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肩の前側がピンポイントで痛む。五十肩と間違えやすい「上腕二頭筋長頭腱炎」とリハビリテーション

ハイライト

肩が痛いと「五十肩でしょう」と言われがちですが、痛む場所が肩の前側で、指で押さえられる範囲に限られているなら、上腕二頭筋の腱の炎症かもしれません。力こぶをつくる筋肉の腱が、肩の骨の溝を通る部分で擦れて炎症を起こす「上腕二頭筋長頭腱炎」です。五十肩との違い、放置したときのリスク、リハビリテーションでの改善方法を解説します。

目次

力こぶの腱が、なぜ肩で痛むのか

上腕二頭筋は、いわゆる「力こぶ」をつくる筋肉です。肘を曲げる筋肉として知られていますが、実は上端は肩の関節までつながっています。

この筋肉は上のほうで2本に分かれており、外側を走る長頭と、内側を走る短頭があります。このうち長頭腱は、上腕骨の前面にある結節間溝という細い溝の中を通り、そのまま肩関節の中に入り込んで、肩甲骨の上端(関節上結節)に付着しています。

つまり長頭腱は、腕を動かすたびに、骨の溝の中を滑車のロープのように行き来しているわけです。この構造上、次のような負担がかかります。

この摩擦と牽引が繰り返されると、腱と、それを包む腱鞘に炎症が起こります。これが上腕二頭筋長頭腱炎です。

発症しやすいのは次のような方です。

40代以降では、加齢に伴う腱の変性が背景にあることも多く、特別な運動をしていなくても発症します。

どんな動作で痛みが出るか

上腕二頭筋長頭腱炎の痛みには、いくつかの特徴があります。

●痛む場所が限られている

肩の前面、鎖骨の外端より少し下、腕の付け根のあたりです。「ここが痛い」と指1本で示せることが多いのが特徴です。押すと明確に痛みが出ます。

●特定の動作で強まる

●痛みが腕の前面に沿って広がる

肩から力こぶの方向へ、線状に痛みが下りてくることがあります。

●夜間痛があることもある

痛む側を下にして寝ると痛むため、寝返りで目が覚めることがあります。

一方で、肩全体が固まって上がらないという状態にはなりにくく、初期は動く範囲そのものは保たれていることが多いのが五十肩との違いです。

五十肩・腱板断裂との見分け方

肩の痛みは原因が複数あり、それぞれ対応が異なります。目安を整理します。

◾️上腕二頭筋長頭腱炎

肩の前面に限局した圧痛。特定の動作で鋭く痛む。動く範囲は比較的保たれる。

◾️五十肩(肩関節周囲炎)

痛みの範囲が肩全体から二の腕にかけて広く、指で示しにくい。特徴は動く範囲が狭くなること。自分で動かしても、他人に動かしてもらっても上がらない状態になります。髪を結ぶ、背中に手を回す動作が特につらくなります。

◾️腱板断裂

腕を上げる力が入らない。自分では上げられないのに、他人に持ち上げてもらうと上がる。腕を下ろしてくる途中の一定の角度で、支えきれずガクッと落ちることがあります。

◾️石灰沈着性腱板炎

数時間から1日で急激に激痛が出る。夜間や明け方の発症が多い。

診察では、痛みの部位の確認に加えて、腕をひねる動きや前方に上げる動きに抵抗を加えたときの痛みの再現性を確認します。超音波(エコー)検査は、この病気の評価にとても有用です。腱の腫れ、腱鞘に液体がたまっている様子、腱が溝から外れていないか(亜脱臼)などを、腕を動かしながらリアルタイムに観察できます。あわせて腱板の状態も同時に確認できるため、合併の有無を含めて判断できます。

放置するとどうなるか

上腕二頭筋長頭腱炎は、痛みを我慢しているうちに次のような経過をたどることがあります。

  • 痛みを避けて肩を動かさなくなり、二次的に関節が固まって五十肩のような状態になる
  • 炎症が続いて腱が細く弱くなり、最終的に断裂する
  • 腱が溝から外れて不安定になり、動かすたびに引っかかり感が出る

腱が断裂すると、力こぶが肘寄りに垂れ下がって見えることがあります(ポパイサインと呼ばれます)。意外なことに、断裂した瞬間にそれまでの痛みが消えることがあり、「治った」と誤解されることもあります。実際には肘を曲げる力や前腕をひねる力が多少低下するため、日常生活で不便を感じる方もいます。

