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2025年11月20日

「立ち上がりにくい」原因は筋力?関節?バランス?—高齢者の複合要因分析

ハイライト

高齢者が「立ち上がりにくい」と感じる背景には、筋力低下だけでなく、関節の痛み、バランス機能の低下、神経の反応速度の低下など複数の要因が重なっています。

原因を丁寧に分析することで、改善方法が正確に見えてきます。

目次

立ち上がる動作とは?──全身の連動が必要

「立ち上がる」動作は、単に足の力だけで行うものではありません。

イスや床から立ち上がるときには、以下のような一連のプロセスが必要です。

上半身を前に倒し、体重を足の真上に移す動き。

ここが不十分だと、足に力が入らず「立てない」状態になります。

・大腿四頭筋

・大殿筋

・ハムストリングス

これらの筋肉が働き、膝と股関節を伸ばします。

立ち上がる途中で身体は不安定になるため、体幹と下肢の協調が必要です。

立てるかどうかだけでなく、「何度も立ち座りができるか」も日常生活では重要です。

立ち上がり動作は、筋力・柔軟性・関節可動域・神経・バランス能力が複合的に必要となる高難度動作なのです。

原因① 筋力低下──大腿四頭筋・殿筋の衰え

膝を伸ばす筋力が低下すると、立ち上がりの“最後の伸びきり”ができなくなります。

歩行速度低下とも関連が強いことが知られています1)。

イスから立つ際、最も働くのは実は殿筋(お尻)です。

殿筋が弱いと「前傾姿勢を深くしないと立てない」「手をつかないと立てない」などの症状が出ます。

下腿三頭筋は立位保持の重要な筋。

弱るとふらつきやすく、立ち上がり時に不安定になります。

加齢に伴う筋量低下(サルコペニア)では、特に下肢が顕著に衰え、「立ち上がれない」症状の主原因になります。

原因② 関節の問題──膝痛・股関節痛・足首の固さ

  • 膝関節(変形性膝関節症)

・曲げ伸ばしが痛い

・体重をかけると“ズキッ”とする

・動き出しが特に痛い

膝の痛みは、立ち上がり動作を大幅に制限し、筋力低下の悪循環を起こします2)。

  • 股関節(変形性股関節症)

股関節が固いと「前傾動作」が難しくなり、立ち上がり動作が不利になります。

痛みで動けない→さらに筋力低下というループも生じます。

  • 足関節(足首の可動域制限)

・背屈(つま先上げ)ができない

・足首が硬い

・かかとが地面につきにくい

これらは立ち上がり時にバランスを崩しやすくし、転倒のリスクも上がります。

  • 腰部の問題(腰痛・脊柱管狭窄症)

神経痛や腰のこわばりは「前傾姿勢」を妨げ、結果として立ち上がり動作に影響します

原因③ バランス・神経の問題──反応速度と体幹機能

バランス能力の低下

  • 立つとふらつく
  • よろめく
  • 支えが必要

バランス機能は、加齢で自然に低下します。

特に立ち上がり時は不安定になるため、バランス能力が弱いと「怖くて立てない」状態になります。

神経の反応速度低下

  • とっさに足を出せない
  • サポート筋が働くのが遅い
  • 転倒リスク増加

神経系の問題は目に見えにくいですが、動作の質に大きな影響を与えます。

体幹機能(インナーマッスル)の弱さ

体幹は“動きの土台”。

ここが不安定だと、下肢の力を効率よく発揮できず、立ち上がりが遅く・不安定になります。

恐怖心

転倒経験があると、恐怖によって動きがさらに小さくなり、筋力を使いにくくなります。

心理的要因も軽視できません。

整形外科クリニックでの関わり方──評価・治療・リハビリ

詳細な評価

  • 筋力テスト(下肢・体幹)
  • 関節可動域の確認(膝・股関節・足首)
  • バランス検査
  • 立ち上がりテスト(5回立ち上がりテストなど)
  • 歩行分析
  • X線・超音波による関節評価

どの要素が立ち上がりを妨げているのか、原因を明確にします。

 

保存療法(痛みの軽減)

  • 膝や股関節の炎症に対する物理療法
  • 適切な薬物療法
  • ヒアルロン酸注射(関節症が背景にある場合)

痛みを軽減することで、動作が改善し筋力もつきやすくなります。

リハビリテーション

専門の理学療法士が、個別プログラムを作成します。

  • 筋力強化

大腿四頭筋

大殿筋

ふくらはぎ

体幹筋

  • 可動域訓練

股関節の前傾動作

足首の背屈改善

  • バランス訓練

立位バランス

反応速度の向上

  • 動作指導

立ち上がりのフォーム

イスの高さ調整

生活環境の整備(手すりなど)

生活指導

  • 適切な運動量
  • 転倒予防
  • 体重管理
  • 家庭でできる自主トレ

高齢者が安全に生活するためのサポートまで行います。

参考文献

  1. Bohannon RW: Sit-to-stand test: Performance and determinants across the age-span. Phys Ther. 79(5): 440–447. 1999.
  2. Zhang W, et al.: Knee osteoarthritis: diagnosis and treatment options. BMJ. 332:  136–142. 2006.

 

 

 



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