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2025年8月29日

骨はどこで伸びる?成長線(骨端線)のひみつ

ハイライト

骨はただ固い棒のように伸びるのではなく、「成長線(骨端線)」という特別な場所で長さを増していきます。成長期にしか存在しないこの線は、子供の背が伸びる仕組みの鍵。スポーツや生活習慣によって影響を受け、ケガや病気で障害されることもあります。今回は、骨端線の基礎知識から役割、トラブル、診断方法、そして健やかな成長のために大切なことまで、整形外科の視点で詳しく解説します。

目次

骨端線とは?──成長の舞台となる“線”の正体

骨はどう伸びる?──骨端線の働きと成長の仕組み

骨端線では「軟骨細胞(chondrocyte)」が分裂・増殖し、それがやがて硬い骨組織へと置き換わります。このプロセスは「軟骨内骨化」と呼ばれ、以下のような段階を経ます。

骨端線の中央部では、軟骨細胞が活発に分裂して数を増やします。

分裂を終えた軟骨細胞は大きく膨らみ、軟骨組織全体を押し広げます。

膨らんだ細胞の周囲にカルシウムが沈着し、硬い構造に変わります。

血管や骨芽細胞が侵入し、石灰化した部分を本物の骨組織に置き換えます。

この一連のサイクルが繰り返されることで骨は少しずつ長くなり、結果として身長が伸びていきます 。

 

成長が終わると骨端線は閉鎖し、X線上でも線が消えて「骨端線閉鎖」と呼ばれる状態になります。これが大人の骨です。

骨端線に起こるトラブル──スポーツ障害と病気

骨端線は成長期にしか存在せず、非常にデリケートな部位です。そのため、過度なスポーツ活動や外傷によって障害を受けやすく、以下のような問題が生じることがあります。

 

成長期スポーツ障害

  • 骨端線損傷(成長線骨折)

転倒や外傷で骨端線が損傷すると、成長のバランスが崩れ、将来的に骨の変形や左右差を生じる可能性があります 。

  • オスグッド病(脛骨粗面骨端症)

膝の下に痛みや腫れが出る疾患で、ジャンプや走る動作を繰り返す子供に多く見られます。骨端線の一部に炎症が生じるのが原因です。

  • 離断性骨軟骨炎

関節内の骨端部に血流障害が起こり、骨や軟骨が剥がれ落ちる病気です。スポーツを盛んに行う子供に見られることがあります。

 

内科的な問題

  • ホルモン異常(成長ホルモンの分泌不全など)
  • 栄養不足(カルシウム・ビタミンD不足による骨成長不良)
  • 全身疾患(慢性腎疾患による骨成長障害など)

 

こうした問題が骨端線に影響を及ぼすと、成長障害や将来的な整形外科的トラブルにつながるため注意が必要です。

整形外科での診断と治療──画像検査とリハビリの役割

診断

骨端線に関わる障害が疑われる場合、整形外科では次のような流れで診断します。

  • 問診(痛みの部位・発症状況・運動歴)
  • 身体診察(圧痛や可動域制限の確認)
  • 画像検査

◾️X:骨端線の開存や損傷の有無を確認

◾️MRI:軟骨や骨端部の血流障害の評価に有効

◾️超音波検査:非侵襲的に軟骨や成長状態を観察できる

 

治療

  • 保存療法

骨端線損傷の多くは、安静・固定・理学療法により改善します。

  • 運動療法(リハビリ)

柔軟性を高めるストレッチや体幹筋強化を通じ、再発予防を図ります。

  • 手術療法

重度の骨端線損傷や変形には外科的手術が必要になる場合もあります。

成長を支える生活習慣──骨端線を守るためにできること

骨端線の健康を保つためには、日常生活での習慣が重要です。

 

適度な運動

  • 過度な練習は骨端線に負担をかけます。
  • 休養日を設け、成長期特有の疲労を回復させましょう。

 

栄養管理

  • カルシウム(牛乳・小魚・緑黄色野菜)
  • ビタミンD(魚類・日光浴)
  • タンパク質(筋肉と骨の基礎材料)

 

姿勢と生活リズム

  • 猫背や長時間の座位は成長に悪影響を及ぼします。
  • 睡眠中に分泌される成長ホルモンを最大限に活かすため、十分な睡眠を確保しましょう。

 

早期発見

  • 膝や足の痛みが長引く場合は「成長痛」と片付けず、整形外科を受診しましょう。

 

参考文献

  1. Bright RW, Burstein AH: Epiphyseal plate physiology and injury. Clin Orthop Relat Res. 158: 102–112. 1981.
  2. Ogden JA: Skeletal injury in the child. Springer-Verlag. 1990.
  3. 中村耕三: 成長軟骨と成長障害. 日本整形外科学会雑誌. 69(3): 225–234. 1995.
  4. 日本整形外科学会: 小児のスポーツ障害予防ガイドライン. 2019.
  5. Khosla S, Melton LJ: Clinical practice. Osteopenia. N Engl J Med. 350: 1516–1525. 2004.

 

 



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