また、長頭腱に炎症が起きている方は、その背景に腱板の傷みや肩の使い方の問題を抱えていることが少なくありません。腱の痛みだけを抑えて終わりにするのではなく、なぜ負担が集中したのかを確認することが、再発を防ぐうえで重要です。

治療とリハビリテーション、日常の工夫

治療は保存療法が基本です。

◾️急性期

  • 痛みの出る動作(腕を頭上へ上げる、重い物を持つ)を一時的に控える
  • 消炎鎮痛剤の内服や外用薬を用いる
  • 炎症が強い場合は、エコーで確認しながら腱鞘へ注射を行うことがあります。腱そのものに薬剤を入れると腱が弱くなるおそれがあるため、正確に腱の周囲へ届けることが重要です

完全に肩を動かさないでいると関節が固まってしまうため、痛みの出ない範囲での動きは続けます。

◾️リハビリテーション

炎症が落ち着いてきたら、腱への負担が減る肩の動き方を身につけていきます。

  • 肩甲骨の運動…肩をすくめる、下げる、寄せる動きを繰り返し、肩甲骨がスムーズに動く状態をつくる
  • 胸の前側のストレッチ…大胸筋や小胸筋が硬いと肩が前に巻き、腱が擦れやすくなります。壁に前腕をつけて体をひねり、胸の前を伸ばす
  • 振り子運動…体を前傾させ、腕の力を抜いて小さく円を描く。可動域の維持に有効
  • 腱板のトレーニング…チューブを使い、肘を体につけたまま外側・内側へひねる動きを軽い負荷で行う
  • 姿勢の改善…背中を丸めた姿勢では、腕を上げたときに腱が挟まれやすくなります。胸を開き、頭が前に出ない姿勢を意識する
  • 動作の再学習…腕を上げるときに、肩をすくめずに肩甲骨から動かすパターンを身につける

負荷を上げるタイミングが早すぎると痛みが戻りやすいため、痛みの反応を見ながら段階的に進めます。

◾️日常生活での工夫

  • 重い物を持つときは、手のひらを上に向けて片手で持たず、両手で体に近づけて持つ
  • つり革や高い棚に手を伸ばす動作は、体ごと向きを変えて行う
  • 寝るときは痛む側を下にせず、腕の下にクッションを入れて支える
  • デスクワークでは、キーボードやマウスを体に近い位置に置き、腕を前に伸ばし続けない
  • 肩を冷やさないようにする

◾️手術が検討される場合

数か月の保存療法で改善しない場合や、腱の亜脱臼、腱板断裂の合併がある場合には、関節鏡による手術が検討されます。傷んだ腱を切離して別の位置に固定し直す方法などがあり、術後もリハビリテーションによって肩の機能を戻していきます。

肩の痛みを「五十肩だから、そのうち治る」と決めつけてしまうと、必要な治療の時期を逃すことがあります。当院ではエコーで腱と腱板の状態を確認したうえで、痛みの原因に合わせたリハビリテーションを組み立てています。肩の前側を押すと痛む、という自覚がある方は、その場所を覚えて受診してください。

FAQ

よくある質問

Q

肩の前が痛みますが、腕は普通に上がります。それでも受診したほうがよいですか?

A

動く範囲が保たれている段階は、治療がしやすい時期です。この時期に負担のかかり方を修正しておくと、関節が固まる二次的な問題や、腱の断裂を防ぎやすくなります。痛みが2週間以上続くようであれば、一度確認しておくことをおすすめします。

Q

痛いけれど筋トレは続けてよいですか?

A

腕を頭上に上げる種目や、手のひらを上に向けて重量を持ち上げる種目は、腱に直接ストレスがかかるため、痛みのある時期は避けてください。下半身や体幹のトレーニング、肩甲骨まわりの軽い運動は続けて構いません。再開の順番については、リハビリテーション担当者と相談しながら決めましょう。

Q

力こぶの形が変わってしまった気がします。手術が必要ですか?

A

腱が断裂して力こぶの位置が下がることがあります。日常生活に大きな支障がなければ、必ずしも手術が必要とは限りません。ただし、肘を曲げる力や前腕をひねる力の低下が仕事や競技に影響する場合、見た目が気になる場合には手術が検討されます。まずは状態の評価が必要ですので、ご相談ください。

参考文献

・日本整形外科学会 症状・病気をしらべる「肩の痛み」
・日本肩関節学会 一般の方向け情報
・日本整形外科学会 肩関節疾患に関する診療情報



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