2025年3月29日
猫背は見た目だけでなく、首・肩・腰の不調の原因にもなります。本コラムでは、猫背が体に与える影響と、その改善方法を筋力トレーニングとストレッチの両面から詳しく解説します。
いわゆる「猫背」とは、背中が丸まった姿勢のことで、医学的には「胸椎後弯(きょうついこうわん)」と呼ばれる状態です。通常、背骨は「S字カーブ」と呼ばれる自然な湾曲を保っており、頭や体幹の重さを効率的に分散しています。しかし猫背になると、この湾曲が崩れ、胸椎が過剰に後方へ曲がることによって、首や腰のバランスも崩れてしまいます。
猫背にはいくつかのタイプが存在します
▪️頭部前方突出型:頭が胴体より前に出ている状態
▪️肩甲骨内転不全型:肩が内側に巻き込み、背中が広がっている
▪️腰椎後弯型:腰の反りがなくなり、骨盤が後ろに倒れている
これらの姿勢は見た目に影響を及ぼすだけでなく、筋肉のアンバランスや関節の負担を引き起こし、やがて痛みや不調につながるのです。
猫背の状態が長く続くと、様々な身体的不調が現れてきます。代表的なものとしては以下のような症状があります。
猫背の姿勢では頭の位置が前方にずれるため、首や肩の筋肉に常に負担がかかります。特に僧帽筋や肩甲挙筋が緊張し続け、慢性的な肩こりや首の痛みの原因となります 1)。
背中が丸まると、骨盤が後ろに傾き、腰椎の前弯が消失します。このことで腰椎にかかる負担が増大し、慢性的な腰痛を引き起こす要因になります 2)。
胸椎の後弯が強くなることで胸郭が圧迫され、肺が十分に広がらず、浅い呼吸になります。これにより、疲れやすくなったり、集中力が低下することもあります。
姿勢の悪化により内臓が圧迫され、消化機能の低下や便秘など、内臓への影響も懸念されます。
猫背が首や腰にどのように影響を与えるかを理解するには、身体のバランス構造について知る必要があります。
頭の重さは成人で約5kgありますが、この重さが首の真上に位置していれば、筋肉に負担は少なくなります。しかし、猫背により頭が前方に出ると、首や肩の筋肉が常にこの重さを支えることになり、筋肉疲労が蓄積します 3)。
猫背では前面の筋肉(胸筋、腹筋)が緊張し、背面の筋肉(脊柱起立筋、僧帽筋など)が弱化します。この前後の筋力バランスの崩れが、姿勢をさらに悪化させ、慢性痛を助長する原因となります。
長時間の不良姿勢は筋膜の柔軟性を失わせ、硬直や癒着を引き起こします。これにより可動域が狭まり、血行不良や神経圧迫など、痛みやしびれといった症状につながることがあります 4)。
筋力トレーニングは猫背改善において非常に重要です。特に弱化しやすい背部の筋肉や、骨盤を支える筋肉を鍛えることで、正しい姿勢を維持しやすくなります。
1)。
目的:僧帽筋中部・菱形筋の強化
方法:椅子に座り、背筋を伸ばした状態で両肘を背中側に引くように肩甲骨を寄せる。10秒キープ×10回。
目的:大殿筋・ハムストリングスの強化
方法:仰向けで膝を立て、ゆっくりお尻を持ち上げて5秒キープし、ゆっくり下ろす。10回×3セット。
目的:腹横筋・多裂筋の強化
方法:うつ伏せから前腕とつま先で身体を支え、まっすぐをキープ。30秒×3セット。
目的:大胸筋・小胸筋の柔軟性向上
方法:壁に手を当て、身体を反対側へひねる。20秒キープ×左右2セット。
1) 田中尚喜: 肩こりのメカニズムと対処法. 整形外科とリハビリテーション. 58巻, 45-52頁. 2021年.
2) 山本誠一郎: 姿勢異常と腰痛の関係. 日本整形外科学会雑誌. 75巻, 1120-1128頁. 2020年.
3) 佐藤正信: 姿勢と重心バランスの科学. バイオメカニクス研究. 19巻, 67-74頁. 2019年.
4) 小林大輔: 筋膜リリースの理論と臨床応用. 理学療法学. 47巻, 88-95頁. 2020年.