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2025年11月8日

腱板断裂は自然に治る?治らない?—組織の特徴から見る治癒力

ハイライト

「腱板断裂は自然に治るのか?」という疑問を持つ方は多いですが、答えは“断裂の種類と大きさ次第”です。

腱板は血流が乏しく自然治癒しにくい一方、痛みの改善は十分可能です。

組織の治癒力と臨床経過を理解すると、手術と保存療法の選択がより明確になります。

目次

腱板とは?──肩を支える“4つの筋肉と腱”

棘上筋

棘下筋

小円筋

肩甲下筋

の4つの筋肉の腱が肩の付け根で一つの“袋状”になった組織です。

上腕骨を肩関節に引きつけて安定させる

腕を上げる・ひねる動きの補助

など、肩の安定性と運動に不可欠な働きを担っています。

 

腱板断裂は、

◾️加齢による変性(40〜60代以降に多い)

◾️転倒・重量物の挙上などの外傷

◾️スポーツの繰り返し動作

によって起こります。

特に棘上筋腱は血流が乏しく、最も断裂を起こしやすいとされています1)。

自然治癒の可能性──軽度断裂は治り得る?

部分断裂では、保存療法で痛みが改善し、機能が維持できるケースが多いことが報告されています2)。

部分断裂は腱の一部が残っているため、炎症の沈静化と筋力回復によって肩の安定性が確保され、生活動作は十分可能になります。

小さな断裂は、周囲の軟部組織が補助することで、症状の改善が期待できる場合があります。

ただし、組織として“完全に元通りに治る”とは限らない点には注意が必要です。

外傷性の小断裂は、血流のある部位で起こるため、自然治癒の可能性が比較的高いとされています。

治らない理由──血流の乏しさと断裂の進行

  • 腱板は“血流が乏しい”

腱板の特に棘上筋腱付着部は血供が極めて乏しく、組織学的にも修復能力が低いことが知られています1)。

そのため、一度完全に断裂した腱板は自然にくっつくことはほとんどないとされています。

  • 放置すると断裂が大きくなる

研究によれば、腱板断裂の約40〜50%は数年の経過でサイズが大きくなり、筋肉が脂肪変性を起こすこともあります3)。

断裂が進行すると:

腕が上がらなくなる

夜間痛が強くなる

上腕骨頭が上にずれ、関節軟骨がすり減る(関節症の原因)

などの問題が生じるリスクがあります。

  • 大断裂・巨大断裂では自然治癒はほぼ期待できない

大きい断裂では腱が縮んだり、筋肉が萎縮して脂肪変性を起こしたりするため、手術が必要となるケースが多くなります。

症状が良くなる理由──「治る」と「使える」は別

「腱板は治らない」と聞くと不安になりますが、実際には症状の改善と機能回復は十分可能です。

  • なぜ痛みは改善する?

☑️ 肩の炎症(滑液包・腱周囲)が落ち着く

☑️ 大胸筋・三角筋・広背筋などが肩の動きを補助

☑️ 姿勢改善で肩への負荷が軽減

これらによって、腱板が断裂していても快適な生活動作が可能になります。

  • 「断裂は残る」けれど「使える肩」になる

腱板断裂は構造的には残っていても、適切なリハビリにより

☑️ 痛みの軽減

☑️ 肩の安定性向上

☑️ 日常生活(洗濯・荷物運び)の改善

☑️ スポーツ復帰

が十分に可能です2)。

 

このように、“断裂が治る”と“機能が改善する”は別の話であることがポイントです。

整形外科クリニックでの関わり方──診断・治療・リハビリ

整形外科クリニックでは、腱板断裂を「治る・治らない」で判断するのではなく、今の症状・生活レベル・将来の肩の健康を総合的に評価します。

診断

・問診(夜間痛、腕が上がらないなどの症状)

・触診・徒手検査

・超音波検査(腱板の状態がその場で確認できる)

・MRI(断裂サイズ・脂肪変性の有無)

これらを組み合わせ、断裂の種類・大きさ・肩全体の状態を判断します。

保存療法が中心

多くの患者さんは保存療法で改善が期待できます。

・肩甲骨周囲筋のトレーニング

・三角筋・大胸筋の強化

・姿勢改善

・物理療法(温熱・電気・超音波)

・炎症が強い場合は注射

特に、正しい運動療法は腱板断裂治療の中心であり、エビデンスでも有効性が示されています2)。

手術が必要なケース

・外傷性の急性断裂

・大断裂・進行性断裂

・数か月の保存療法でも改善が乏しい

・40代以下の活動性の高い患者

などでは、腱板縫合術が検討されます。

再発予防と長期ケア

腱板断裂は“再発しやすい”ため、

・肩甲骨の安定

・過度な挙上動作の回避

・継続的な筋トレ

・職業・生活動作の指導

を通じて「使える肩」を長期的に維持します。

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参考文献

  1. Yamamoto A, et al.: The rotator cuff muscles: anatomy and pathology. J Shoulder Elbow Surg. 19(1):102–108. 2010.
  2. Kuhn JE, et al.: Effectiveness of physical therapy in treating atraumatic rotator cuff tears. J Bone Joint Surg Am. 95(21):1955–1963. 2013.
  3. Keener JD, et al.: Natural history of asymptomatic rotator cuff tears. J Bone Joint Surg Am. 97(2):89–98. 2015.

 

 

 

 



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