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2025年6月3日

“寝相が悪い”は体が正直な証拠? 睡眠中の無意識なリセット機能

ハイライト

「寝相が悪い=悪いこと」と思っていませんか?実はそれ、体の自然な“リセット”機能。整形外科的な視点から、寝返りや体勢の変化が健康維持に果たす役割をひも解きます。

目次

寝相とは?なぜ人は寝ている間に動くのか

寝返りのメカニズムと体への影響

寝返りとは、主に体幹を軸にして左右に回転する動きです。この動きは、複数の筋肉や関節の協調運動によって成り立っており、健康な身体では一晩に20〜30回行われるとされています。

 

関与する主な筋肉と関節

◾️頸椎・胸椎・腰椎:脊柱の柔軟性がなければスムーズな寝返りは困難です。

◾️腹斜筋・広背筋・大腿筋群:寝返りの回旋運動に寄与します。

◾️肩関節・股関節:体重移動の支点として重要です。

 

寝返りには、以下のような健康的効果があります。

長時間同じ姿勢でいると、関節包や筋膜が硬くなり、可動域が制限されやすくなります。寝返りはそれを防ぐ自然な運動です。

筋肉が動くことで静脈還流が促進され、血液やリンパの流れが良くなります。特に床ずれ(褥瘡)予防には重要な役割を果たします2)

圧迫された神経への負担を軽減するためにも、定期的な体位変換は必要です。

 

このように、寝返りは単なる「無意識な動作」ではなく、「生理的必要性に基づいた運動」と捉えるべきなのです。

“寝相が悪い”は本当に悪いこと?

「寝相が悪い」という表現は、幼少期に親から注意されたり、他人と寝る際に気を遣う要因となったりしますが、医学的には必ずしもマイナスとは言えません。

 

実際、寝返りが極端に少ない人のほうが、以下のような健康リスクを抱えることがあります。

  • 筋骨格系の痛み

頸部・肩・腰などに痛みを感じやすく、起床時の「こわばり」や「重だるさ」につながります。

  • 睡眠の質の低下

不自然な圧迫や熱のこもりが原因で、深い眠り(ノンレム睡眠)に移行しにくくなるケースもあります。

  • 神経障害や感覚異常

特定部位への血流障害により、しびれや感覚鈍麻が起こることもあります。

 

一方で、過剰な寝返りや暴れるような動きが目立つ場合は、むずむず脚症候群睡眠時行動障害といった睡眠障害の兆候の可能性もあります3)。この場合は、整形外科だけでなく神経内科・精神科的な評価も必要です。

寝相と整形外科疾患の関係

寝相は、整形外科領域においても重要な観察ポイントです。とくに以下のような症状や疾患と関係があります。

  • 頸部や肩のこり、五十肩(肩関節周囲炎)

寝ている間の姿勢が固定されすぎていると、肩関節の血流が悪化し、可動域制限を招くことがあります。適切な寝返りを打つことで、血流維持と関節の動的安定が保たれます。

当院では、首の痛みや肩こりに効果的な注射も実施しています!!

  • 腰痛・坐骨神経痛

寝返りがうまくできないと、腰部の一部に過剰なストレスがかかり、筋膜性腰痛や神経圧迫の原因となります。寝返りが可能な柔軟性と筋力が腰痛予防に直結します。

  • 股関節や膝関節の拘縮

特に高齢者や術後患者では、夜間の動きが減少しやすく、関節拘縮の温床となります。こうした症例では、リハビリテーションで寝返り訓練を導入することもあります。

このように、「寝返りができる身体」であることは、整形外科的にも非常に重要な健康指標となるのです。

リハビリテーションで考える“正しい寝返り習慣”とは

リハビリテーションの現場では、寝返りが「できるかどうか」だけでなく、「安全に、痛みなくできるか」を重視します。

寝返りを支えるリハビリのポイント

  • 体幹筋の強化

腹斜筋・腹横筋・腰方形筋などを鍛えることで、寝返り動作の安定性が向上します。

  • 関節可動域訓練

股関節・肩関節・脊柱の柔軟性を高めることで、無理なく寝返りを打てるようになります。

  • 起居動作訓練

ベッド上での寝返りから起き上がり動作までを一連で練習することで、転倒予防にもつながります。

  • 寝具の調整

マットレスの硬さや枕の高さなども、寝返りのしやすさに大きく影響します。とくに術後患者や高齢者には個別調整が有効です。

参考文献

1)中島章夫: 睡眠と身体運動. 理学療法ジャーナル. 41(9): 823-827. 2007.

2)竹林崇: 床ずれ予防における寝返りの重要性. 日本褥瘡学会誌. 10(3): 279-285. 2008.

3)堀江徹: 睡眠中の異常行動とその対策. 臨床精神医学. 47(2): 123-129. 2018.



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