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着地や切り返しで膝が「ガクッ」。女子選手に多い「前十字靭帯損傷」の治療と予防トレーニング

ハイライト

ジャンプの着地や急な方向転換で、膝が「ガクッ」と内側に崩れ、「ブチッ」という音とともに倒れ込む。これは前十字靭帯損傷の典型的な起こり方です。バスケットボールやサッカーなどで多く、とくに女子選手は男子より起こりやすいことが知られています。ケガの見分け方、手術とリハビリテーションの流れ、そして予防トレーニングで防げる可能性について解説します。

目次

前十字靭帯とは膝のどこにある、どんな靭帯か

膝の関節の中には、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)をつなぐ、2本の靭帯が十字に交差しています。前側にあるのが前十字靭帯(ACL)、後ろ側にあるのが後十字靭帯です。

前十字靭帯には、主に次のような役割があります。

この靭帯は関節の中にあり、血流が乏しいため、一度切れてしまうと自然にはつながりにくいという特徴があります。そのため、スポーツを続ける方では手術が検討されることが多いケガです。

ケガが起こる場面と、女子選手に多い理由

前十字靭帯損傷の多くは、相手とぶつかったときではなく、自分の動きの中で起こります(非接触型損傷)。

●起こりやすい場面

このとき、膝が内側に入り、つま先が外を向いた「ニーイン・トーアウト」と呼ばれる姿勢になると、靭帯に大きな負担がかかります。

●多い競技

バスケットボール、サッカー、ハンドボール、バレーボール、スキー、ラグビーなどで多くみられます。

●女子選手に多い理由

女子選手は、同じ競技の男子選手と比べて、前十字靭帯損傷が数倍起こりやすいと報告されています。理由はひとつではなく、次のような要因が重なっていると考えられています。

このうち、動きの癖や筋力のバランスはトレーニングで改善できる部分です。これが、後で述べる予防トレーニングが大切な理由です。

こんな症状があれば前十字靭帯損傷を疑う

ケガをした瞬間とその後には、次のような症状がみられます。

  • ケガの瞬間に「ブチッ」「ポキッ」という音や感覚がある
  • 膝が外れたような、ずれたような感じがする
  • プレーを続けられず、その場で倒れ込む
  • 数時間のうちに膝が大きく腫れる(関節の中の出血)
  • 膝が完全に伸びない、曲げにくい

一方で、腫れや痛みは2〜3週間ほどで落ち着き、普通に歩けるようになることも多いため、「もう治った」と思ってしまう方も少なくありません。ところが、靭帯が切れたまま運動に戻ると、膝が「ガクッ」と崩れる「膝くずれ」を繰り返し、そのたびに半月板や軟骨が傷んでいくおそれがあります。

診察では、すねの骨を前に引き出して、ゆるみがないかを確かめる徒手検査(ラックマンテストなど)を行います。レントゲンで骨折の有無を確認し、MRI検査で靭帯や半月板の状態を詳しく調べます。

治療の選び方と、競技復帰までのリハビリテーション

治療方針は、年齢、スポーツへの復帰希望、膝のぐらつきの程度、半月板などの合併損傷の有無をふまえて決めます。

◾️手術(靭帯再建術)

スポーツへの復帰を希望される方や、日常生活でも膝くずれがある方には、ご自身の別の腱(太ももの裏の腱や、膝のお皿の下の腱など)を使って新しい靭帯を作る手術が、関節鏡を用いて行われるのが一般的です。

◾️保存療法

スポーツをあまりしない方や、膝のぐらつきが少ない方では、筋力トレーニングを中心とした保存療法を選択することもあります。

◾️リハビリテーションの流れ(手術をした場合のおおまかな目安)

  • 手術前…腫れを引かせ、膝をしっかり伸ばせる状態に整える
  • 術後早期…膝の曲げ伸ばし、太ももの筋肉に力を入れる練習、松葉づえでの歩行
  • 術後数か月…スクワットなどの筋力トレーニング、バランス練習、軽いジョギング
  • その後…ジャンプ、切り返し、競技特有の動きの練習

