2025年10月10日

「最近なんとなく疲れやすい」「運動すると息切れする」──そんな症状がある方は、“鉄不足”が原因かもしれません。鉄は血液だけでなく、筋肉やエネルギー代謝にも深く関わる重要な栄養素です。見逃されやすい“隠れ貧血”は、整形外科領域でも筋力低下や回復力の低下につながります。本コラムでは、鉄の役割と不足による影響、そして整形外科的視点からの対策について詳しく解説します。
鉄の最も重要な役割は、「酸素を運ぶこと」です。
赤血球の中にあるヘモグロビンは、鉄を中心としたタンパク質で、肺で取り込んだ酸素を全身の細胞に届けます。
◾️鉄が不足すると、酸素供給量が減り、筋肉や脳が十分に働けなくなります。
◾️その結果、「だるい」「立ちくらみがする」「運動で息切れする」といった症状が現れます。
つまり鉄は、「体を動かすエネルギーの第一歩」を担っているのです(1)。
鉄は筋肉にも多く存在し、ミオグロビンというタンパク質の中心構成要素となっています。
ミオグロビンは、酸素を一時的に貯蔵し、筋肉が必要なときに素早く供給する役割を持っています。
◾️運動時に筋肉が酸欠状態になるのを防ぐ
◾️筋肉疲労の回復を早める
◾️持久力を高める
鉄が不足するとこの仕組みがうまく働かず、「同じ運動をしても疲れやすい」「筋肉痛が長引く」といった状態を招きます。
細胞の“発電所”と呼ばれるミトコンドリアも、鉄がないと機能しません。
ミトコンドリアでは、鉄を含む酵素が酸素を利用して**ATP(エネルギー)**を作り出しています。
鉄不足になるとこの代謝が滞り、全身の倦怠感や集中力の低下が起こります。
つまり鉄は、単に「酸素を運ぶ」だけでなく、「酸素を使ってエネルギーを生み出す」ためにも不可欠な栄養素なのです(1)。
鉄は、免疫細胞の分化や脳内の神経伝達物質(ドーパミン・セロトニンなど)の合成にも関与します。
そのため鉄不足は、感染への抵抗力の低下や気分の落ち込みにもつながります。
慢性疲労やメンタル不調が鉄不足で悪化するケースもあり、身体と心の両面で重要な栄養素といえます。
鉄は肝臓や骨髄に「フェリチン」として貯蔵されています。
フェリチン値が低下すると、見かけ上のヘモグロビンが正常でも、体はすでに鉄不足状態です(2)。
この段階では、「なんとなく疲れる」「手足が冷える」「爪が割れる」といった軽い症状が現れます。
貯蔵鉄が枯渇すると、血中の鉄(血清鉄)も減少し、ヘモグロビン合成が追いつかなくなります。
すると酸素運搬能が低下し、筋肉・脳・内臓がエネルギー不足に陥ります。
◾️月経のある女性
◾️妊娠・授乳期の女性
◾️成長期の子ども
◾️持久系アスリート(ランナー、水泳選手など)
◾️ダイエットや偏食のある人
これらの人は鉄の需要が高く、慢性的な鉄欠乏を起こしやすいとされています(3)。