コラム・ブログ

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2026年9月9日

膝の内側の少し下が痛む。ランナーや中高年に多い「鵞足炎」の原因とリハビリテーション

ハイライト

膝の痛みというと「軟骨がすり減ったのでは」と心配される方が多いのですが、痛む場所が膝の内側の少し下、すねの骨の内側であれば、原因は関節ではなく腱にあるかもしれません。3本の筋肉の腱が集まる「鵞足」に炎症が起きた鵞足炎です。ランナーだけでなく、変形性膝関節症をお持ちの中高年の方にも多くみられます。痛む場所で見分けるポイントと、リハビリテーションでの治し方を解説します。

目次

「鵞足」とは膝の内側のどこにあるのか

膝の内側を手で触っていくと、膝のお皿の下端よりさらに数センチ下、すねの骨(脛骨)の内側にたどり着きます。ここに、太ももから伸びてきた3本の筋肉の腱が集まって付着しています。

この3本の腱が扇のように広がって並ぶ様子が、ガチョウの足の水かきに似ていることから「鵞足(がそく)」と名付けられました。鵞足の下には、骨との摩擦を減らすための滑液包という薄い袋があります。

鵞足炎とは、この腱と滑液包に、繰り返しの摩擦や引っ張りによる炎症が起きた状態です。関節の中ではなく、関節の外側にある軟部組織のトラブルであることが、この病気を理解するうえで大切なポイントです。

主な症状は次のとおりです。

腫れは目立たないことが多く、膝に水がたまることもあまりありません。痛む範囲が指1本で示せるほど限局しているのも特徴です。

鵞足炎が起こる原因と、なりやすい人

鵞足に集まる3本の筋肉は、いずれも膝を曲げる働きと、すねの骨を内側にひねる働きを持っています。同時に、膝が内側に崩れるのを防ぐブレーキ役も担っています。そのため、次のような状況で負担が集中します。

●走る動作の繰り返し

着地のたびに膝が内側に入る動きを、鵞足の筋肉が支え続けます。距離を急に伸ばした、坂道やトラックのカーブを走る量が増えた、シューズを替えた、といった変化がきっかけになります。

●膝が内側に入る動作の癖

片脚立ちやスクワットで膝がつま先より内側に入る方は、鵞足への負担が大きくなります。お尻の筋肉(中臀筋など)の働きが弱いと、この崩れが起こりやすくなります。

●変形性膝関節症に伴うもの

膝がO脚方向に変形すると、内側にかかる張力が増し、鵞足部に炎症を起こしやすくなります。中高年の方が「膝の内側が痛い」と受診されたとき、関節の変形だけでなく鵞足炎が痛みの主役になっていることは珍しくありません。膝の変形の程度と痛みの強さが一致しない場合、この鵞足炎が隠れていることがあります。

●その他の要因

つまり鵞足炎は、スポーツをする若い方から、運動習慣を始めたばかりの中高年の方まで、幅広く起こりうる状態です。

膝の内側が痛む他の病気との見分け方

膝の内側の痛みには複数の原因があり、対応が異なります。目安として次のように整理できます。

◾️鵞足炎

痛むのは関節の線より下、すねの骨の内側。押すと限局した圧痛がある。膝を曲げる動作や階段の上りでつらい。

◾️内側半月板の損傷

痛むのは関節の線そのもの。膝を深く曲げたときやひねったときに痛み、引っかかり感やクリック音、水がたまることがある。

◾️内側側副靭帯の損傷

外力が加わったケガの後に、関節の線をまたぐ範囲が痛む。膝を外側へこじるようなストレスで痛みが強まる。

◾️変形性膝関節症

関節の線に沿った痛みと、動き始めのこわばり、正座やしゃがみ込みの困難、膝の変形を伴う。

◾️膝蓋大腿関節や膝蓋腱の問題

痛むのはお皿の周囲や下端で、内側ではない。

診察では、痛みの場所を指で特定していただき、圧痛の位置と、膝を動かしたときの痛みの再現性を確認します。レントゲンで関節の変形の程度を評価し、超音波(エコー)検査を用いると、鵞足部の腱の腫れや滑液包に液体がたまっている様子をその場で確認できます。半月板や靭帯の損傷が疑われる場合には、MRI検査を検討します。

治療の進め方とリハビリテーション

鵞足炎は、多くの場合、保存療法で改善します。ただし、痛みを我慢して同じ動作を続けていると慢性化しやすいため、早めに負担を減らすことが回復への近道です。

◾️急性期(押すと強く痛む時期)

