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2025年9月30日

汗をかきにくい人は運動に弱い?体の冷却システムの秘密

ハイライト

汗は体温を調節する大切な冷却システム。汗をかきにくい人は熱がこもりやすく、運動の持久力や安全性に影響することがあります。本記事では、発汗の仕組みと役割、汗をかきにくい体質や疾患、運動との関係、そして整形外科的視点からの健康管理について詳しく解説します。

目次

汗の役割と体の冷却システム

人間は恒温動物であり、体温をほぼ一定に保つことが生存に直結しています。特に運動時は筋肉の活動によって大量の熱が産生されるため、効率的に体外へ放散する仕組みが必要です。その主役となるのが「発汗」です。

発汗による体温調節は、皮膚表面に分泌された汗が蒸発する際に熱を奪う「気化熱」を利用します。汗腺は全身に分布しており、特にエクリン腺は体温調節を担う中心的な存在です。

 

汗には大きく分けて二種類あります。

◾️温熱性発汗:体温上昇に応じて生じ、体を冷やす役割を持つ。

◾️精神性発汗:緊張やストレス時に手のひらや足裏などに生じる。

運動時に重要なのは温熱性発汗であり、これが適切に機能することで体温が一定に保たれ、運動を長時間安全に続けることができます。

汗をかきにくい人の特徴と原因

汗のかきやすさには個人差があります。遺伝的な要素や汗腺の発達度合いによって、発汗量には大きな差が生じます。幼少期に外遊びが少なかった場合、汗腺が十分に発達せず、大人になっても汗をかきにくい体質になることがあります。

発汗が極端に少ない、または全く出ない状態を**無汗症(anhidrosis)**と呼びます。これは以下のような原因で生じることがあります。

◾️自律神経系の異常(糖尿病性ニューロパチーなど)

◾️皮膚疾患(重度の乾癬、熱傷の瘢痕)

◾️薬剤の副作用(抗コリン薬など)

また、加齢による汗腺機能の低下も知られており、高齢者は発汗反応が鈍くなる傾向にあります。

一般的に女性は男性よりも発汗量が少ない傾向があります。さらに肥満の人は体表面積に対する熱放散効率が低いため、汗をかきにくい体質でなくても熱がこもりやすくなります。

発汗と運動パフォーマンスの関係

  • 冷却システムとしての重要性

運動時に効率よく汗をかけないと、体温が過度に上昇し、筋肉や神経の働きに影響が出ます。これにより、持久力が低下したり、集中力が乱れたりするため、スポーツパフォーマンスに直結します。

  • 脱水と疲労

汗をかくこと自体は体を冷やすために必要ですが、同時に水分と電解質の喪失を伴います。発汗が十分に行われない場合は体温が下がらず、逆に発汗が過剰な場合は脱水が進行するリスクがあります。したがって「汗をかきにくいこと」も「かきすぎること」も運動に不利に働くのです。

  • 発汗と筋肉の働き

筋肉は高温環境下では疲労しやすく、乳酸の蓄積や筋収縮効率の低下を招きます。特に汗をかきにくい人は体温上昇によって筋肉の出力が低下しやすく、持久系スポーツや夏季の運動ではハンディキャップになり得ます。

汗をかきにくい人が注意すべき症状とリスク

  • 熱中症のリスク

汗をかきにくい人は体温を下げにくいため、熱中症にかかりやすいという特徴があります。軽度では頭痛や吐き気、重度では意識障害や臓器障害に至ることもあります。

  • 筋肉・関節への影響

体温が適切に下がらない状態で運動を続けると、筋肉や関節に過剰な負担がかかり、けいれんや炎症が起こりやすくなります。整形外科的な観点では、熱による筋肉疲労がスポーツ障害のリスクを高める点も重要です。

  • 生活上の注意点

汗をかきにくい体質の人は、運動時だけでなく日常生活でも注意が必要です。例えば入浴時や真夏の外出時にも体温調節が難しく、熱のこもりを感じやすい傾向があります。

整形外科的視点からみた予防と対策

  • 発汗を補う工夫

汗をかきにくい人は、外部的に体を冷やす工夫が必要です。

◾️運動前後の十分な水分補給

◾️クーリングベストや冷却タオルの活用

◾️適切な衣類(通気性・吸湿性の高い素材)

  • 筋力と姿勢改善

体幹を中心とした筋力強化は、熱による疲労を軽減し、運動効率を高めます。特に整形外科リハビリでは、正しい姿勢と呼吸法を組み合わせることで筋肉への負担を減らし、安全に運動を継続できる環境を整えます。

  • 医学的チェック

発汗異常がある場合は、糖尿病や神経障害などの基礎疾患が隠れていないか医師による評価が重要です。当院でも、自律神経機能や体力レベルを評価し、患者ごとに適切な運動プログラムを提案しています。

参考文献

  1. Shibasaki M, Crandall CG: Mechanisms and controllers of eccrine sweating in humans. Front Biosci. 2010;2:685-696.
  2. Kenny GP, Jay O: Thermometry, calorimetry, and mean body temperature during heat stress. J Appl Physiol. 2013;114(3):816-830.
  3. Inoue Y, Shibasaki M: Regional differences in age-related decrements of the cutaneous vascular and sweating responses to passive heating. Eur J Appl Physiol. 1999;79(1):17-23.
  4. Sawka MN, Cheuvront SN, Kenefick RW: High skin temperature and hypohydration impair aerobic performance. Exp Physiol. 2012;97(3):327-332.
  5. Casa DJ, Stearns RL, Lopez RM, et al: Influence of hydration on physiological function and performance during trail running in the heat. J Athl Train. 2010;45(2):147-156.

 

 

 



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