コラム・ブログ

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2025年12月12日

「運動が苦手」=「筋力不足」ではありません。脳と体を上手に繋ぐ「協調運動」と、自信を育むリハビリテーション

ハイライト

「うちの子、運動神経が悪いのかな…」そう悩んでいませんか? 実は、運動が苦手な原因の多くは「筋力不足」ではなく、脳と体をつなぐ「協調運動」のうまくいかなさにあります。ただの不器用や努力不足で片付けられがちなこの問題。整形外科での専門的な「リハビリテーション」が、お子様の自信と可能性をどう引き出すのか、そのメカニズムと解決策を10秒で解説します。

目次

はじめに:その「不器用さ」、本当に筋力のせい?

お子様の様子を見ていて、こんなことはありませんか?

これらを見ると、親御さんや学校の先生はつい、「もっと外で遊んで体力をつけなさい」「筋トレをして足腰を鍛えよう」とアドバイスしがちです。しかし、整形外科の視点から見ると、これらの問題の多くは「筋肉の強さ(パワー)」ではなく、「体の使い方(コントロール)」に原因があることが非常に多いのです。

もし原因が筋力不足ではない場合、いくら筋力トレーニングをさせても、動きは改善しません。それどころか、「頑張っているのにうまくできない」という経験が積み重なり、お子様が運動嫌いになってしまう原因にもなりかねません。

まずは、「運動が苦手=筋力不足」という思い込みを一度手放し、「脳と体のつながり」に目を向けてみましょう。

運動をコントロールする司令塔「協調運動」とは

私たちがスムーズに体を動かすとき、体内では驚くほど複雑な情報処理が一瞬で行われています。これを専門的には「協調運動(コーディネーション)」と呼びます。

筋肉を「車」に例えるなら、協調運動は「ドライバー」の運転技術です。いくらエンジンの性能(筋力)が良くても、ドライバーのハンドルさばきやブレーキのタイミング(神経の伝達)がずれていれば、車はスムーズに走りません。

● 運動を成功させる「3つのステップ」

運動が苦手なお子様は、以下の3つのプロセスのどこかでつまずいている可能性があります。

「運動が苦手な子」の多くは、筋肉そのもの(Output)の問題ではなく、「自分の体がどうなっているか感じにくい(感覚入力の弱さ)」や「力加減やタイミングの調整が難しい(情報処理のミス)」といった、目に見えない部分に課題を抱えています。これを理解することが、解決への第一歩です。

知っておきたい「発達性協調運動症(DCD)」という視点

近年、医療や教育の現場で注目されているのが、「発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder: DCD)」という概念です。

これは、知的発達に遅れはないものの、協調運動(手足の動作の調整など)に著しい困難を示す状態を指します。統計的には学齢期児童の約5〜6%、つまり「30人のクラスに1〜2人はいる」という頻度であり、決して珍しいことではありません。

● DCDの可能性があるサイン

  • 極端に不器用(箸やハサミ、ボタンかけが苦手)
  • 運動の習得に非常に時間がかかる
  • 字を書くのが極端に遅い、または乱雑
  • 着替えや食事でよくこぼす

これらは「本人のやる気がない」のでも「親のしつけの問題」でもありません。脳の神経発達特性のひとつです。 この特性を理解せずに「もっと努力しろ」と叱責してしまうと、お子様は自尊心(自己肯定感)を深く傷つけられ、二次的な心の問題(不安障害や不登校など)に発展することもあります。

「不器用さ」は、医療機関で適切な評価を受けることで、その子の「特性」として理解し、具体的な対策を立てることができるようになります。

整形外科における「リハビリテーション」のアプローチ

では、運動が苦手、あるいは協調運動に課題があるお子様に対して、整形外科ではどのようなリハビリテーションを行うのでしょうか? ここでは、単なる筋力トレーニングとは異なる、専門的なアプローチをご紹介します。

① 身体機能の評価(アセスメント)

まず、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が、お子様の動きを詳細に評価します。

  • 関節の柔らかさや筋肉の硬さのチェック
  • 片足立ちなどのバランス能力の測定
  • 「模倣(まね)ができるか」など、視覚情報と身体動作の変換能力の確認
  • 超音波画像診断装置(エコー)を用いて、筋肉や関節の動きを可視化することもあります。

② 感覚統合アプローチ

自分の体のボディイメージ(身体図式)が未発達な場合、まずは「感覚を入れる」練習を行います。

  • バランス練習:不安定なクッションの上に立ち、足裏や体幹からの感覚を脳に送る練習。
  • 固有受容覚の刺激: ジャングルジムのような遊具を使ったり、適度な抵抗感のある運動を行ったりして、「手足の位置感覚」を高めます。

③ 運動学習(スモールステップ法)

複雑な動作(例:縄跳び)をいきなり練習させるのではなく、動作を細かく分解して学習させます。

  • 分解の例:「ジャンプするだけ」→「手でリズムをとるだけ」→「合わせてみる」
  • 視覚的フィードバック: 鏡を見ながら行ったり、動画を撮って見せたりして、自分のイメージと実際の動きのズレを修正します。

④ デュアルタスク(二重課題)トレーニング

考えながら動く練習です。

  • 「しりとりをしながらボールキャッチ」
  • 「計算をしながら足踏み」 これにより、脳が複数の情報を同時に処理する能力を高め、スポーツや日常生活での咄嗟の動きに対応できるようにします。

整形外科のリハビリテーションで最も大切にしているのは、「できた!」という成功体験です。スモールステップで課題をクリアしていくことで、お子様は「自分も練習すればできるんだ」という自信を取り戻していきます。

家庭でできるサポートと、専門家に相談するタイミング

最後に、ご家庭でできることと、受診の目安についてお伝えします。

● 家庭での「ポジティブな関わり方」

  • 結果ではなくプロセスを褒める:「縄跳びが飛べたね」ではなく、「昨日より高くジャンプしようとしていたね」と、体の使い方の変化を具体的に褒めてあげてください。
  • 「他の子」と比べない:比較対象は常に「過去のお子様自身」です。
  • 楽しく体を動かす:公園のアスレチックや、お家での風船バレーなど、遊びの中で自然とバランス感覚や距離感を養うことが理想的です。

● 専門家に相談するタイミング

以下のような場合は、一度整形外科にご相談ください。

  • 転倒が多く、怪我が絶えない
  • 極端に姿勢が悪く、長時間座っていられない(腰痛や肩こりを訴える)
  • 運動への苦手意識が強く、体育の授業を嫌がる
  • 手先の不器用さが、学習(書字など)に影響している

当クリニックでは、医師による診断と、理学療法士による専門的なリハビリテーションを通じて、お子様の「動く楽しさ」を取り戻すお手伝いをしています。

「運動神経が悪いから仕方がない」と諦める前に。 その「苦手」の裏にあるメカニズムを紐解き、適切なリハビリテーションで、お子様の未来の可能性を一緒に広げていきましょう。

参考文献

1. **American Psychiatric Association.** (2013). _Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5)._ (発達性協調運動症の定義および診断基準に関して)
2. **Blank, R., et al.** (2019). “International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder.” _Developmental Medicine & Child Neurology._ (国際的なDCD診療ガイドラインに基づく推奨事項)
3. **日本理学療法士協会.** 理学療法ガイドライン第1版 「神経発達障害理学療法診療ガイドライン」. (理学療法およびリハビリテーションのアプローチに関して)
4. **Zwicker, J. G., et al.** (2012). “Neural correlates of developmental coordination disorder: a review of hypotheses.” _Journal of Child Neurology._ (脳機能と協調運動の関連性について)

 



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