コラム・ブログ

コラム・ブログ

2025年8月15日

転んで手をつくと“手首骨折”しやすいのはなぜ?

ハイライト

「転んで思わず手をついたら、強い痛みが…」それは単なる捻挫ではなく“手首の骨折”かもしれません。特に中高年の女性や骨粗鬆症の方に多く見られる「橈骨遠位端骨折」は、転倒時に最も起こりやすい骨折の一つです。この記事では、なぜ手首が骨折しやすいのか、その原因から症状、治療、そして予防法まで詳しく解説します。

目次

手首骨折とは?〜特に多い「橈骨遠位端骨折」〜

手首の骨折の多くは「橈骨(とうこつ)」という前腕の2本の骨のうち、親指側にある骨の手首近くで起こります。特に骨の先端部分(遠位端)は関節面を形成しており、転倒時に手をついた際の衝撃が集中しやすいため骨折が生じます。この骨折は高齢者に多い骨折の代表例であり、整形外科診療で非常に頻度の高い疾患です。

日本でも高齢化に伴い橈骨遠位端骨折は年々増加しており、特に女性は閉経後の骨粗鬆症の影響で発症率が高いことが知られています1)。若年層でもスポーツや交通事故によって発生することがあり、全年齢層で注意が必要です。

なぜ転んで手をつくと骨折しやすいのか?

人は転倒したとき、無意識に手を前に出して地面を支えようとします。この動作を「フォール・オン・アウトストレッチド・ハンド(FOOSH)」と呼びます。体重と転倒の勢いが一気に手首にかかるため、骨に強大な力が集中します。

橈骨遠位端は関節に近く、骨の断面積が小さくなっているため衝撃に弱い構造です。さらに骨粗鬆症があると骨密度が低下し、わずかな転倒でも骨折につながります2)。

◾️女性は閉経後にエストロゲン低下により骨量が減少

◾️高齢者は反射神経が鈍く転倒しやすい

◾️骨粗鬆症患者は衝撃に耐えられない

これらが重なることで「転んだだけで手首を骨折する」ケースが非常に多くなるのです。

見逃されやすい症状と診断のポイント

  • 代表的な症状

◾️転倒直後から手首に強い痛み

◾️腫れや変形(特に手首が背側に曲がった“フォーク状変形”)

◾️動かすと強い痛みが走り、手を握れない

◾️内出血や熱感

一見すると「捻挫」や「打撲」と思われがちですが、骨折の可能性は高く、整形外科での画像検査が不可欠です。

  • 診断方法

◾️X線検査:骨折の有無や転位の程度を評価

◾️CT検査:関節面の詳細評価に有効

◾️MRI検査:靭帯損傷や軟部組織の損傷を確認

骨折の有無だけでなく、関節面がずれていないかどうかが治療方針に直結します。

整形外科での治療とリハビリテーション

  • 保存療法

骨折部が大きくずれていない場合は、ギプス固定やシーネ固定を行います。通常は4〜6週間程度の固定で骨癒合を目指します。その後は可動域訓練やリハビリを開始します。

  • 手術療法

転位が大きい場合や関節面にずれがある場合は、プレート固定術やワイヤー固定術を行います。最近では掌側ロッキングプレートが主流となり、安定した固定と早期リハビリが可能となっています3)。

  • リハビリテーション

固定後や手術後にはリハビリが欠かせません。

◾️手関節の可動域訓練

◾️握力の回復訓練

◾️日常生活動作(ADL)の回復

を段階的に行うことで、機能障害を最小限に抑えます。

骨折を予防するために今日からできること

  • 骨を強くする生活習慣

◾️適度な運動(ウォーキング・筋トレ)で骨や筋肉を強化

◾️カルシウム・ビタミンD・タンパク質を意識した食生活

◾️日光浴によるビタミンD合成の促進

*栄養のコラムもあります!!ご興味ある方は是非ご覧ください↓↓

  • 転倒予防

◾️家の中の段差や滑りやすい床を改善

◾️運動習慣でバランス感覚を高める

◾️適切な靴選び

  • 骨粗鬆症の治療

骨密度が低い場合は整形外科での薬物療法が有効です。骨粗鬆症治療薬を継続することで骨折リスクを大幅に減らすことができます4)。

*骨粗鬆症について、ご興味ある方は是非ご覧ください↓↓

参考文献

  1. Mueller-Wohlfahrt H-W, et al.: Terminology and classification of muscle injuries in sport: The Munich consensus statement. Br J Sports Med. 47(6):342–350. 2013.
  2. Askling C-M, Tengvar M, Thorstensson A: Acute hamstring injuries in Swedish elite football: A prospective randomised controlled clinical trial comparing two rehabilitation protocols. Br J Sports Med. 47(15):953–959. 2013.
  3. Schwellnus M-P: Cause of exercise associated muscle cramps (EAMC)—altered neuromuscular control, dehydration or electrolyte depletion? Br J Sports Med. 43(6):401–408. 2009.
  4. Dubois B, Esculier J-F: Soft-tissue injuries simply need PEACE and LOVE. Br J Sports Med. 54(2):72–73. 2020.
  5. Peetrons P: Ultrasound of muscles. Eur Radiol. 12(1):35–43. 2002.

 

 

 



一覧へ