コラム・ブログ

コラム・ブログ

2025年5月26日

“音が鳴る関節”はなぜ鳴る? ポキポキの正体と注意点

ハイライト

関節の「ポキポキ音」は一体なぜ鳴るのか?その正体は気泡の破裂や腱の移動によるもの。無害なケースも多いですが、痛みを伴う音や頻繁な異音には注意が必要です。リハビリや体のケアの重要性も含めて、関節音のメカニズムと整形外科的な対処法を解説します。

目次

関節の音には種類がある?―その正体とは

関節から発せられる音には、いくつかの種類があります。一般的に聞かれる「ポキポキ」「コキコキ」「ゴリゴリ」などの音は、医学的には関節音(joint sounds)や関節雑音(joint noises)と呼ばれます。この音の正体は、次の3つに大別されます。

「ポキポキ」という軽い音は、通常、滑液(関節液)中の気泡が弾けることにより生じるとされます。これに対して、「ゴリゴリ」や「コリコリ」とした音は、加齢や疾患による関節軟骨のすり減りや骨棘形成が関与している場合もあります1)

「ポキポキ」音のメカニズム

関節は滑液で満たされており、関節を急に引き伸ばすことで関節包内の圧力が急激に低下し、滑液内に含まれるガス(主に二酸化炭素)が気泡となり、それが弾ける音が「ポキッ」と聞こえるのです1)

この現象については、1971年のUnsworthらの研究や、2015年にKawchukらがMRIを用いてリアルタイムで観察した研究が代表的です。Kawchukらの報告では、関節音の瞬間に関節腔内にガスが残る様子も描写されており、従来の「気泡が破裂する」という説に対し、「気泡が形成されるときに音がする」という説も提起されています2)

音が鳴ることは問題?受診すべきケースとは

基本的に音がするだけで痛みや腫れ、機能障害がなければ問題ありません。特に若年者や運動習慣のある人に多くみられる一過性の関節音は、病的意義がないとされています。

しかし、次のような場合には整形外科の受診が推奨されます。

  • 音と同時に痛み腫れを感じる
  • 音が関節運動時に必ず生じるようになった
  • 日常生活での関節の引っかかり感が強くなる
  • 変形や関節可動域の減少がある

これらは、関節内に構造的な変化が生じている可能性があり、画像検査(X線、MRI、超音波)による評価が必要です。変形性関節症や関節内遊離体、靭帯損傷などが見つかることもあります。

リハビリテーションでできる対策と予防

整形外科におけるリハビリテーションは、関節音に対しても有効なアプローチです。音そのものを完全に消すことは難しくても、関節の滑らかな動きを促し、異常な負荷を減らすことが可能です。

関節音のリハビリでの主な介入法

  • 可動域訓練(ROM訓練)

滑らかな動作を取り戻すために関節を無理なく動かします。関節包や靭帯の柔軟性も改善されます。

  • 筋力強化トレーニング

特定の筋群(例:膝周囲の大腿四頭筋、肩のローテーターカフ)を鍛えることで関節の安定性が増し、異常音の発生を抑えることができます。

  • 関節モビライゼーション

関節内の遊び(joint play)を回復させる手技で、拘縮予防にも有効です。

  • 動作指導と生活指導

膝を深く曲げる動作や首を急に回す癖など、音を引き起こす習慣を見直すことで改善が期待できます。

関節音との正しい付き合い方

関節の「音」自体がすぐに病気につながるわけではありません。むしろ多くの場合、**生理的現象としての“関節音”**であり、過度に心配する必要はないのです。

ただし、以下のポイントは日常生活で意識しておくことが望ましいです。

  • 音を鳴らす「癖」は、場合によっては靭帯や関節包に負担をかける可能性があるため、頻繁に鳴らすのは避けるのが無難
  • 運動前後のウォームアップやクールダウンを適切に行い、関節にかかるストレスを軽減する
  • 体重管理や栄養バランスも関節保護には重要な要素
  • 痛みや不安がある場合は、整形外科医に相談し、適切な診察と指導を受ける

参考文献

1)Unsworth A, Dowson D, Wright V: ‘Cracking joints’. A bioengineering study of cavitation in the metacarpophalangeal joint. Ann Rheum Dis. 30(4):348-358, 1971.

2)Kawchuk GN et al.: Real-Time Visualization of Joint Cavitation. PLoS One. 10(4):e0119470, 2015.

3)Boudier-Revéret M et al.: Joint noises: a review of mechanisms and clinical significance. J Clin Orthop Trauma. 11(3):402–408, 2020.

 



一覧へ