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2025年11月4日

坐骨神経痛の痛みの正体—神経・筋・関節のどこで起きている?

ハイライト

「坐骨神経痛」と言われても、実際にどこが悪いのか分かりにくいものです。

痛みの正体は、神経そのもの・筋肉や筋膜・椎間板や関節など、複数の場所で起きている異常の組み合わせです。

どこで何が起きているかを理解すると、治療やリハビリの意味がぐっと見えやすくなります。

目次

坐骨神経痛は“病名”ではなく“症状名”

「坐骨神経痛です」と言われると、一つの病気のように感じますが、実際には症状の呼び名です。

おしりから太ももの裏、ふくらはぎ、足先にかけて

 

などが出ている状態をまとめて「坐骨神経痛」と呼んでいます1)。

原因となる代表的な病気は、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、梨状筋症候群、仙腸関節障害などさまざまです2,6,7)。

つまり「坐骨神経痛=ヘルニア」というわけではなく、どの組織に負担がかかっているかを見極めることが大切になります。

神経で起きる痛み──神経根障害と神経障害性疼痛

腰の骨の間から出たばかりの神経の根元を「神経根」と呼びます。

椎間板ヘルニアや骨の変形でこの部分が圧迫されると、

といった症状が出やすくなります2)。

 

圧迫された神経では血流が悪くなり、神経の周囲に炎症が起き、神経障害性疼痛と呼ばれる独特の痛みが生じます3)。

といった感覚が特徴で、いわゆる筋肉痛とは少し質の違う痛みです。

このタイプの痛みには、一般的な痛み止めだけでなく、神経の興奮を抑える薬や神経ブロック注射などが使われることもあります3)。

筋肉・筋膜で起きる痛み──梨状筋やおしりの筋肉の関与

坐骨神経は、おしりの深いところを通って脚に向かって伸びていきます。

この周りには梨状筋をはじめとする多くの筋肉があり、長時間の座位や運転、冷えや運動不足で硬くなると、神経を物理的に圧迫したり、血流を悪くしたりします4)。

 

特に「梨状筋症候群」と呼ばれる状態では、

  • 腰というより“おしりの奥”が強く痛む
  • 長く座っていると悪化する
  • 立ち上がりの一歩目がつらい

といった症状が出ます4)。

 

また、おしりや太もも裏の筋肉・筋膜に「トリガーポイント(硬いしこり)」ができると、そこからの関連痛が坐骨神経の走行に沿って広がり、神経が悪いように感じる痛みを出すこともあります5)。

この場合、画像検査では大きな異常が見つからなくても、ストレッチや筋膜リリース、血流改善などのリハビリで大きく症状が変わることが少なくありません。

椎間板・関節で起きる痛み──ヘルニア・狭窄症・仙腸関節障害

  • 椎間板ヘルニア

椎間板の中の“髄核”が後方へ飛び出し、神経根を直接圧迫することで坐骨神経痛を起こします2)。

比較的若い世代に多く、前かがみや重い物を持つ動作で悪化しやすいのが特徴です。

  • 腰部脊柱管狭窄症

加齢による椎間板・骨・靭帯の変化が重なり、神経の通り道(脊柱管)が狭くなる病気です6)。

☑️ 歩くと脚がしびれて立ち止まり、少し休むとまた歩ける(間欠性跛行)

☑️ 前かがみになると楽になる

といった症状が典型的で、高齢の方に多く見られます。

 

  • 仙腸関節・椎間関節由来の痛み

骨盤の付け根の仙腸関節や、腰椎後方の椎間関節に炎症が起きると、

☑️ 片側のおしりの深い痛み

☑️ 片足立ちや階段昇降での痛み

☑️ おしり〜太ももの一部への放散痛

として現れることがあり、坐骨神経痛と紛らわしい症状を示します7)。

 

このように、「痛い場所」は似ていても、異常が起きている組織は人によって異なるため、画像検査や徒手検査を組み合わせた評価が重要になります。

整形外科クリニックでできること──診断・治療・リハビリの関わり方

整形外科クリニックでは、まず

  • いつから・どのような動きで痛むか
  • 痛みやしびれがどこまで広がるか
  • 反射・筋力・感覚の異常の有無
  • 関節や筋肉を押したときの痛み

 

などを丁寧に確認し、必要に応じてレントゲンやMRI、超音波検査を用いて、「神経」「筋・筋膜」「椎間板・関節」のどこが主な発信源かを見極めます1,2,6,7)。

 

治療は、

  • 薬物療法(消炎鎮痛薬、神経障害性疼痛に対する薬など)3)
  • 神経ブロックや仙腸関節ブロックなどの注射治療
  • 温熱・電気刺激・牽引などの物理療法
  • 理学療法士によるストレッチ・筋力トレーニング・姿勢指導5)

を組み合わせて行います。

ストレッチ指導のYoutubeはこちら

 

また、再発予防のために、

  • 体幹やおしりの筋肉を鍛えるエクササイズ
  • 長時間同じ姿勢を避ける工夫
  • 仕事や生活動作の見直し

などを一緒に組み立てていくことも重要な役割です。

 

「坐骨神経痛だから仕方ない」とあきらめる必要はありません。

どこで何が起きているのかを理解し、その方に合った治療とリハビリを選ぶことで、痛みと上手に付き合いながら生活の質を保つことは十分可能です。

気になる症状が続く場合は、早めにご相談ください。

参考文献

  1. Stafford MA, Peng P, Hill DA: Sciatica: a review of history, epidemiology, pathogenesis, and the role of epidural steroid injection in management. Br J Anaesth. 99(4):461–473. 2007.
  2. Weinstein JN, et al.: Surgical vs nonoperative treatment for lumbar disk herniation: the Spine Patient Outcomes Research Trial (SPORT). JAMA. 296(20):2451–2459. 2006.
  3. Baron R, Binder A, Wasner G: Neuropathic pain: diagnosis, pathophysiological mechanisms, and treatment. Lancet Neurol. 9(8):807–819. 2010.
  4. Hopayian K, et al.: The clinical features of the piriformis syndrome: a systematic review. Eur Spine J. 19(12):2095–2109. 2010.
  5. Fairbank JCT, et al.: The role of physical therapy and rehabilitation in the management of low back pain. Best Pract Res Clin Rheumatol. 25(2):277–289. 2011.
  6. Katz JN, Harris MB: Lumbar spinal stenosis. N Engl J Med. 358(8):818–825. 2008.
  7. Vleeming A, et al.: The sacroiliac joint: an overview of its anatomy, function and potential clinical implications. Man Ther. 17(4):344–353. 2012.

 

 

 

 



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