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2025年10月7日

“朝コーヒー”の功罪 ―覚醒・血糖・骨代謝に与える影響―

ハイライト

「朝のコーヒーで一日が始まる」──そんな人も多いでしょう。しかし、飲み方によっては“集中力アップ”にも“代謝低下”にもなり得ます。本稿では、朝コーヒーのメリットとデメリットを、整形外科の視点から解説します。

目次

朝のコーヒーがもたらす覚醒作用──カフェインの生理的効果

カフェインは脳内で「アデノシン」という眠気を誘発する物質の受容体をブロックし、神経伝達を活性化します1)。

その結果、集中力・注意力が一時的に高まり、朝の眠気を解消してくれます。

カフェインは交感神経を刺激し、心拍数と血圧を軽く上昇させます。

これにより脳や筋肉への血流が増え、「体が目覚める」感覚が得られます。

また、脂肪細胞から脂肪酸を放出し、エネルギーとして利用しやすくする“脂肪燃焼作用”も知られています。

1日のカフェイン摂取量の上限はおよそ400mg(コーヒー約3〜4杯)とされています。

朝に1〜2杯程度であれば、多くの人にとって覚醒作用を得つつ安全な範囲です。

空腹時コーヒーの落とし穴──血糖と自律神経への影響

空腹時にコーヒーを飲むと、カフェインやクロロゲン酸が胃酸分泌を促進します。

胃の粘膜を刺激し、胃痛や胸やけの原因になることがあります。

特に胃炎や逆流性食道炎のある人は、朝食後に飲むのが理想です。

ブラックコーヒーでも、カフェインにはインスリン感受性を一時的に低下させる作用があります2)。

そのため、空腹時にコーヒーだけを摂ると、血糖が乱高下しやすく、倦怠感や集中力低下につながります。

カフェインは交感神経を優位にします。

朝一番から過剰に刺激すると、心拍上昇・血圧上昇・冷え・筋緊張を引き起こすことがあります。

整形外科的には、筋緊張による肩こり・頭痛の原因になる場合もあります。

コーヒーと骨代謝の関係──カルシウム吸収と骨密度の視点

  • カフェインがカルシウムを“排出”する?

カフェインを過剰に摂取すると、尿中へのカルシウム排出量がわずかに増えることが報告されています3)。

この作用が長期的に続くと、骨密度の低下につながる可能性があります。

しかし、1日2〜3杯程度であれば問題はほとんどありません。

むしろ、牛乳入りコーヒー(カフェオレ)として摂取することで、カルシウム補給を同時に行えます。

  • コーヒーと骨粗鬆症の研究

複数の疫学研究では、1日3杯以内のコーヒー摂取では骨密度低下は認められない、またはむしろ骨折リスクが低いという報告もあります4)。

これは、コーヒーに含まれるポリフェノール(クロロゲン酸)の抗酸化作用が骨代謝を保護している可能性が示唆されています。

  • 骨代謝とホルモンの関係

一方で、閉経後女性ではエストロゲン低下により骨吸収が亢進するため、カフェインの影響を受けやすくなります。

整形外科で骨粗鬆症治療を行う場合、コーヒーの摂取量とカルシウム・ビタミンD補給のバランスが重要です。

健康的な“朝コーヒー習慣”をつくるポイント

  • 朝食と一緒に摂る

パンや卵など、軽くてもよいので何かを食べながらコーヒーを飲みましょう。

胃への刺激を抑え、血糖値の安定にもつながります。

  • 砂糖・ミルクの“落とし穴”

砂糖入りコーヒーやカフェラテは、糖分過多になりやすく、インスリンの過剰分泌を招きます。

血糖スパイクを避けるため、無糖または少量のミルクで調整するのが理想です。

  • タイミングを意識

起床直後は“コルチゾール”という覚醒ホルモンが自然に分泌されている時間帯。

この時間にカフェインを摂ると過剰刺激になるため、起床後1時間ほど経ってから飲むのがおすすめです5)。

  • 水分補給を忘れずに

コーヒーには軽い利尿作用があります。

コーヒーの前後でコップ1杯の水を飲むことで、脱水や頭痛を防げます。

整形外科的に見た“カフェインとの上手な付き合い方”

  • 筋緊張と姿勢の関係

カフェインによる交感神経の興奮は、筋肉の過剰緊張を引き起こすことがあります。

特にデスクワーク中にコーヒーを何杯も飲むと、肩甲帯や頸部筋が固まり、肩こり・頭痛を助長することがあります。

  • 適度なカフェインは“動く力”になる

運動前のコーヒーは、脂肪酸の利用を促し、筋収縮効率を上げる効果があります6)。

ウォーキングやストレッチ前に飲むと、代謝を高めながら集中力も上がります。

  • 骨と筋肉の代謝を守るために

整形外科的アンチエイジングの観点では、

  1. コーヒーは1日2杯まで
  2. 無糖+朝食後に摂取
  3. カルシウム・ビタミンDを意識的に補う

この3点を守ることで、骨や関節への悪影響を防ぎつつ、コーヒーの利点を生かせます。

参考文献

  1. Fredholm BB, et al.: Actions of caffeine in the brain with special reference to factors that contribute to its widespread use. Pharmacol Rev. 51(1):83–133. 1999.
  2. Battram DS, et al.: Caffeine ingestion does not impede the normal blood glucose response to an oral glucose tolerance test in humans. J Nutr. 136(10):2453–2457. 2006.
  3. Heaney RP: Effects of caffeine on bone and the calcium economy. Food Chem Toxicol. 40(9):1263–1270. 2002.
  4. Hallström H, et al.: Coffee consumption and risk of fracture in two cohorts of Swedish women and men. Am J Epidemiol. 178(6):898–909. 2013.
  5. Smith AP: Caffeine, performance, and mood. Curr Top Behav Neurosci. 52:73–89. 2023.
  6. Grgic J, et al.: Effects of caffeine intake on muscle strength and power: a systematic review and meta-analysis. J Int Soc Sports Nutr. 15(1):11. 2018.

 

 

 



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