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2025年7月24日

頸肩腕症候群とは?

ハイライト

「肩こりがつらい」「腕がだるい」「集中力が続かない」…その症状、実は“頸肩腕症候群”かもしれません。単なる疲労や姿勢の悪さでは片づけられず、現代社会の働き方が招く“生産性の落とし穴”とも言えるこの疾患。症状、原因、なりやすい職業、整形外科でのリハビリ対応、そして労働生産性への影響まで、医療の視点からわかりやすく解説します。

目次

頸肩腕症候群とは何か?——定義と診断のポイント

頸肩腕症候群(けいけんわんしょうこうぐん)は、首(頸部)、肩、腕(上肢)にかけて痛み、こり、しびれ、だるさなどの不快症状を感じる状態を指します。

特徴は「明確な器質的疾患(例:椎間板ヘルニアや骨折など)がないのに症状がある」という点です。

画像検査では異常が見つからないのに、本人は日常生活に支障をきたすほどの不快感を訴えることがあります。原因は、筋肉の過緊張、血流障害、神経の軽度圧迫、自律神経のアンバランスなどが複合的に関与していると考えられています。

似たような症状を示す疾患——たとえば頚椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群、頸椎症性神経根症など——を除外し、器質的な疾患が認められない場合に診断されます。

なりやすい職業とリスク要因——デスクワークだけじゃない

頸肩腕症候群は、特定の生活スタイルや職業によってリスクが高まります。

発症しやすい職業例

長時間の同一姿勢、特に前傾姿勢が原因で肩や首の筋肉が硬直。

腕を挙げたままの姿勢が続く仕事は、肩甲帯や頸部の筋肉に過度の緊張を強います。

利用者の移乗介助や長時間の立位業務、身体をねじる動作などが負担に。

腕の静的保持や細かい動作の繰り返しによって筋疲労が蓄積します。

長時間の運転やハンドル操作も首・肩・腕に慢性的な緊張を与えます。

 

個人の生活習慣も関与

 

これらが複合的に関与することで、頸肩腕症候群のリスクが高まるのです。

頸肩腕症候群の主な症状——肩こりだけじゃないその実態

この症候群では、次のような症状が複数組み合わさって出現します。

 

主な症状一覧

  • 頸部から肩、肩甲骨、上腕にかけてのこり感や重だるさ
  • 肩関節の動かしづらさや痛み
  • 上肢への放散痛、しびれ、脱力感
  • 頭痛、吐き気、眼精疲労(自律神経症状)

 

症状のメカニズム

  • 筋肉の過緊張と血行不良:長時間の姿勢維持により筋肉が酸欠状態に
  • 末梢神経の軽度圧迫:特に腕神経叢(斜角筋、鎖骨下、小胸筋付近)
  • 自律神経のバランス崩壊:ストレスや痛みによる交感神経過剰状態

 

これらが慢性的に続くことで悪循環に陥り、症状が固定化してしまうこともあります。

整形外科での診療とリハビリ——治療と再発予防の取り組み

整形外科クリニックでは、以下の手順で診療が行われます。

 

診断の進め方

  1. 問診:症状の詳細、仕事・生活スタイルの確認
  2. 視診・触診:姿勢・筋緊張・関節の可動域チェック
  3. 徒手検査:神経根刺激テスト(ジャクソン、スパーリングなど)
  4. 画像検査:X線、MRIなどで他疾患の除外診断

 

治療内容(保存療法が中心)

  • 温熱療法・電気刺激療法:血行促進、筋肉の緊張緩和
  • 手技療法(マッサージ、筋膜リリースなど)
  • 運動療法:肩甲帯や頸部の安定性を高めるトレーニング
  • 姿勢・動作指導:生活・職業動作の改善
  • ストレッチ指導:肩甲骨や胸郭の可動域を拡げる

 

心理的ケアの重要性

 

痛みが長引くと、「また痛くなるかも…」という不安が悪循環を強める要因となります。必要に応じて心理面のフォローも併用します。

 

労働生産性への影響と対策——企業にも求められる対応

近年、頸肩腕症候群は“職場の健康管理”という観点だけでなく、労働生産性の観点からも注目されています。

 

生産性への具体的影響

  • 作業効率の低下
  • 集中力の減退
  • 業務ミスの増加
  • 体調不良による欠勤や早退

 

ある調査では、頸肩部の慢性痛を持つ労働者の約60%以上が「仕事のパフォーマンスに支障がある」と回答しています【2】。特に長時間の集中が求められるデスクワークや製造業、接客業などでは影響が顕著です。

 

働きやすい職場環境が「生産性」を守る

 

「頑張って我慢する」が美徳とされがちな日本の職場文化では、症状の訴えが後回しにされがちです。しかし、早期の介入こそが生産性維持と業務継続性の鍵となります。

参考文献

1)厚生労働省: 頸肩腕障害の業務上外の認定基準. 労災補償関係通達. 2009年.

2)小池敏英ら: 頸肩腕症候群と生産性低下との関係. 日職業医誌. 62(2): 121–127. 2014年.

3)長谷川修平ら: 理学療法士による姿勢指導と頸肩腕症候群の改善効果. 理学療法学. 40(4): 201–207. 2013年.

4)日本整形外科学会: 頸肩腕障害診療ガイドライン. 2021年.

5)独立行政法人 労働政策研究・研修機構: 職場の健康と労働生産性に関する調査報告. 2022年.

 



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