コラム・ブログ

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2025年11月11日

外反母趾は遺伝?靴?—なぜ親指が曲がっていくのか

ハイライト

外反母趾は「ハイヒールのせい」「遺伝だから仕方ない」と思われがちですが、実際には骨格・筋力・歩き方・履物など複数の要因が絡み合って進行します。

原因を正しく理解することで、悪化を防ぎ、痛みの少ない足を取り戻す道が見えてきます。

目次

外反母趾とは?──親指が“曲がる”しくみ

典型的な症状は次の通りです。

・親指の付け根の痛み

・靴に当たる・腫れる

・指の重なり

・変形が進むとタコ・ウオノメが悪化

・長距離歩行が困難

外反母趾は、単なる“指の曲がり”ではなく、

足全体のアーチ構造が崩れ、力学的に負担が偏ることで進行する病態です1)。

外反母趾は、次の2つが同時に進みます。

①母趾が外側へ曲がる(外反)

②中足骨が内側へ開く(開張足)

この「W字の変形」が悪循環を生み、より曲がり、より痛くなっていきます。

原因① 遺伝要因──足の骨格とアライメント

外反母趾は家族内での発症が多く、遺伝的要因が大きいことが多くの研究で示されています2)。

遺伝しやすい特徴

扁平足(アーチが低い)

開張足(横アーチがつぶれている)

関節の柔らかさ(関節弛緩性)

第一中足骨が長い・角度が大きい

これらの骨格や靭帯の性質は生まれつきのものが多く、

「外反母趾になりやすい足」が確かに存在します。

 

ただし、

遺伝だから必ず外反母趾になる”というわけではありません。

環境・靴・歩き方の影響を強く受けるため、悪化しないようコントロールすることは十分可能です。

原因② 靴・生活習慣──なぜハイヒールで悪化する?

  • ハイヒール・先細い靴はなぜ悪いのか

つま先が狭く、母趾が外に押し出される

かかとが高いと前足部に体重が集中

足の指で地面をつかむ動作ができない

 

これらが合わさることで、中足骨が広がり親指が外側へ押し出される力が強まります3)。

  • スニーカーでも悪化することがある

スニーカー=安全ではありません。

特に、

☑️ 幅が狭い

☑️ つま先にゆとりが少ない

☑️ 中敷きが柔らかすぎる

などは外反母趾を悪化させる要因となります。

  • 現代生活も外反母趾を進める

☑️ デスクワーク中心

☑️ 歩数が極端に少ない

☑️ 足指を使わない生活(階段を使わない・すべり止めの効いた床)

これらは、足のアーチを支える筋肉(足内在筋)を弱らせ、外反母趾の進行につながります。

原因③ 筋力と歩き方──現代人に多い“使えない足”

外反母趾は骨格だけの問題ではなく、

足のアーチを支える筋肉が弱ることで進行しやすくなります。

  • 足内在筋(そくないざんきん)の弱さ

足の指を使って地面をつかむ動きが少ない現代では、

・母趾の付け根を支える筋力低下

・横アーチの崩れ

・中足骨が開く

といった状態が起きやすくなります。

  • 歩行のクセも影響

・ペタペタ歩き

・母趾を使わず小指側に体重が流れる歩き方

・内股歩行

これらは外反母趾の進行リスクを高めます。

  • 外反母趾の痛みの正体

痛みの多くは

☑️ 関節包の炎症

☑️ 滑液包炎

☑️ 中足骨頭への過剰な負荷

☑️ タコ・ウオノメ

☑️ 隣接指との衝突

から生じます。

変形が強くても痛くない人もいれば、軽度でも強い痛みの人もいる理由です。

整形外科クリニックでの関わり方──診断・治療・靴・リハビリ

整形外科クリニックでは、

「変形の強さ」だけでなく「痛み・歩行・足の機能」を総合的に評価して治療方針を決定します。

診断

視診:変形の角度・タコ・浮き趾

触診:痛みの部位(MTP関節、種子骨、滑液包)

X線検査:角度測定(HVA・IMA)

歩行分析:体重のかけ方・足趾の使い方

 

外反母趾の程度だけでなく、足全体のバランスを評価することが重要です。

保存療法(手術しない治療)が基本

多くの患者さんは保存療法で十分改善が期待できます。

足の機能改善

足内在筋トレーニング

タオルギャザー

母趾の外転運動

足底アーチの安定化トレーニング

 

靴の選び方指導

つま先が広い(ワイドタイプ)

ヒールは3cm以下

中敷きでアーチをサポート

 

物理療法

炎症部位の超音波治療

温熱療法

電気刺激

 

サポーター・装具

トゥセパレーター

夜間装具

 

痛みの軽減に有効です。

手術が必要なケース

保存療法を続けても、

・歩行が困難

・痛みで生活に大きな支障

・中足骨の著しい偏位

・指の重なり(重度変形)

といった場合、骨の角度を整える手術が検討されます。

再発予防のための長期ケア

・正しい靴選び

・足指トレーニングの継続

・歩行フォーム改善

・体重管理

外反母趾は“戻りやすい”ため、治療+予防が重要です。

参考文献

  1. Coughlin MJ, et al.: Hallux valgus and related disorders. Instr Course Lect. 50:375–393. 2001.
  2. Nguyen US, et al.: Factors associated with hallux valgus in a population-based study. Arthritis Care Res. 62(6):791–799. 2010.
  3. Ferrari J, et al.: Interventions for treating hallux valgus. Cochrane Database Syst Rev. 2004;(1):CD000964.

 

 

 

 



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