コラム・ブログ

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2026年1月18日

変形性膝関節症を未然に防ぐ。将来を見据えた正しい歩き方と筋力バランス

ハイライト

「階段を降りるときに膝が痛む」「最近、O脚が進んできた気がする」。そんなサインは、変形性膝関節症の入り口かもしれません。膝の健康は、単なる加齢の問題ではなく、日々の歩き方や筋力のバランスによって決まります。将来、自分の足でどこへでも行ける自由を守るために、今から取り組むべき正しいセルフケアとリハビリテーションの重要性について解説します。

目次

膝の痛みはなぜ起きる?軟骨の摩耗と「変形性膝関節症」の進行プロセス

日本国内で、膝の痛みに悩む予備軍を含めた患者数は約3000万人とも言われています。その大半を占めるのが「変形性膝関節症」です。これは、膝の関節の表面を覆っているクッションである「軟骨」が、長年の使用や過剰な負担によってすり減り、関節内に炎症が起きたり、骨同士が直接ぶつかったりして痛みを生じる病気です。

軟骨は再生しない

大切なのは、「痛くなってから治す」のではなく、「今ある軟骨をこれ以上減らさない」という守りの姿勢です。

O脚が招く集中的な負荷。足の内側ばかりが痛む理由と力学的背景

日本人の変形性膝関節症において、圧倒的に多いのが「膝の内側」の痛みです。これには、日本人に多い「O脚」という骨格のクセが深く関わっています。

なぜ内側がやられるのか

整形外科の診察では、レントゲン撮影によってこの「隙間の狭まり」を確認します。もし、内側の隙間が狭くなっていることが分かれば、そこからがリハビリテーションの出番です。物理的な軸を完全に変えることは難しくても、筋肉の力でその負担を「代行」させることは可能だからです。

「歩けばいい」は間違い?膝を守るための正しいウォーキングの基本

「膝のために毎日1万歩、歩いています」という声をよく聞きますが、実はこれは非常に危険な場合があります。もし、悪いフォームや、膝がグラグラした状態で無理に歩き続ければ、それは軟骨をすり減らすスピードを速めているだけかもしれないからです。

膝に優しい歩き方のポイント

  • つま先の向き:つま先と膝が真っ直ぐ、あるいはわずかに外側を向くように出します。内股(内向き)は膝の内側へのストレスを激増させます。
  • かかと着地の重要性:かかとから優しく着地し、足裏全体で地面を捉え、親指の付け根で蹴り出します。
  • 大股で歩かない:歩幅を広げすぎると、着地時の衝撃が強くなります。心地よい、やや小股のペースが膝には最も安全です。
  • 靴の点検:靴底の外側ばかり減っている靴は、足首を不安定にし、膝の歪みを助長します。

ウォーキングは「量」ではなく「質」です。10分の正しい散歩は、1時間の間違った強行軍よりも、あなたの膝を確実に守ってくれます。

リハビリテーションで整える。膝への衝撃を吸収する「天然のサポーター」作り

整形外科クリニックでのリハビリテーションは、あなたの膝に「自分自身の力で作る最高のサポーター」を付ける作業です。

リハビリテーションで行う戦略的なトレーニング

  • 大腿四頭筋(太もも前)の強化:膝のお皿を安定させ、着地時の衝撃を吸収する「油圧ダンパー」の役割をさせます。
  • 股関節(中殿筋)の活性化:実はお尻の筋肉が弱いと、歩くたびに膝が内側に倒れ込みます(ニーイン現象)。股関節を整えることが、膝への近道です。
  • 物理療法での炎症管理:痛みがあるときは、超音波や電気刺激、徒手療法によって炎症を鎮め、動ける環境を作ります。

理学療法士は、あなたの歩行分析を行い、どの筋肉がサボっていて、どの筋肉が頑張りすぎているかを見極めます。そのアンバランスを修正することが、長期的な変形の進行を食い止める唯一の、そして最高の防波堤になります。

生活の中のちょっとした工夫。膝の寿命を10年延ばすための知恵と習慣

 

最後に、膝に負担をかけないための日常生活の知恵をいくつかご紹介します。

椅子生活への切り替え
床に座る、正座をする、布団から立ち上がる……これらの動作は膝に体重の数倍の負荷をかけます。可能な範囲で「椅子・机・ベッド」の生活に切り替えるだけで、膝の消耗を劇的に抑えられます。

階段の降り方の工夫
階段を降りるときは、痛くない方の足から先に降ろしましょう(「健先病後」という原則)。逆に上がるときは、痛くない方の足から先に上がります。

体重管理という最高のリハビリ
体重が3kg減れば、膝にかかる負担は階段の上り下りでは9kgから12kgも減ると計算されます。過酷なダイエットではなく、まずはゆっくりと3%の減量を目指すことが、どんな治療薬よりも膝には朗報となります。

膝は、私たちを望む場所へ運んでくれる大切な乗り物です。部品交換(手術)も一つの選択肢ではありますが、やはり自分の本来の関節に勝るものはありません。少しでも膝に違和感を感じたら、「歳のせい」と諦めずに整形外科のリハビリテーションを訪ねてください。私たち専門スタッフが、あなたの膝がいつまでも滑らかに動き続けるよう、全力でメンテナンスをお手伝いさせていただきます。

参考文献

1. 日本整形外科学会 「変形性膝関節症診療ガイドライン 2023」
2. 日本理学療法士学会 「膝関節疾患に対する理学療法ガイドライン」
3. 公益財団法人日本リハビリテーション医学会 「変形性膝関節症の運動療法」
4. Felson, D. T., et al. (2000). “Osteoarthritis as a public health problem: the causes and consequences of osteoarthritis.” Arthritis & Rheumatism.
5. 厚生労働省 「ロコモティブシンドローム予防啓発資料」



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