  • 痛みの出る動作を一時的に控える。ランニングは距離を減らすか休む
  • アイシングを1回10分から15分程度行う
  • 消炎鎮痛剤の内服や外用薬で炎症を抑える
  • 炎症が強い場合は、エコーで確認しながら鵞足部に注射を行うこともあります

完全に安静にする必要はありません。痛みの出ない範囲で日常生活を続けたほうが、筋力低下を防げます。

◾️回復期のリハビリテーション

痛みが落ち着いてきたら、原因となっている柔軟性と筋力の問題に取り組みます。

  • ハムストリングスのストレッチ…椅子に浅く座り、片脚を前に伸ばして踵を床につけ、背筋を伸ばしたまま骨盤から前に倒す。20秒から30秒を数回
  • 内転筋(内もも)のストレッチ…床に座って足の裏どうしを合わせ、膝を外に開く。反動をつけない
  • 中臀筋のトレーニング…横向きに寝て、上の脚をゆっくり真横に上げる。骨盤が後ろに倒れないよう注意する
  • 大臀筋のトレーニング…仰向けで膝を立て、お尻を持ち上げるヒップリフト
  • 片脚立ちの安定練習…鏡を見ながら、膝が内側に入らない位置で保持する
  • スクワットのフォーム修正…膝がつま先の方向と一致するように、股関節から折り曲げる

◾️負担を減らす環境の調整

  • 足のアーチが崩れている場合はインソールを検討する
  • ランニングシューズの摩耗を確認し、必要なら交換する
  • 走る路面を、傾斜の少ない場所に変える
  • 練習量を戻すときは、1週間で1割から2割程度の増加にとどめる

多くの方は、数週間から2か月ほどで痛みが軽くなります。ただし、フォームや筋力の問題を残したまま元の運動量に戻すと再発します。痛みが消えた後こそ、リハビリテーションで身につけた動きを続けることが大切です。

再発を防ぐ動作のコツ

日常生活のなかで、次のような点を意識すると鵞足への負担を減らせます。

  • 階段を上るとき、膝を内側に倒さず、股関節とお尻の力で体を持ち上げる
  • 椅子から立ち上がるとき、足を肩幅に開き、膝とつま先の向きをそろえる
  • 長時間の正座や、脚を組んで座る姿勢を避ける
  • 運動前には動的なウォーミングアップを行い、運動後に静的ストレッチで内ももと裏ももを伸ばす
  • 寝るときに膝の内側が触れて痛む場合は、膝の間にクッションを挟む
  • 体重が増えてきた時期は、膝への負担も比例して増えることを意識する

膝の内側の痛みを「歳だから」「使いすぎただけ」と片付けてしまうと、原因が違ったときに遠回りになります。当院ではエコーを含めた検査で痛みの発生源を確認したうえで、リハビリテーションの計画を立てています。押すとピンポイントで痛む場所がある方は、その位置を覚えて受診してください。診断の大きな手がかりになります。

FAQ

よくある質問

Q

鵞足炎と診断されました。運動は完全に休むべきですか?

A

痛みが強い時期は、痛みの出る動作(走る、階段を上るなど)を減らす必要がありますが、完全な安静は必ずしも必要ありません。痛みの出ない範囲での歩行や、上半身・体幹のトレーニング、水中運動などは続けて構いません。使わない期間が長いほど筋力が落ち、復帰後に再発しやすくなります。

Q

温めるのと冷やすのは、どちらがよいですか?

A

押すと強く痛み、熱感がある急性期は冷やすほうが楽になります。痛みが落ち着いて、動かし始めのこわばりが主な症状になってきたら、入浴などで温めて血流を促すほうが動かしやすくなります。時期によって使い分けるのがポイントです。

Q

どのくらいで治りますか?再発しやすいですか?

A

保存療法で数週間から2か月程度で軽快する方が多いです。ただし、膝が内側に入る動作の癖や、内もも・裏ももの硬さ、お尻の筋力不足が残っていると再発しやすくなります。痛みが取れた後もストレッチと筋力トレーニングを2、3か月は継続することをおすすめします。

参考文献

・日本整形外科学会 症状・病気をしらべる「膝の痛み」
・日本臨床スポーツ医学会 膝関節障害に関する提言
・日本整形外科学会 変形性膝関節症診療ガイドライン



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