コラム・ブログ

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2025年6月12日

“筋トレは毎日やると逆効果”って本当? 筋肉が育つ“休む力”

ハイライト

筋トレは毎日続ければ効果的と思われがちですが、実は「休むこと」が筋肉を育てる鍵です。筋肉が成長するメカニズムや、適切な休養の取り方、整形外科でのリハビリとの関連も交えて詳しく解説します。

目次

筋肉はどうやって育つのか?―筋肥大のメカニズム

筋トレによって筋肉がつく仕組みは、単純な「使えば育つ」ではありません。実際には、「壊して、休んで、再生して強くなる」というサイクルによって成り立っています。

筋力トレーニングによって筋繊維には微細な損傷が生じます。これが「筋肉痛」の原因でもあり、この損傷が回復する過程で筋肉はより強く、太くなります。これを「筋肥大(Hypertrophy)」と呼びます。

運動後の筋肉は、休養をとることで「超回復(Supercompensation)」という現象を起こし、以前よりも強い状態に戻ろうとします。これは自然界における適応反応のひとつで、身体が環境に慣れようとする自己防衛的な反応です。

この再生にはタンパク質やミネラルなどの栄養素が不可欠で、また成長ホルモンの分泌が活発になる睡眠中に最も活発な修復が行われます。

なぜ“休むこと”が必要なのか?―超回復とオーバートレーニング

筋肉に十分な休養を与えないと、回復が間に合わず、むしろ筋力やパフォーマンスが低下する「オーバートレーニング症候群(Overtraining Syndrome)」が起こることがあります1)

この状態になると、

◾️疲労感が抜けない

◾️筋肉痛が長引く

◾️睡眠の質が落ちる

◾️食欲不振

◾️気分の落ち込み

など、心身両面に悪影響を及ぼす可能性があります。

一般的に筋トレによる損傷からの回復には、部位にもよりますが48〜72時間の休養が必要とされます。これを考慮すると、同じ筋肉を連日鍛えるのは非効率、いや「逆効果」とも言えるのです。

毎日筋トレは逆効果?―やりすぎによるリスクと注意点

「継続は力なり」とはよく言われますが、筋トレにおいては「正しい頻度で継続すること」が重要です。

  • 筋肉の分割法(スプリットルーティン)

同じ筋肉を毎日使わないように、「月曜は胸・火曜は脚・水曜は背中」といった分割法でトレーニングすることが一般的です。これにより筋肉ごとに休養日を設けられるため、超回復の原理にかなった方法となります。

  • 関節や腱への負担

筋肉だけでなく、関節や腱、靭帯などの支持組織にも回復の時間が必要です。特に整形外科では、腱障害(腱炎や腱周囲炎)の患者が「筋トレのやりすぎ」によって来院するケースも多く見られます2)

  • 成長ホルモンと回復

無理なトレーニングを続けると、ストレスホルモン(コルチゾール)が増加し、逆に成長ホルモンの分泌が低下することがあります。これも筋肥大を妨げる要因の一つです。

回復を促す工夫と方法―質の高い休養とは何か?

単に「休む」だけでなく、「質の高い休養」が筋肉の発達には求められます。

  • 睡眠の質を高める

成長ホルモンの多くは深い睡眠中に分泌されるため、睡眠の“質”が非常に重要です。特に入眠直後の3時間は、ノンレム睡眠が深くなるため、筋トレ後の夜間の睡眠をしっかりと取ることが回復には効果的です。

  • タンパク質摂取のタイミング

筋トレ後30分以内にタンパク質を含む食事やプロテインを摂取することが、筋肉の修復を助けるとされています。これを「ゴールデンタイム」と呼ぶこともあります3)

  • アクティブレスト(積極的休養)

完全な休息だけでなく、ストレッチや軽いウォーキング、ヨガなどの「アクティブレスト」も血流を促し、回復を助ける方法として有効です。

整形外科リハビリとの共通点―“休む力”を治療にも生かす

筋トレとリハビリ、一見別物に思われがちですが、実は多くの共通点があります。

  • リハビリでも“やりすぎ”は禁物

整形外科リハビリにおいても、「痛みがあるうちは無理しない」「症状に応じて負荷を調整する」という原則が徹底されています。特に、筋損傷・靭帯損傷後のリハビリでは、“回復を待つ時間”も治療の一環です。

  • 筋力アップと関節保護

変形性関節症や腱炎の治療でも、筋トレは不可欠ですが、それは「休み」とのバランスを取った上での話です。たとえば、膝関節において大腿四頭筋を鍛えることは関節負担の軽減につながりますが、毎日追い込むと逆に関節に炎症を起こす危険があります。

  • 個別プログラムの重要性

クリニックでのリハビリでは、患者一人ひとりの体調や目的に応じた運動プログラムを設定します。この点も、筋トレの頻度・内容・休養の取り方を最適化する考え方と通じています。

参考文献

1)Meeusen R, Duclos M, Foster C, et al: Prevention, diagnosis, and treatment of the overtraining syndrome. Eur J Sport Sci. 1-14. 2013.

2)Khan KM, Cook JL, Bonar F, et al: Histopathology of common tendinopathies. Sports Med. 27(6): 393–408. 1999.

3)Tipton KD, Wolfe RR: Protein and amino acids for athletes. J Sports Sci. 22(1): 65-79. 2004.



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