コラム・ブログ

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2025年12月18日

「左右差」が引き起こす体の歪みと、正しいリセット術

ハイライト

「いつも同じ方の肩にカバンをかけている」「気づけば片方の靴底ばかり減っている」…その癖、実は危険信号です。重いカバンは、肩だけでなく背骨を曲げ、骨盤を歪ませる「負の連鎖」を引き起こします。なぜ左右差が生まれるのか、そのメカニズムと、歪んだ体をリセットする「リハビリテーション」の重要性を解説します。

目次

はじめに:その肩こり、マッサージだけでは治らない理由

毎日の通勤や通学、カバンの中にはPCや教科書、飲み物など、意外と重い荷物が入っています。 「肩がこったな」と感じて、湿布を貼ったりマッサージに行ったりする方は多いでしょう。しかし、すぐにまた辛くなることはありませんか?

それは、痛みの原因が「筋肉の疲れ」だけではなく、「骨格の歪み」という構造上の問題に発展しているからかもしれません。 特に、いつも同じ側で荷物を持つ癖(片側荷重)は、体にとって非常に大きなストレスとなります。今回は、重いカバンが体に及ぼす影響を、整形外科的な視点で紐解いていきましょう。

カバンの重さが招く「バランス崩壊」のメカニズム

例えば、右肩に5kgのカバンをかけていると想像してください。 物理的に考えれば、体は重みで右側に倒れるはずです。しかし、私たちは倒れずに歩くことができます。なぜでしょうか?

それは、脳が「倒れてはいけない」と判断し、無意識のうちに反対側の筋肉(左側の腰や背中)を過剰に働かせ、体を左側に引っ張り上げているからです。

つまり、重いカバンを持つということは、「左右非対称な筋力トレーニングを、長時間強制的に行っている」のと同じことなのです。これでは、左右の筋肉のバランスが崩れてしまうのも無理はありません。

肩だけじゃない! 骨盤と背骨に広がる「歪みの連鎖」

問題は筋肉だけにとどまりません。筋肉のアンバランスな牽引力は、やがて骨格そのものを引っ張り、歪ませていきます。これを医学的には「運動連鎖(キネティックチェーン)」の破綻と呼びます。

1. 背骨のカーブ(側弯)

重い荷物を持つと、重心を中心に戻そうとして、背骨が一時的に「S字」や「C字」に横へ曲がります。これが習慣化すると、荷物を持っていない時でも背骨が曲がったままの状態が癖づいてしまいます。

● 2. 骨盤の傾きと回旋

上半身のバランスを取るために、骨盤も影響を受けます。

– カバン側の骨盤が上がる(または下がる)

– 歩く時に、骨盤がねじれるような動きになる これにより、股関節や膝関節にまで負担がかかり、「歩き方がおかしい」「片方の膝だけ痛む」といったトラブルに繋がります。

● 3. 顔の歪み・頭痛

体の土台が傾くと、目線を水平に保つために首(頚椎)で微調整を行います。これが慢性的な頭痛や、顎関節症の原因になることもあります。

「機能性側弯(そくわん)」のリスクとチェック方法

背骨が曲がる病気として「側弯症(そくわんしょう)」が有名ですが、カバンの持ち方などの生活習慣が原因で一時的に背骨が曲がることを「機能性側弯」と呼びます。

これは、骨そのものの変形ではなく筋肉の緊張などが原因であるため、早期に対処すれば「可逆的(元に戻る)」な状態です。しかし、放置して成長期を過ぎたり、長期間固定化されると、矯正が難しくなってしまいます。

● 鏡の前でセルフチェック!

自然に立った状態で、鏡を見てみましょう。

  • 左右の肩の高さが違う
  • 骨盤の出っ張りの高さが左右で違う
  • ウエストのくびれ方が左右で非対称
  • 手を下ろした時、体と腕の隙間が左右で違う

これらに当てはまる場合、すでに体に「歪み」が生じている可能性があります。

歪みをリセットする「リハビリテーション」という選択

染み付いてしまった体の歪みや癖は、自分の意識だけで治すのは非常に困難です。 「右で持っていたから、明日は左で持とう」と単純に変えるだけでは、すでに硬くなった筋肉や傾いた骨盤の上に、新たな負担をかけるだけになりかねません。

そこで重要になるのが、整形外科での「リハビリテーション」です。

① 医学的な「評価」で原因を可視化

理学療法士は、単に筋肉を揉むのではなく、「なぜ右肩が上がっているのか?」「どこの筋肉がサボっているから骨盤が傾くのか?」を評価します。 超音波画像診断装置(エコー)を用いて、左右の筋肉の厚みや硬さの違いを客観的に見ることもあります。

② 左右差を整える徒手療法

硬く縮こまって背骨を引っ張っている筋肉(緊張側)を緩め、逆におろそかになって弱っている筋肉(弛緩側)を刺激し、左右のテンションを均一に戻します。

③ 正しい重心位置の再学習(運動療法)

歪んだ状態で脳が記憶してしまった「真っ直ぐ」の感覚を書き換えます。 鏡を使ったり、バランスパッドを使ったりして、「本来の正しい姿勢」を脳と体に覚え込ませていきます。

カバンは毎日持つものです。だからこそ、その負担をゼロにすることはできません。 しかし、定期的なリハビリテーションで「歪みをリセットする時間」を作れば、体は劇的に楽になります。

「荷物を持つとすぐに疲れる」「左右のバランスが悪い気がする」。 そんな違和感を感じたら、痛みが強くなる前に、ぜひ一度ご相談ください。

参考文献

1. **Drza-Grabiec, J., et al.** (2015). “Effect of the weight of a backpack on the body posture of school-aged children.” _Work._ (バックパックの重量が姿勢および脊柱のアライメントに及ぼす影響)
2. **Pascoe, D.D., et al.** (1997). “Influence of carrying book bags on gait cycle and posture of youths.” _Ergonomics._ (カバンの持ち方が歩行周期と姿勢に与える左右差の研究)
3. **Hardie, R., et al.** (2015). “The effect of three different ways of carrying a load on the kinematics of gait.” _Ergonomics._ (片側荷重などの持ち方の違いが運動連鎖に与える影響)
4. **Neumann, D.A.** (2010). _Kinesiology of the Musculoskeletal System: Foundations for Rehabilitation._ (筋骨格系のキネシオロジー:姿勢制御と筋肉の代償動作に関して)

 

 



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