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2025年12月16日

ケガの治りが遅い理由と、再発を防ぐリハビリテーションの秘密

ハイライト

「肉離れは1ヶ月で治ったのに、アキレス腱炎は半年も痛い…」なぜこれほど治るスピードが違うのでしょうか? その答えは、組織の色を見れば一目瞭然。「赤」と「白」の決定的な違いである「血流」の量にあります。エンジンである「筋肉」と、ロープである「腱」。それぞれの役割と、完治のために欠かせない「リハビリテーション」の正しい進め方を解説します。

目次

はじめに:「治ったと思ったらまた痛い」を防ぐために

スポーツ中や日常生活で、「ふくらはぎを痛めた(肉離れ)」という話と、「アキレス腱を痛めた(腱炎・腱断裂)」という話、どちらもよく耳にします。 しかし、この2つは「場所が近い」だけで、医学的には全く別物のケガです。

患者さんからよく聞かれるのが、「肉離れをした友人はすぐに復帰したのに、なぜ私の腱の痛みはずっと続くのですか?」という質問です。 実は、筋肉と腱では、組織の性質も、治るまでのスピードも、そして「やってはいけないこと」も大きく異なります。ここを混同して無理をすると、慢性化(クセになる)の大きな原因となります。

まずは、敵を知ることから始めましょう。私たちの体を動かす「筋肉」と「腱」の正体に迫ります。

エンジンとロープ。役割と構造の決定的な違い

筋肉と腱は、協力して関節を動かしていますが、その役割は明確に分担されています。

● 筋肉(Muscle):パワーを生み出す「エンジン」

筋肉は、伸び縮みすることができる赤い組織です。脳からの指令を受けて収縮し、力を生み出します。

特徴:柔らかい、弾力がある、血液が豊富。

料理で例えると:柔らかい赤身肉(ステーキ)の部分。

● 腱(Tendon):力を伝える「ロープ」

筋肉が生み出したパワーを骨に伝えるための、白くて硬い繊維状の組織です。筋肉の端っこが徐々に硬くなり、骨に付着する部分を指します。

特徴:硬い、伸び縮みしにくい、非常に丈夫。

料理で例えると:硬いスジ(牛すじ)の部分。

つまり、「筋肉(エンジン)が動いて、腱(ロープ)を引っ張り、骨(タイヤ)が動く」というのが運動の仕組みです。 筋肉は自ら縮むことができますが、腱は自分では動けません。あくまで「つなぎ役」として、強烈な引っ張る力に耐えているのです。

なぜ腱は治りにくい? 運命を分ける「血管の数」

ここからが本題です。なぜ、筋肉のケガ(肉離れなど)に比べて、腱のケガ(腱炎・断裂)は治るのに時間がかかるのでしょうか?

最大の理由は、「血液の流れ(血流)」の差にあります。

● 筋肉:治りが早い「リッチ」な環境

筋肉は赤色をしています。これは、毛細血管が網の目のように張り巡らされ、血液が豊富に流れている証拠です。

血液は、壊れた組織を治すための「酸素」や「栄養(修復材料)」を運ぶトラックのようなものです。筋肉は道路網が発達しているため、ケガをしてもすぐに大量の修復材料が届き、工事(治癒)がスムーズに進みます。

– 目安:軽度なら数週間〜1ヶ月程度で組織が修復されることが多いです。

● 腱:治りが遅い「乏しい」環境

一方、腱は白く見えます。これは血管が非常に少ない(乏血管性)組織だからです。 丈夫である反面、いざ傷つくと、修復材料を運ぶルートが少ないため、工事がなかなか進みません。これを専門的には「代謝が低い」と言います。

– 目安:組織がしっかりと修復されるまで、最低でも3ヶ月〜半年、場合によっては1年近くかかることもあります。

「痛み止めで痛みが消えたから治った」と勘違いしやすいのが腱の怖いところです。組織自体はまだ治っていないことが多く、ここで無理をするとすぐに再発してしまいます。

筋肉と腱で全く違う!「リハビリテーション」のアプローチ

組織の性質が違うため、整形外科で行うリハビリテーションの方法も、筋肉と腱では戦略が異なります。

● 筋肉のリハビリ:柔軟性の回復と「瘢痕(はんこん)」対策

肉離れなどで切れた筋肉は、治る過程で「かさぶた」のような硬いしこり(瘢痕組織)を作ることがあります。これが残ると、筋肉の柔軟性が落ちて再断裂しやすくなります。

– ポイント:痛みのない範囲で、早期からストレッチやマッサージを行い、硬いしこりを残さないように筋肉を「キレイに整える」ことが重要です。

● 腱のリハビリ:「適度な負荷」で育て直す

腱の場合、ただ休ませておけば良いわけではありません。完全に安静にしすぎると、腱はどんどん弱くなってしまいます。 腱の細胞は、「適度な引っ張る力(メカニカルストレス)」を感じることで、「もっと丈夫にならなきゃ」とコラーゲン繊維を整列させる性質があります。

– ポイント:理学療法士の指導のもと、「痛むけれど悪化はしないギリギリの負荷」を計算しながら運動を行い、時間をかけて腱を「育て直す」地道な作業が必要です。

自己判断は禁物。プロの目で「治癒」を見極める

「もう痛くないから全力疾走してもいいだろう」 この自己判断が、一番のリスクです。特に腱のケガは、痛みが消えても組織強度はまだ50%程度、ということが珍しくありません。

整形外科では、以下のような方法で「本当に治ったか」を確認します。

超音波画像診断装置(エコー):レントゲンには写らない筋肉や腱の繊維の状態をリアルタイムで確認します。「まだ繊維が乱れているから、激しい運動は控えよう」といった具体的な判断が可能です。

理学療法士による機能評価: 筋力、柔軟性、そして動作の質をチェックし、復帰のゴーサインを出します。

ケガをしてしまったら、焦りは禁物です。 特に腱のトラブルは、長期戦になることを覚悟して、じっくりとリハビリテーションに取り組むことが、結果として最短の復帰ルートになります。 「私の足、今はどういう状態?」と気になったら、いつでもクリニックへご相談ください。

参考文献

1. **Sharma, P., & Maffulli, N.** (2005). “Tendon injury and tendinopathy: healing and repair.” _The Journal of Bone and Joint Surgery._ (腱の治癒プロセスと血流の影響について)
2. **Lieber, R.L.** (2002). _Skeletal Muscle Structure, Function, and Plasticity._ (骨格筋の構造と機能に関する基礎文献)
3. **Kjaer, M., et al.** (2005). “Metabolic activity and collagen turnover in human tendon in response to physical training.” _Journal of Physiology._ (運動負荷に対する腱の代謝反応について)
4. **日本整形外科学会.** 「スポーツ外傷のガイドライン」. (肉離れ、アキレス腱断裂のリハビリテーション指針に関して)

 



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