2026年8月30日


股関節は、骨盤側の受け皿である「臼蓋(きゅうがい)」と、太ももの骨の先端にある球状の「骨頭」が、ボールとソケットのようにはまり合ってできている関節です。上下左右あらゆる方向に動かせる自由度の高さと、体重を支える安定性を両立させた、体の中でもとくに大きな関節といえます。
その骨と骨が直接こすれ合わないよう、表面を覆っているのが「関節軟骨」です。厚みは数ミリしかありませんが、弾力に富み、歩くたびに加わる衝撃をやわらげるクッションと、なめらかに滑らせる潤滑面の両方の役割を担っています。この軟骨が長い年月をかけてすり減り、骨同士がぶつかりやすくなることで、痛みや動きの制限が生じるのが「変形性股関節症」です。
軟骨がすり減ると、体はその負担を補おうとして骨の縁に「骨棘(こつきょく)」というトゲ状の出っ張りを作ったり、骨の内部に「骨嚢胞(こつのうほう)」という空洞ができたりします。こうした変化はレントゲンで確認でき、関節のすき間(関節裂隙)がどれだけ狭くなっているかとあわせて、進行度を判断する材料になります。
一般に、変形性股関節症は進み方によって次の4つの段階に分けて考えられます。
進行するほど、歩行や階段の昇り降り、しゃがむ動作、靴下を履く動作などが徐々に難しくなっていきます。一度すり減った軟骨は自然には元に戻らないため、「どの段階で気づき、そこから先の進行をいかに緩やかにするか」が治療の大きなテーマになります。

変形性股関節症は、明らかな原因が見当たらない「一次性」と、もともとの股関節の病気や形の問題が背景にある「二次性」に分けられます。欧米では一次性が多い一方、日本では二次性が大半を占め、その最も多い原因が「臼蓋形成不全」であることが知られています。
●生まれつきの股関節の形(臼蓋形成不全)
臼蓋形成不全とは、骨盤側の受け皿が浅く、骨頭を覆いきれていない状態のことです。受け皿が浅いと、体重を支える面積が小さくなるぶん、軟骨の限られた範囲に力が集中してしまいます。若い頃は筋力でカバーできて無症状のまま過ごせることも多いのですが、年月とともに軟骨のすり減りが進み、中高年になって初めて痛みとして現れるケースが少なくありません。乳児期に股関節脱臼の治療を受けた方や、家族に股関節の手術を受けた人がいる方は、とくに意識しておきたい背景です。
●加齢による軟骨のすり減り
関節軟骨は年齢とともに水分量が減り、少しずつ弾力を失っていきます。すると衝撃を吸収する力が落ち、同じ動作をしていても軟骨が傷みやすくなります。
●体重の増加
股関節には、静かに立っているときでも体重相当の力が、片脚で体を支える瞬間には体重の3〜4倍程度の力がかかるとされています。つまり体重が数キロ増えるだけで、歩くたびに股関節が受ける負担はその何倍にもなって積み重なっていきます。逆にいえば、減量は関節にとって非常に効率のよい負担軽減策でもあります。
●姿勢や動作のクセ
反り腰や骨盤の前傾・後傾、左右どちらかに体重をかけて立つクセなどがあると、股関節にかかる力が一部分に偏りやすくなります。また、お尻の筋肉(とくに中殿筋)が弱いと、歩くときに骨盤が左右にぐらつき、関節への負担が増える一因になります。
●過去のケガやスポーツ歴
若い頃の股関節の骨折や脱臼、大腿骨頭壊死などの既往があると、関節面の形が変わって二次性の変形性股関節症につながることがあります。
なお、臼蓋形成不全の頻度は女性のほうが高いことから、変形性股関節症も女性に多くみられる病気です。40〜50代で症状が出始める方も珍しくありません。
FAQ
Q
変形性股関節症は運動しても大丈夫ですか?
A
痛みが強い時期に無理な運動をするのは避けるべきですが、適切な強度の運動療法は、むしろ股関節を支える筋力を保ち、進行予防に役立つとされています。関節に体重をかけない姿勢での筋力トレーニングや、水中歩行・自転車といった衝撃の少ない運動が中心になります。どの種目をどの強度で行うかは進行度によって変わるため、専門家の指導のもとで始めることをおすすめします。
Q
どのくらいの年齢で発症しますか?
A
生まれつきの股関節の形(臼蓋形成不全)が背景にある場合、40代から症状が出始める方も少なくありません。20〜30代でも、長く歩いた後にそけい部が重だるい、あぐらがかきにくいといった形で違和感が出ることがあります。若いうちからのサインも見過ごさず、一度相談されることをおすすめします。
Q
すり減った軟骨は、リハビリで元に戻りますか?
A
残念ながら、一度すり減った関節軟骨が自然に再生することはありません。ただし、リハビリテーションの目的は軟骨を戻すことではなく、股関節にかかる負担を減らして進行を緩やかにし、痛みを抑えながら動ける状態を保つことにあります。筋力と柔軟性を維持できれば、同じレントゲン所見でも生活のしやすさは大きく変わります。
Q
痛いときは安静にしていたほうがよいですか?
A
強い痛みが出ている急性期は無理をせず休むことが大切ですが、痛みが落ち着いた後も動かさずにいると、筋力が落ち、関節が硬くなって、かえって痛みが出やすい状態になります。「痛みの出ない範囲で動かし続ける」のが基本的な考え方です。どこまで動かしてよいかの線引きは、診察のうえでお伝えしています。
Q
手術をすれば完全に治りますか?
A
人工股関節置換術は、痛みの軽減という点では高い効果が期待できる治療です。ただし、術後のリハビリテーションによる筋力回復や動作の再学習が、良好な経過を得るために欠かせません。また、脱臼を防ぐために避けたほうがよい姿勢など、術後に身につけていただく注意点もあります。手術を選ぶかどうかは、進行度と生活の困り具合をふまえて一緒に検討していきます。
参考文献
・日本整形外科学会 症状・病気をしらべる「変形性股関節症」
・日本股関節学会 一般向け情報
・厚生労働省 e-ヘルスネット「ロコモティブシンドローム」