コラム・ブログ

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2025年6月30日

“肩が上がらない”は筋力じゃなく“関節”の問題かも?

ハイライト

「肩が上がらない=筋力低下」と思いがちですが、実は“関節のかたさ”や“癒着”が原因のことも。特に“凍結肩(五十肩)”では、関節包の癒着により可動域が制限されることがあります。今回はその原因や治療法、リハビリ、そして話題の“サイレントマニピュレーション”について詳しく解説します。

目次

肩が上がらない=筋力の問題?その誤解とは

「最近肩が上がりにくくなってきて、筋力が落ちたのかも」

「運動不足が原因かな?」

こうした声は整形外科外来で非常に多く聞かれます。しかし、実際には筋肉そのものよりも“関節の動き”に原因があることが多いのです。

筋力低下で腕が上がらない場合、自動運動(自分で動かす)は制限されますが、他動運動(他人が動かす)はスムーズに動きます。一方で、関節自体が硬くなっている場合、他動運動でも途中で止まってしまうのが特徴です。

◾️他動運動と自動運動の比較

◾️ストレステスト

◾️超音波やMRIによる滑膜や関節包の評価

これらによって、筋力よりも関節可動域や構造に問題があるかどうかが判断されます。

真犯人は“関節”だった?肩関節可動域制限の正体

肩関節は球関節であり、大きな可動域を持ちます。これを支えるのが関節包と呼ばれる袋状の組織。柔軟であるべきこの関節包が硬くなると、肩の可動域は一気に制限されます。

◾️長期の安静や固定

◾️炎症の長期化

◾️糖尿病などの全身疾患

◾️外傷後の瘢痕化

これらの要因が関節包の癒着や線維化を引き起こし、肩の動きに制限を与えます。

拘縮は関節包や靭帯など軟部組織の変化による制限。硬直は神経性の問題(脳卒中後など)であり、リハビリ介入の方針も異なります。

凍結肩(五十肩)とは?進行と自然経過

  • 凍結肩とは

凍結肩は、医学的には「癒着性関節包炎(Adhesive capsulitis)」と呼ばれます¹。加齢や不明な原因により関節包に炎症が起こり、それが線維化・癒着へと進行します。

  • 自然経過とステージ

凍結肩は以下のような段階を経て進行します²³。

  1. 炎症期(痛みが強い):夜間痛や安静時痛が出現
  2. 凍結期(動きが制限される):徐々に可動域制限
  3. 解凍期(少しずつ改善):動きが改善していく
  • 完全に治るのか?

自然に回復することもありますが、回復までに1〜2年を要し、日常生活や仕事に大きな支障をきたすこともあります²³。したがって、積極的な治療介入が必要とされます。

サイレントマニピュレーションとは?適応と効果

  • 手技の概要

サイレントマニピュレーション(Silent Manipulation)は、麻酔下で痛みを伴わずに肩関節を動かすことで、癒着を剥離し可動域を回復させる治療法です⁴⁵。

  • 適応となる症例

◾️凍結期の関節可動域制限が強い症例

◾️リハビリに十分取り組んでも改善がみられない症例

◾️夜間痛や日常生活動作に著しい支障がある場合⁵

  • 効果と注意点

◾️一時的に動きが改善されるが、再癒着のリスクも

◾️麻酔リスクがあるため、持病や高齢の患者では慎重な判断が必要

◾️手技後の早期かつ継続的なリハビリが成功の鍵

  • 手技後のリハビリ計画

◾️当日または翌日からの積極的可動域訓練

◾️再癒着を防ぐためのストレッチと運動療法

◾️注射の併用で炎症の抑制と疼痛軽減

Instagramでもサイレントマニピュレーションについて投稿してるのでぜひチェックしてみてください!!

 

整形外科クリニックでのリハビリの役割と進め方

  • 初期:評価と炎症管理

◾️痛みの評価(VAS、夜間痛の有無)

◾️関節可動域の測定

◾️超音波やX線による関節包の観察

◾️アイシングや消炎鎮痛薬の調整

  • 中期:可動域訓練と徒手療法

◾️関節モビライゼーション(肩甲上腕・肩甲胸郭)

◾️ストレッチの実施と自主練習指導

◾️ホットパックや超音波治療など物理療法の併用

  • 後期:筋力強化と機能回復訓練

◾️ローテーターカフの筋力強化(特に棘上筋・棘下筋)

◾️肩甲骨周囲筋との協調性向上訓練

◾️日常生活動作(ADL)への移行を意識した訓練

  • 医師と理学療法士の連携

リハビリの進捗に応じて、適切な治療戦略の再評価が行われます。回復が見込めない場合には、サイレントマニピュレーションなどの介入も検討されます⁴⁵。

参考文献

1)Neviaser RJ: Adhesive capsulitis of the shoulder. J Bone Joint Surg Am. 27:211-222, 1945.

2)Hand C, Clipsham K, Rees JL, Carr AJ: Long-term outcome of frozen shoulder. J Shoulder Elbow Surg. 17(2):231-236, 2008.

3)Vastamäki H, Kettunen J, Vastamäki M: The natural history of idiopathic frozen shoulder: a 2- to 27-year follow-up study. Clin Orthop Relat Res. 468(4):1240–1248, 2010.

4)Dodenhoff RM, Levy O, Wilson A, Copeland SA: Manipulation under anesthesia for primary frozen shoulder: effect on early recovery and return to activity. J Shoulder Elbow Surg. 9(1):23-26, 2000.

5)成田崇矢 他: 凍結肩に対するサイレントマニピュレーションの治療成績. 中部日本整形外科災害外科学会雑誌. 65(5):1067-1068, 2022.



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