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2025年11月2日

料理中に肩がこるのは“台所の高さ”も原因?

ハイライト

料理中の肩こりは単なる疲労や加齢だけでなく、「台所の高さ」も大きく影響します。高さが合わないと肩や首に余分な負担がかかり、慢性的な痛みや姿勢不良につながることも。この記事では、肩こりの原因、台所環境の影響、改善策やストレッチ法まで、整形外科の視点から詳しく解説します。

目次

料理中に肩がこるのはなぜ?──肩こりの基本メカニズム

料理中に肩がこる、と訴える患者さんは非常に多く見られます。これは料理という日常動作が、意外にも肩や首に大きな負担をかけるためです。特に、切る・混ぜる・盛り付けるといった動作は長時間同じ姿勢を保つことが多く、筋肉に持続的な緊張を与えます。

筋肉の過緊張:僧帽筋や肩甲挙筋などが持続的に緊張し、血流が悪化する。

姿勢不良:猫背や前傾姿勢は、首や肩への負担を増やす。

精神的ストレス:自律神経の乱れが筋緊張を悪化させる。

運動不足:筋肉量や柔軟性の低下により、疲労しやすくなる。

 

しかし、これらに加えて見落とされがちなのが「環境要因」、特に台所の高さです。次章で詳しく解説します。

台所の高さが与える影響──“使いやすさ”と“肩こり”の関係

調理台が高すぎる場合、腕を持ち上げた状態で包丁を使うことになり、肩がすくんだ姿勢になります。逆に低すぎると、前かがみになり首や腰への負担が増します。

つまり、「高さが合わない=不自然な姿勢の強制」につながり、それが肩こりや腰痛の大きな原因となるのです。

一般的に、調理台の高さは「身長÷2+5cm前後」が目安とされています。

例えば身長160cmの人では、およそ85cm程度が使いやすい高さです。

ただし、切る作業・盛り付け作業など、動作の種類によって最適な高さは微妙に変わります。

整形外科や人間工学の研究では、台所の高さが肩や腰への負担に強く影響することが報告されています。特に、肩の外転角度が大きい(=腕を横に広げて作業する)ほど僧帽筋の筋電図活動が増加し、肩こりの発生率が高いことが示されています1)。

整形外科で見る“台所肩こり”──診断とリハビリの視点

  • 診断の流れ

クリニックを訪れる患者さんには、まず問診と身体所見を行います。

問診:料理時間、作業環境(台所の高さ、調理スタイル)、症状の出るタイミング。

身体所見:肩の可動域制限、僧帽筋の硬さ、姿勢の評価。

必要に応じた画像検査:頸椎や肩関節に器質的異常がないかを確認。

これにより、単なる筋疲労なのか、頸椎症・肩関節疾患などが関与しているのかを見極めます。

  • リハビリテーションの役割

ストレッチ:肩甲骨周囲筋、僧帽筋、胸鎖乳突筋を中心に柔軟性を高める。

筋力強化:肩甲骨を安定させる僧帽筋下部や菱形筋を鍛える。

動作指導:肩をすくめず、腕を体に近づけて使う工夫を指導。

生活指導:台所環境を見直し、無理のない姿勢で料理を行う習慣を作る。

整形外科では「台所肩こり」を単なる一時的な不快感ではなく、生活動作に密接した運動器の問題として捉えています。

今日からできる!台所環境の改善ポイント

  • 高さを調整する工夫

調理台が高すぎる場合:踏み台や厚底スリッパを使い、体の位置を高くする。

調理台が低すぎる場合:まな板の下に台を置き、作業台をかさ上げする。

  • 作業姿勢の工夫

包丁を使うときは肘が90度よりやや下がる高さが理想。

長時間同じ姿勢を避け、30分に1回は肩を回す。

重い鍋やフライパンを持ち上げる際は、膝を使って体全体で動作する。

  • 調理スタイルの見直し

食材の下処理を座って行う。

高さの異なる調理台を組み合わせて使う。

IHコンロやオーブンなど、機器の配置を工夫する。

肩こり予防のストレッチと生活習慣の工夫

  • 簡単ストレッチ

◾️肩回し運動:前後に大きく10回ずつ回す。

◾️僧帽筋ストレッチ:椅子に座り、頭を横に倒して反対の肩を下げる。

◾️胸のストレッチ:両手を後ろで組み、胸を張る。

  • 筋力強化

◾️セラバンドを使った外旋運動で、肩関節周囲筋を強化。

◾️体幹トレーニングで、姿勢保持力を高める。

  • 日常生活の工夫

◾️入浴や温熱で血流を改善。

◾️睡眠時の枕の高さを見直し、首・肩に負担をかけない。

◾️適度な運動(ウォーキングやストレッチ)を習慣化。

参考文献

  1. Nagata H, et al: Relationship between working height in the kitchen and shoulder muscle activity. J Human Ergol. 42: 15–22. 2013.
  2. 日本整形外科学会: 肩こり診療ガイドライン. 2020.
  3. 厚生労働省: 健康づくりのための身体活動基準2013.
  4. 井上雅之: 姿勢と筋骨格系への影響. 日本臨床整形外科学会雑誌. 33(4): 211–218. 2018.
  5. Kuroiwa T, et al: Effects of ergonomics intervention on musculoskeletal disorders in kitchen workers. Appl Ergon. 75: 1–7. 2019.

 

 

 

 



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