2025年4月11日
膝に水が溜まるという現象は、関節内に炎症が起きることで滑液が過剰に分泌されることが原因です。本コラムでは、膝関節に水が溜まるメカニズムから、症状、診断方法、治療法、そして再発予防や回復に重要なリハビリテーションについて、医学的な視点から詳しく解説します。
膝に「水が溜まる」という表現は、医学的には「関節水腫(joint effusion)」と呼ばれます。これは、膝関節内にある滑膜(関節包の内側にある薄い膜)が何らかの刺激によって炎症を起こし、関節液(滑液)が通常よりも過剰に分泌されることで起こる状態です。
関節液は、本来は関節の動きを滑らかにし、軟骨の摩耗を防ぐ潤滑油のような役割を果たしています。しかし、以下のような原因で滑膜が刺激を受けると、水分が過剰に産生されてしまい、関節が腫れ、動かしにくくなるのです。
最も一般的な原因の一つが変形性膝関節症です。加齢や過度の使用によって関節軟骨がすり減り、関節面に炎症が起きます。これにより滑膜が刺激され、関節液が過剰に分泌されます。
自己免疫疾患である関節リウマチも、関節水腫の大きな原因です。リウマチでは免疫系が自分の関節を攻撃し、慢性的な滑膜炎が起こるため、水が繰り返し溜まる傾向があります
スポーツなどで膝を捻ったり、転倒による打撲なども水腫の原因になります。また、過度な運動や立ち仕事などで関節に負担がかかり続けることも、慢性的な炎症を招く要因となります。
痛風や偽痛風、感染性関節炎(細菌によるもの)など、他の疾患でも関節内に水が溜まることがあります。特に感染性の場合は、速やかな診断と治療が必要です。
関節に水が溜まっている状態では、さまざまな自覚症状が現れます。初期症状としては、膝の腫れや重だるさ、違和感が多く、悪化すると痛みや歩行困難を伴うようになります。
膝蓋骨(お皿の骨)の周辺がぷっくりと膨らみ、押すとぶよぶよとした感触がします。触れると熱を持っていることもあり、炎症が起きている証拠です。
水腫が溜まると関節が内部から圧迫され、曲げ伸ばしがしづらくなります。特に正座や階段昇降など、膝を深く曲げる動作で痛みや不快感を訴える人が多いです。
水腫によって関節内圧が上昇すると、周囲の組織や神経を圧迫し、鈍い痛みや鋭い痛みを感じるようになります。夜間や長時間座った後に痛みが増すこともあります。
正確な診断を行うことで、原因に応じた適切な治療が可能になります。評価には以下の方法が用いられます。
まず重要なのは問診です。症状の始まりや持続期間、悪化する動作や過去の外傷歴などを丁寧に聞き取ります。視診では膝の腫れや皮膚の変色を観察し、触診で圧痛や水腫の範囲を確認します。
▪️X線検査:骨の変形や関節裂隙の狭小化、骨棘形成などが確認され、変形性関節症の評価に有用です。
▪️MRI:半月板損傷や靭帯損傷、滑膜の炎症状態を詳細に評価できます。
▪️超音波(エコー):非侵襲的に水腫の有無や量を確認でき、繰り返し行える利点があります。
超音波で関節水腫を評価↓
水腫が明らかな場合、関節液を針で抜いて検査することがあります。感染や痛風、偽痛風などの鑑別診断に役立ちます。
水が溜まった原因により、治療内容は異なりますが、以下のような方法が一般的です。
▪️安静と冷却:急性期には炎症を抑えるために、患部を冷やし、膝を安静に保つことが重要です。
▪️内服薬(NSAIDsなど):非ステロイド性抗炎症薬を服用することで、痛みと炎症を和らげます。
▪️装具療法:膝のサポーターやテーピングを用いて関節の負担を軽減します。
膝に溜まった水を注射器で抜き取り、炎症を抑えるためにステロイド薬を注入することもあります。ただし、繰り返しの穿刺は感染リスクがあるため、慎重に行う必要があります。
関節リウマチや痛風、感染性関節炎などが原因である場合は、それぞれの疾患に対する専門的治療が行われます。抗リウマチ薬や抗生物質、コルヒチンなどが使用されることがあります。
治療後のリハビリは、再発を防ぎ、膝機能を回復させる上で不可欠なステップです。単に痛みが引いたからといって活動を再開してしまうと、再び水が溜まるリスクが高くなります。
1) 井樋栄二: 膝関節における関節液貯留の意義. 整形外科. 68(5): 465–470. 2017.
2) 小林只: 関節穿刺・関節注射マニュアル. 整形外科看護. 25(10): 925–930. 2020.
3) 日本整形外科学会: 変形性膝関節症診療ガイドライン. 南江堂. 2016.
4) 厚生労働省e-ヘルスネット: 関節リウマチ. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/