コラム・ブログ

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2025年11月16日

靴選びでケガが変わる?—スポーツシューズの科学

ハイライト

スポーツシューズは「デザイン」や「履き心地」だけで選ぶものではありません。

衝撃吸収・安定性・反発性などの性能が足の特徴や競技に合っていないと、膝・足首・足裏のケガにつながります。

靴の“科学”を理解することで、痛みの予防とパフォーマンス向上につながります。

目次

スポーツシューズはなぜ重要?──足への負荷と役割

スポーツ時、着地のたびに足には体重の2〜5倍の衝撃がかかります1)。

この負荷は、足 → 膝 → 股関節 → 腰へと連鎖し、適切な靴を履かないとケガの原因になります。

 

衝撃吸収:足裏・膝・腰への負担を軽減

安定性:足首のブレを防ぎ、捻挫や膝痛を予防

推進力:走行をスムーズにし、疲労を軽減

姿勢・フォームの補正:足の癖をカバーする

 

靴は「ただの道具」ではなく、身体を守る保護装置です。

シューズの三大性能──クッション・安定性・反発力

クッション性(衝撃吸収)

ミッドソールにEVA・TPU・エア等

かかと着地時の衝撃を緩和

膝痛・足底腱膜炎予防に重要

 

ただし柔らかすぎると、足がブレて逆にケガのリスクが増えるためバランスが大切。

安定性(ブレの抑制)

ヒールカウンター(かかとの硬い部分)がカギ

過回内(pronation)を抑える構造も重要

長距離や普段使いで特に必要

 

膝痛・シンスプリントなどを予防したい人は、安定性重視が向いています。

反発性(推進力)

カーボンプレートや高反発素材で前へ進む力を後押し

スピードを求める競技に向く

ただし足の筋力が弱い人には負担となることも

 

競技やレベルで必要度が変わるため、慎重に選ぶ必要があります。

競技ごとに異なる“最適な靴”の選び方

ランニング

必要:クッション性+安定性

初心者:安定性重視

長距離:クッション性

記録狙い:反発性の高いモデル

※扁平足は安定性シューズ、ハイアーチはクッション重視が基本。

バスケットボール

必要:横方向の安定性・グリップ力

ジャンプ着地の衝撃が大きい

カット動作が多く、横方向のブレを防ぐ必要あり

若年者はハイカットで足首保護が有効

サッカー

必要:フィット感・軽さ・スタッド選択

芝・土でスタッドの選び方が変わる

ひねり動作が多く、フィット性が重要

固すぎるスタッドは膝・足首負担につながる

バレー・テニス

必要:横方向の安定+クッション性

コート競技はジャンプ・方向転換が多い

インソールで衝撃吸収強化が有効

トレーニング(ウェイト)

必要:ソールの安定性

柔らかい靴は重心がブレる

パワー系は硬いソールが基本

ケガにつながる靴の特徴──過回内・過回外とアライメント

過回内(オーバープロネーション)

足が内側に倒れ込みすぎる。

起こりやすいケガ:

・シンスプリント

・膝蓋大腿痛

・足底腱膜炎

安定性シューズが適合

過回外(オーバーサピネーション)

足が外側に傾きやすい。

起こりやすいケガ:

・足首の捻挫

・腓骨筋腱炎

・疲労骨折

クッション性重視シューズが適合

サイズ不一致

・大きすぎる:足が前滑りして外反母趾に

・小さすぎる:爪の変形・黒爪・靴擦れ

→ 特につま先に1cmの余裕が目安。

クッションの劣化

500〜800km使用でクッション性は大幅に低下1)。

痛みが増えてきたタイミングが交換サインです。

整形外科クリニックでの関わり方──診断・歩行評価・靴の処方

評価(どこに原因がある?)

・痛みの部位

・X線・超音波での炎症確認

・足のアーチ(扁平足・ハイアーチ)

・足趾の機能(握力・外転筋)

・足首可動域

・歩行・ランニングフォームの分析

※靴より先に「足の問題」を見つけることが重要。

保存療法

・超音波・電気刺激

・足底のストレッチ

・トリガーポイント治療

・関節モビライゼーション

特に足底筋膜・アキレス腱の柔軟性はケガ予防に直結します。

リハビリ(再発予防まで含む)

・足内在筋トレ

・ヒラメ筋・腓腹筋ストレッチ

・体幹・股関節の安定化

・競技に合わせたフォーム修正

整形外科のリハビリは、靴の機能を最大限に活かすための重要な工程です。

↑↑ショートフットエクササイズでは、かかとと母指球(親指の付け根)を近づけるように意識すること、そして足のアーチを高く保つことです。かかと、母指球、つま先全体を床につけたまま、足の指を内側に寄せて「持ち上げる」イメージで行うと、より効果的です。

靴の選び方サポート

・足長・足幅の計測(3D測定も可能)

・競技・レベルに合わせたモデル提案

・インソール作成(既製 or カスタム)

・交換タイミングの指導

靴だけで症状が改善するケースも多く、整形外科と靴選びは密接に関係します。

参考文献

  1. Nigg BM, et al.: Running shoes and running injuries: mythbusting and the need for more studies. Br J Sports Med. 48(9):642–643. 2014.
  2. Murley GS, et al.: Foot posture and lower limb overuse injury: systematic review. J Foot Ankle Res. 2:15. 2009.
  3. Bishop M, et al.: Athletic footwear, foot biomechanics, and running-related injury. Sports Med. 36(7):569–580. 2006.

 

 

 



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