: Self-reported hearing, use of hearing aids, and falls in older adults. J Aging Health. 23(1): 115–128. 2011.
  4. Black FO: Clinical status of peripheral vestibular disorders: an overview. Otolaryngol Head Neck Surg. 112(1): 3–15. 1995.
  5. 日本耳鼻咽喉科学会: 加齢性難聴とその対策. 2020.

 

 

 



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