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2025年9月6日

運動直後のアルコールは筋肉にとって天敵?

ハイライト

「運動後の一杯」は美味しいですが、筋肉にとっては回復を妨げるリスクがあります。アルコールは筋タンパク質合成を阻害し、炎症や脱水を助長するため、リハビリやパフォーマンス向上を目指す方にとっては“天敵”とも言える存在です。本記事では整形外科クリニックの視点から、アルコールが運動直後の身体に及ぼす影響を科学的に解説します。

目次

運動後の身体で起きていること

アルコールが筋肉に及ぼす生理学的影響

アルコールは全身にさまざまな影響を及ぼしますが、とくに運動後の筋肉にとっては以下のような悪影響があります。

研究ではアルコール摂取により、筋肉のタンパク質合成が有意に低下することが示されています1)。これは筋肉の修復や成長を阻害する大きな要因です。

アルコールは筋損傷後の炎症反応を長引かせ、酸化ストレスを強めるため、筋肉の回復が遅れやすくなります。

アルコールには利尿作用があるため、運動で失った水分にさらに拍車をかけて脱水を進行させます。結果として筋けいれんや疲労感が強まります。

アルコールは入眠を助ける一方で、深い睡眠を妨げ、成長ホルモン分泌を抑制するため、筋肉の回復力を下げてしまいます。

筋肉の回復・成長とアルコールの関係

筋肉を鍛える目的で運動している人にとって、アルコールは「成果を打ち消す存在」になり得ます。

  • 筋肥大の阻害

高強度トレーニング後にアルコールを摂取した群では、筋肥大のマーカーが低下する報告があります2)。

  • グリコーゲン補充の遅延

炭水化物と一緒にアルコールを摂取した場合、肝臓や筋肉でのグリコーゲン再合成が遅れることが確認されています。これは持久系競技のパフォーマンスにも影響します。

  • ホルモンバランスの乱れ

テストステロン分泌の低下、コルチゾール上昇が指摘されており、筋肉の分解を助長するリスクがあります。

リハビリテーションとアルコール摂取の注意点

整形外科クリニックでリハビリを行う患者さんにとっても、アルコールは大敵です。

  • 術後や外傷後の回復遅延

骨折後の骨癒合や、靭帯再建術後のリハビリ過程でアルコールが関与すると、修復のスピードが落ちると報告されています3)。

  • 筋力再建の阻害

特に膝や股関節術後リハビリでは、筋力回復が重要ですが、アルコール摂取は筋タンパク質合成を妨げるため、リハビリ効果を半減させる可能性があります。

  • 転倒リスクの増加

アルコール摂取は平衡感覚を乱し、術後や高齢者リハビリ患者において転倒リスクを高めます。

健康と上手に付き合うアルコール習慣

とはいえ、完全にアルコールを避けるのが現実的でない方も多いでしょう。大切なのは「タイミングと量の調整」です。

  • 運動直後(少なくとも6時間以内)は控える
  • 十分な水分・タンパク質・炭水化物を先に補給する
  • 週あたりの飲酒量をガイドラインに沿って管理する(厚労省は純アルコール量で1日20g程度を目安と推奨)
  • 睡眠前の過剰飲酒は避ける

これらを守ることで、健康とパフォーマンスを両立させることができます。

参考文献

  1. Parr EB, Camera DM, Areta JL, et al: Alcohol ingestion impairs maximal post-exercise rates of myofibrillar protein synthesis following a single bout of concurrent training. PLoS One. 2014;9(2):e88384.
  2. Barnes MJ, Mundel T, Stannard SR: Post-exercise alcohol ingestion exacerbates eccentric-exercise induced losses in muscle performance. Eur J Appl Physiol. 2010;108(5):1009-1014.
  3. Chakkalakal DA: Alcohol-induced bone loss and deficient bone repair. Alcohol Clin Exp Res. 2005;29(12):2077-2090.

 

 



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