コラム・ブログ

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2026年5月11日

腹筋運動だけでは不十分?腰痛を予防し姿勢を整える、正しい「体幹トレーニング」とリハビリ

ハイライト

「体幹トレーニング=キツい腹筋運動」というのは、腰痛を招きかねない大きな誤解です。体幹の本当の役割は、背骨や骨盤をコルセットのようにガッチリと安定させることです。表面の筋肉(アウターマッスル)ではなく、深部の筋肉(インナーマッスル)を鍛えることが重要です。間違ったフォームでのトレーニングは、逆に腰や首を痛める原因になります。クリニックのリハビリテーションでは、正しい呼吸法と姿勢から、安全で効果的な体幹の使いかたを指導します。

目次

「体幹を鍛える=腹筋を割る」という大きな誤解

テレビや雑誌で「腰痛予防には体幹トレーニングが効く!」「ぽっこりお腹を解消して姿勢を良くしよう」といった特集を目にすることが多いと思います。その影響からか、腰痛にお悩みの中高年の方が、自己流で一生懸命に「上体起こし(仰向けから状態をガバッと起き上がらせる腹筋運動)」をされているお話をよく伺います。

しかし、整形外科やリハビリテーションの専門的な視点から言えば、「体幹を鍛えること=キツい腹筋運動をしてお腹を割ること」というのは、非常に危険で大きな誤解です。

体幹(たいかん)とは、文字通り「体の幹(みき)」となる部分であり、頭と手足を除いた胴体すべてのことを指します。つまり、お腹側だけでなく、背中側、胸、お尻回りまでを含めた大きな筒状の部分全体が「体幹」なのです。お腹の表面にある筋肉(腹直筋:シックスパックになる筋肉)だけをいくら鍛えても、それは体幹のほんの一部を鍛えたに過ぎません。

体幹の本当の役割は「天然のコルセット」

では、健康な生活を送るために本当に必要な「体幹の力」とは何でしょうか。
それは、重たい物を持ち上げるような爆発的な力ではなく、立っている時や歩いている時に、背骨や骨盤がグラグラしないように「安定させる力」です。

私たちの背骨(脊椎)は、ブロックのように骨が積み重なっているだけで、それ自体では自立できません。この不安定な背骨を、お腹の奥深くから前後左右にぐるりと囲み、内臓を包み込むように支えているのが「インナーマッスル(深層筋)」と呼ばれる筋肉たちです(腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋群など)。

これらのインナーマッスルがしっかり働くと、お腹の中の圧力(腹圧)が高まり、まるで医療用の硬いコルセットを巻いた時のように、背骨と骨盤がガッチリと安定します。この「天然のコルセット」が機能している状態こそが、真の「体幹が強い」状態なのです。

間違った腹筋運動が、かえって腰痛を悪化させる理由

「天然のコルセット」が弱いまま、自己流で激しい腹筋運動(上体起こし)を行うと、一体どうなるでしょうか。

上体起こしは、お腹の表面にあるアウターマッスルを強く収縮させる運動です。この時、背骨には「前に強く折り曲げられる」という非常に大きな圧力(圧縮ストレス)がかかります。特に中高年の方や、すでに腰痛をお持ちの方は、背骨の間にあるクッション(椎間板)が傷んでいたり、腰の関節がもろくなっていたりすることがあります。
その状態で背骨を強く曲げる運動を繰り返すと、椎間板ヘルニアを誘発したり、腰の関節に炎症を起こしたりして、腰痛を予防するどころか、かえって痛みを悪化させてしまう危険性が高いのです。

また、表面の筋肉ばかりが強くなると、体の前後のバランスが崩れて猫背になりやすくなり、肩こりや首の痛みの原因になることもあります。

インナーマッスルを目覚めさせる! 正しい体幹トレーニングの基本

腰痛を予防し、姿勢を良くするための正しい体幹トレーニングは、決して息を切らして汗をかくような激しいものではありません。インナーマッスルを目覚めさせるための、地味ですが非常に効果的な基本の運動をご紹介します。

  • ドローイン(腹式呼吸を使ったトレーニング)
    インナーマッスルの代表である「腹横筋」を鍛える最も基本的な方法です。
  1. 仰向けに寝て、両膝を立てます。
  2. 鼻から大きく息を吸って、お腹を大きく膨らませます。
  3. 次に、口から「ふーっ」と細く長く息を吐きながら、お腹を背中の方へペタンコにへこませていきます。
  4. お腹が一番へこんだ状態(おへそを背骨に近づけるイメージ)を保ちながら、浅い呼吸を続けて10秒キープします。
    これを5回〜10回繰り返します。腰に負担をかけずに「天然のコルセット」を締める感覚を養うことができます。
  • バードドッグ(四つ這いでのバランス訓練)
    背中側のインナーマッスル(多裂筋)とお尻の筋肉を鍛えます。
  1. 床に四つ這いになり、背中を床と平行に真っ直ぐに保ちます(腰が反ったり丸まったりしないように)。
  2. 右手と左足(対角の手足)を同時に床から離し、床と平行になるように真っ直ぐ伸ばします。
  3. グラグラしないように体幹でバランスを取りながら、5秒キープします。
  4. ゆっくり元に戻し、反対側(左手と右足)も同様に行います。

クリニックで行うリハビリテーションで、ロコモを防ぐ強い体へ

「動画を見てやってみたけれど、合っているかわからない」「腰が痛くて四つ這いになれない」といった方も多いと思います。体幹のインナーマッスルは、自分で動かしている感覚(効いている感覚)が掴みにくいため、最初は専門家の指導を受けることが非常に重要です。

当クリニックのリハビリテーションでは、理学療法士が患者様の体に直接触れながら、「今、ここの筋肉を使っていますよ」「腰が反りすぎているので、少し骨盤を丸めましょう」と、一人ひとりの状態に合わせて的確にフォームを修正します。

正しい体幹の使い方が身につくと、腰痛の軽減だけでなく、歩幅が広がってつまずきにくくなったり、長時間立っていても疲れにくくなったりと、将来の寝たきり(ロコモティブシンドローム)を防ぐための大きな力となります。
「筋トレは辛いから苦手」と敬遠されていた方も、医療機関で行う安全で正しい体幹トレーニングを、ぜひ当クリニックのリハビリテーションで体験してみてください。皆様の健康で活動的な毎日を、私たちが全力でサポートいたします。

参考文献

・日本整形外科学会「腰痛症」「ロコモティブシンドローム」
・日本理学療法士協会「体幹機能の評価と理学療法」
・臨床スポーツ医学会関連書籍および最新の知見に基づくリハビリテーションガイドライン

 



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