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2025年9月14日

耳が遠くなると転びやすくなる?平衡感覚との関係

ハイライト

耳の聞こえが悪くなると、音情報だけでなく平衡感覚の働きも低下し、転倒リスクが高まります。内耳は「聴覚」と「平衡感覚」を担う重要な器官。加齢による難聴は転倒や骨折の一因となるため、早期の診断とリハビリ、生活習慣の工夫が大切です。

目次

耳と平衡感覚の深い関係

耳というと「聞く器官」と思われがちですが、実は平衡感覚(バランス感覚)を保つ重要な器官でもあります。耳の奥にある「内耳」には、音を感じ取る蝸牛と、体の傾きや回転を感知する前庭器官(半規管・耳石器)が存在します。

 

このように、耳は「聴覚」と「平衡感覚」の両方を担うため、難聴が進行すると同時に平衡機能にも影響が出ることがわかっています。特に高齢者では、耳の障害が転倒リスクの増加と直結することが報告されています1)。

難聴と転倒リスクの医学的根拠

複数の疫学研究では、難聴のある人は転倒のリスクが健聴者より約2倍以上高いと報告されています2)。その背景には以下の要因が考えられます。

◾️音環境の情報不足:周囲の物音や人の動きに気づきにくく、危険を察知するのが遅れる。

◾️内耳の加齢変化:聴覚障害と同時に平衡感覚を司る前庭器官も衰える。

◾️認知機能との関連:難聴は脳への刺激を減らし、注意力や判断力の低下を引き起こす。

転倒は大腿骨頸部骨折や脊椎圧迫骨折につながり、要介護状態の大きな要因となります。特に耳が遠くなる高齢者では、整形外科的な骨折リスクが増加することから、耳の健康は骨や関節の健康と直結しているのです3)。

耳が遠くなることで起こる日常生活の変化

耳が遠くなると単に「会話がしにくい」だけでなく、生活全般にさまざまな影響が出ます。

  • 周囲の環境音が聞き取りにくい

車の接近音や自転車のベルに気づかず事故につながる危険。

  • 空間認識能力の低下

音による位置情報(どの方向から声や音がするか)が得られず、バランスを崩しやすくなる。

  • 活動量の減少

会話や外出がおっくうになり、運動不足や筋力低下を招く。

  • 心理的影響

孤独感や不安感が強まり、転倒予防に必要な自信や積極性が失われる。

 

このように、難聴は「体のバランス」だけでなく「心のバランス」にも影響を及ぼすため、整形外科と耳鼻咽喉科が連携して対応することが重要です。

整形外科での診断と転倒予防リハビリ

  • 整形外科での評価

耳の不調が転倒につながっているかどうかを調べるには、整形外科での総合的な診断が必要です。

◾️問診:転倒歴、難聴の有無、生活習慣の確認。

◾️身体機能評価:歩行速度、片足立ち時間、バランス能力の測定。

◾️画像検査:骨粗鬆症や骨折リスクの有無を確認。

  • リハビリテーション

難聴に伴う転倒リスクを減らすためには、以下のようなリハビリが効果的です。

◾️バランス訓練:片足立ち、足踏み、段差昇降。

◾️下肢筋力強化:スクワットや踵上げで下肢筋を鍛える。

◾️歩行訓練:段差や障害物を想定した安全な歩行練習。

◾️補聴器の使用支援:耳鼻咽喉科と連携し、補聴器の適切な利用を促す。

 

これらを整形外科リハビリで取り入れることで、耳の衰えによる転倒を予防できます。

自宅でできる予防法と生活習慣改善

耳と体の健康は生活習慣で守ることができます。

  • 定期的な耳の検査

年1回は耳鼻咽喉科で聴力検査を受ける。

  • 補聴器や耳のサポート機器を活用

聞こえを補うことで、安心して生活ができる。

  • 日常的な運動

ウォーキング、体操、ヨガなどでバランス能力を維持。

  • 住環境の工夫

段差をなくす、手すりを設置する、滑りにくいマットを使う。

  • 栄養管理

カルシウム・ビタミンD・タンパク質を意識した食事で骨を強化し、転倒時の骨折リスクを減らす。

 

耳の健康と運動習慣の両方を守ることが、転倒予防の鍵となります。

参考文献

  1. Lin FR, et al: Hearing loss and falls among older adults in the United States. Arch Intern Med. 172(4): 369–371. 2012.
  2. Viljanen A, et al: Hearing as a predictor of falls and postural balance in older female twins. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 64(2): 312–317. 2009.
  3. Lopez D, et al: Self-reported hearing, use of hearing aids, and falls in older adults. J Aging Health. 23(1): 115–128. 2011.
  4. Black FO: Clinical status of peripheral vestibular disorders: an overview. Otolaryngol Head Neck Surg. 112(1): 3–15. 1995.
  5. 日本耳鼻咽喉科学会: 加齢性難聴とその対策. 2020.

 

 

 



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