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2025年12月20日

「レントゲンで異常なし」=「問題なし」ではありません。画像に写らない痛みの犯人と、リハビリテーションで見つける解決策

ハイライト

「レントゲンは異常ありません、湿布を出しておきますね」。この言葉に、「こんなに痛いのに嘘でしょ?」と落ち込んだ経験はありませんか? しかし、これは医師が適当なわけでも、あなたの痛みが気のせいなわけでもありません。実は、痛みの原因の多くはレントゲンには「写らない」のです。画像診断の死角と、見えない原因を見つけ出す「リハビリテーション」の正体に迫ります。

目次

はじめに:「こんなに痛いのに異常なし?」の正体

診察室でレントゲン写真を前に、「骨には異常ありませんね。様子を見ましょう」と告げられたとき。 安心する一方で、「じゃあ、このズキズキする痛みは何なの?」「治る見込みはあるの?」と、行き場のない不安を感じる患者さんは非常に多いです。

時には「精神的なものでしょう」と片付けられてしまい、整形外科を転々とする「ドクターショッピング」に陥る方もいます。

しかし、整形外科のリハビリテーションの現場から断言できることがあります。「レントゲンで異常がない」ということは、「痛みの原因が存在しない」という意味ではありません。それは単に、「レントゲンというカメラには写らない場所に原因がある」あるいは「静止画では判断できない問題が起きている」というだけの話なのです。

レントゲンは「影絵」。得意なことと苦手なこと

誤解のないように言っておくと、レントゲン(X線撮影)は、骨折や骨腫瘍などの重大な病気を見つけるためには絶対に必要な、素晴らしい検査です。 しかし、万能ではありません。その仕組みは「影絵」によく似ています。

硬いものは写る、柔らかいものは透ける

X線は、物体を突き抜ける性質があります。

つまり、レントゲン検査が得意なのは「骨の形や並びを見ること」です。 逆に言えば、骨以外の「筋肉の炎症」「筋膜の癒着」「靭帯の細かな傷」「神経の圧迫」などは、レントゲン写真上では透明人間のように見えません。 「骨に異常なし」とは、「骨折や脱臼はしていない(だから手術の必要はない)」という診断であり、「筋肉や神経は健康です」という保証ではないのです。

写らない犯人たち:筋肉、筋膜、そして「動き」のバグ

では、レントゲンに写らない痛みの原因には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

① 軟部組織(なんぶそしき)のトラブル

骨以外の柔らかい組織の異常です。

  • 筋肉のスパズム(強張り):筋肉が過緊張を起こし、酸欠状態になって痛みを出している状態。
  • 筋膜の癒着:筋肉を包む膜がベタリと張り付き、滑りが悪くなって引きつれを起こしている状態。
  • 微細な靭帯損傷:捻挫などで靭帯が伸びたり、小さな傷がついたりしている状態。

これらは、いくらレントゲンを撮っても写りませんが、強烈な痛みの原因になります。

② 機能的な問題(動きのバグ)

これが最も厄介で、かつ多い原因です。 レントゲンはあくまで「静止画」です。じっとしている時の形しか分かりません。

しかし、痛みが出るのは「動いた時」であることが多いはずです。

  • 腕を上げた時だけ、肩のインナーマッスルが骨に挟み込まれる(インピンジメント)。
  • 歩く時だけ、膝のお皿が外側にズレて軟骨と擦れる。

こうした「動きの中で起きる不具合(機能障害)」は、どれだけ高性能なレントゲン撮影をしても、決して見つけることはできません。

見えない痛みを見える化する「エコー」と「徒手検査」

レントゲンで見つからない原因を特定するために、私たちのクリニックでは別の「目」を使います。

● 超音波画像診断装置(エコー)

レントゲンが「骨を見る写真」なら、エコーは「筋肉や腱を見る動画」です。

– レントゲンには写らない筋肉の断裂や、靭帯の腫れをリアルタイムで映し出せます。

– 「動かした時にどうなっているか」を確認できるため、痛みの瞬間を捉えることができます。

– 血流が増えている場所(炎症部位)を色で表示することも可能です。

● 理学療法士による徒手(としゅ)検査

機械だけでなく、人の手による評価も不可欠です。 私たち理学療法士は、実際に患者さんの体に触れ、動かしながら確認します。

– 「この角度で動かすと痛いですか?」

– 「ここの筋肉を押すと、痛みが放散しますか?」

– 「右と左で、関節の硬さが全然違いますね」

このように、「画像診断(エコー)」「身体機能評価(リハビリ検査)」を組み合わせることで、レントゲンでは「異常なし」とされた痛みの、本当の正体を突き止めていきます。

「異常なし」からが本番。リハビリテーションで治す

「骨に異常がないなら、リハビリなんて必要ないのでは?」 そう思われるかもしれませんが、逆です。「骨に異常がないからこそ、リハビリテーションが必要」なのです。

骨折ならば、ギプスで固定して骨がつくのを待つのが最優先です。 しかし、筋肉の硬さや、動きの悪さ、姿勢の崩れが原因の痛みであれば、ただ安静にしていても治りません。むしろ、動かさないことで筋肉がさらに硬くなり、痛みが長引くことさえあります。

● 整形外科のリハビリテーションでできること

  • 原因組織へのアプローチ:エコーで見つけた「動きの悪い筋膜」や「炎症を起こしている腱」に対し、ピンポイントで徒手療法や物理療法を行い、修復を促します。
  • 動きの再教育:「なぜそこに負担がかかるのか」を分析し、関節に無理のかからない正しい動き方を脳と体に覚え込ませます。
  • 再発予防:同じ痛みを繰り返さないための、自宅でできるストレッチやトレーニングを指導します。

「レントゲンで異常なし」と言われたら、それは「骨は大丈夫だった」という朗報です。 そして、「じゃあ、本当の原因である筋肉や動きの問題を、リハビリで治していきましょう」という治療のスタートラインに立った合図でもあります。

原因不明の痛みに悩んでいる方は、ぜひ「リハビリテーション」という選択肢を持って、私たちにご相談ください。見えない痛みの原因を、一緒に解き明かしていきましょう。

参考文献

1. **Deyo, R.A., et al.** (2001). “Diagnostic evaluation of low back pain with emphasis on imaging.” _Annals of Internal Medicine._ (腰痛の約85%は画像所見と症状が一致しない「非特異的腰痛」であるというデータに関して)
2. **Jacobson, J.A.** (2002). “Musculoskeletal sonography and MR imaging: A role for both?” _Seminars in Musculoskeletal Radiology._ (筋骨格系における超音波診断とMRIの役割分担、軟部組織描出の優位性について)
3. **Chou, R., et al.** (2011). “Diagnostic imaging for low back pain: advice for high-value health care from the American College of Physicians.” _Annals of Internal Medicine._ (過度な画像診断への警鐘と、身体所見の重要性について)
4. **Hides, J.A., et al.** (1995). “Multifidus muscle recovery is not automatic after resolution of acute, first-episode low back pain.” _Spine._ (痛みが消えても筋肉の機能不全は自動的には治らず、リハビリテーション(運動療法)が必要であることを示す研究)

 

 

 

 



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