術後のリハビリテーションで、とくに大切にしたいポイントは次のとおりです。

  • 膝をしっかり伸ばせる状態を早めに取り戻す。伸びきらないまま固まると、歩き方に影響が残りやすい
  • 太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)は手術後に落ちやすいため、早い時期から力を入れる練習を続ける
  • 痛みや腫れが強い日は無理をせず、運動量を調整する
  • ジョギングやジャンプの開始は、自己判断ではなく、筋力や膝の状態を確認してから

再建した靭帯は、手術後しばらくの間は強度が十分ではなく、時間をかけて体になじんでいきます。「痛くないから大丈夫」と早く動きすぎないことも大切です。

競技復帰までには、一般的に術後8か月から1年程度かかります。復帰の時期は、期間だけで決めるのではなく、筋力が左右でそろっているか、跳ぶ・止まる動きで膝が内側に入らないかなどを確認して判断します。リハビリテーションは長い道のりですが、焦らず一歩ずつ進めることが、再損傷を防ぐ一番の近道です。

ケガを防ぐ予防トレーニング

前十字靭帯損傷は、ウォーミングアップに予防トレーニングを取り入れることで、発生を減らせる可能性が示されています。サッカーのために作られた「FIFA 11+」などのプログラムが知られています。

ご家庭やチームで取り入れやすい内容をご紹介します。

  • 正しいスクワット…膝とつま先を同じ向きにそろえ、お尻を後ろに引くように曲げる
  • 片脚スクワット…鏡を見て、膝が内側に入らないことを確認する
  • 着地の練習…両脚でやわらかく、膝とつま先をそろえて着地し、音を小さくする意識で
  • ハムストリングスのトレーニング…ペアで足首を支えてもらい、ゆっくり前に倒れるノルディックハムストリングス
  • お尻の横の筋肉(中臀筋)のトレーニング…横向きに寝て脚を上げる、ゴムバンドで横歩きする
  • バランス練習…片脚立ちで、ボールキャッチなどを組み合わせる

これらは特別な道具がなくても、10分から15分ほどで行えます。練習前のウォーミングアップに組み込むと、無理なく習慣にできます。

一度前十字靭帯を損傷した方は、同じ膝の再損傷や、反対側の膝のケガのリスクが高いことも知られています。競技に復帰した後も、予防トレーニングを続けることが大切です。

大切なのは、週に2〜3回以上、継続して行うことです。成長期のお子さんをお持ちの保護者の方や、指導者の方にもぜひ知っていただきたい内容です。

当院では、診察と画像検査で膝の状態を確認したうえで、手術が必要な場合には専門の医療機関と連携し、術前後のリハビリテーションや競技復帰、予防のための動作指導まで一緒に取り組んでいます。膝をひねった後に腫れやぐらつきが続く方は、早めにご相談ください。

FAQ

よくある質問

Q

歩けるようになったので、病院に行かなくても大丈夫でしょうか?

A

前十字靭帯損傷は、腫れや痛みが引くと普通に歩けるようになることが多いケガです。しかし、靭帯が切れたまま運動を再開すると、膝くずれを繰り返して半月板や軟骨を傷めるおそれがあります。膝をひねって大きく腫れた場合は、症状が落ち着いていても一度受診して確認しましょう。

Q

中学生でも手術は受けられますか?

A

成長期の場合、骨が伸びる部分(成長軟骨板)への影響に配慮した方法や時期を検討する必要があります。一方で、ぐらついたまま運動を続けると半月板などを傷めるリスクもあるため、成長の段階や症状をふまえて、専門の医療機関と相談しながら方針を決めていきます。

Q

予防トレーニングは、どのくらい続ければ効果がありますか?

A

短期間で終わらせるのではなく、ウォーミングアップの一部として、シーズンを通して継続することが大切です。週に2〜3回以上、正しいフォームで行うことを目安にしてください。フォームに自信がない場合は、リハビリテーションの専門職にチェックしてもらうと安心です。

参考文献

・日本整形外科学会、日本膝関節学会 監修「前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン2019(改訂第3版)」南江堂
・日本整形外科学会 症状・病気をしらべる「膝前十字靱帯損傷」
・Hewett TE, et al. Biomechanical measures of neuromuscular control and valgus loading of the knee predict anterior cruciate ligament injury risk in female athletes: a prospective study. Am J Sports Med. 2005.



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