コラム・ブログ

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2025年11月10日

半月板損傷は“全員が手術になる”わけではない—保存療法の進歩

ハイライト

「半月板を痛めた」と聞くと、すぐに手術が必要だと思う方が多いですが、現在では保存療法(手術しない治療)で改善するケースが多数あります。

損傷の種類や年齢、膝の状態によって最適な治療法が異なり、近年はリハビリや運動療法の進歩により、手術以外の選択肢が大きく広がっています。

目次

半月板の役割──なぜ「損傷=痛み・不安定」になるのか

半月板は膝の内側・外側にあるC字型の軟骨組織で、

☑️ 衝撃吸収

☑️ 関節の安定化

☑️ 関節軟骨の保護

といった重要な働きを担っています。

 

半月板が傷つくと、膝の動きに合わせて痛みが出たり、引っかかり感、腫れ(関節水腫)が起きたりします1)。

特に中高年の場合、加齢による変性が背景にあり、日常生活の動作(しゃがむ・階段)で痛むことが多くなります。

 

しかし、半月板損傷=即手術ではありません。

損傷の種類や症状の程度により、保存療法で十分改善するケースが多く存在します

半月板損傷の種類──手術が必要な場合・不要な場合

外傷性損傷(スポーツ・強い捻り)

若年者に多く、強い痛みや腫れを伴います。

☑️ 縦断裂

☑️ バケツ柄断裂(関節が動かなくなるロッキングを起こす)

☑️ 半月板が大きくめくれた状態

など、機械的に引っかかるタイプは手術の適応になりやすいです2)。

 

変性断裂(加齢によるすり減り)

40〜50代以上に多く、じわじわ痛むタイプ。

最新の研究では、変性断裂の多くは保存療法の方が結果が良いとされています3)。

手術で半月板を部分切除すると、長期的には膝の変形性関節症のリスクが上がることも報告されており、むやみに切除しない治療が推奨されています3)。

 

MRIで断裂があっても、症状が軽ければ保存療法でコントロール可能です。

重要なのは以下の項目

☑️ 痛みの強さ

☑️ 関節ロックの有無

☑️ 階段やしゃがむ動作ができるか

☑️ 日常生活にどこまで支障があるか

保存療法の進歩──リハビリで改善する理由

「損傷した半月板は元に戻らないのに、なぜ症状が良くなるのか?」という疑問を持つ方もいます。

その理由は、膝の痛みが半月板そのものだけで起きているわけではないためです。

  • 保存療法で改善するメカニズム

・大腿四頭筋やハムストリングスの筋力改善

・股関節・体幹の安定性向上

・膝への負担のかかる動作の改善

・滑膜炎(関節の炎症)の軽減

・関節液の循環改善

これらにより、膝への負荷が減ることで症状が落ち着いていきます。

  • エビデンスでも支持されている

特に変性断裂に対しては、運動療法が手術と同等の効果を示すことが複数の研究で明らかになっています3)。

つまり、痛みの原因は半月板の断裂そのものよりも、周囲の炎症・筋力低下・姿勢や動作の問題にあることが多いのです。

  • 保存療法に含まれる治療

・運動療法(筋力トレーニング・可動域訓練)

・物理療法(電気・温熱・超音波)

・消炎鎮痛薬

・関節注射(ヒアルロン酸など)

患者さんの年齢・活動量・損傷の種類に合わせて治療を組み合わせます。

手術が選択されるケース──関節ロックや高度損傷

保存療法が第一選択である一方、次のような場合は手術が適応になります。

  • 手術を検討すべきケース

① 関節が引っかかり“動かなくなる”(ロッキング)

② バケツ柄断裂など、大きな嵌頓がある

③ 保存療法を十分行っても痛みが改善しない

④ スポーツ選手で競技復帰が必要

⑤ 膝に水がたびたび溜まり、日常生活に支障がある

  • 手術の種類

・半月板部分切除(損傷部分のみ切除)

・半月板縫合(若年者や外傷性断裂で適応)

特に若い患者では半月板を温存する「縫合術」が推奨され、切除術はできるだけ避ける方針が一般的です2)。

整形外科クリニックでの関わり方──診断・治療・リハビリの流れ

整形外科クリニックでは、まず痛みの原因がどこにあるかを評価します。

  • 診断

問診:痛みの出方・動作・生活背景

触診:膝の圧痛点、関節の動き

画像検査(X線・MRI)

スペシャルテスト(McMurray、Apleyなど)

MRIで半月板損傷が見つかっても、症状と一致していなければ手術は必要ありません。

  • 保存療法の実施

患者さんの年齢・活動量に合わせて

☑️ 運動療法(四頭筋・股関節周囲筋の強化)

☑️ 動作指導(しゃがみ方・階段の降り方)

☑️ 物理療法

☑️ 炎症の強い場合は注射治療

を組み合わせて症状改善を図ります。

  • 手術が必要な場合の判断

☑️ 関節ロックあり

☑️ 明らかな外傷で高度断裂

☑️ 数か月の保存療法でも改善が乏しい

このような場合は膝専門医と相談しながら手術の説明を行います。

  • 再発予防のためのケア

☑️ 股関節・体幹トレーニング

☑️ 膝への負担の少ない動き方の習得

☑️ 体重管理

☑️ 趣味・スポーツに合わせた指導

半月板は一度傷むと負担がかかりやすいため、**“治す治療”だけでなく“再発を防ぐ治療”**も重要です。

参考文献

  1. Logerstedt DS, et al.: Knee pain and mobility impairments: meniscal and articular cartilage lesions. J Orthop Sports Phys Ther. 43(6):A1–A39. 2013.
  2. Abrams GD, et al.: Meniscus repair: indications, techniques, and outcomes. J Orthop Sports Phys Ther. 43(3):275–290. 2013.
  3. Kise NJ, et al.: Exercise therapy vs arthroscopic partial meniscectomy for degenerative meniscal tear. BMJ. 354:i3740. 2016.
  4. van de Graaf VA, et al.: Arthroscopic partial meniscectomy or conservative treatment for non-obstructive meniscal tears. N Engl J Med. 378:234–245. 2018.

 

 

 

 



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